▲欧州的登山生活▲
△第104号: ご返事 (英国の山岳救助隊)
- 発行日
- 2011/01/05
- 発行者・筆者
- まさ (坂野正明)
まさです。
あけましておめでとうございます。 この年末年始は山に入られた方もいらっしゃると思います。 僕自身は、フランスに
10日間の氷壁登攀の旅に行く予定だったの ですが……、直前にインフルエンザにかかってしまい、
旅行予定はすべてキャンセル、財布だけが軽くなってしまって、 自身はベッドの上で高熱でうなっていたものでした。
明日から一時帰国して、来週末に八ヶ岳に行く予定なので、 今度こそ、と思っております。 入山の頃までにはすっかり快癒していると 期待して(日本で、別型のインフルエンザにかからないよう、 気をつけなくては!)。
もうひとつ、最近でショックだったのは、僕が今まで使っていた ウェブサイトが全面閉鎖されたことでした……。このメルマガと 連動して更新されていたウェブサイトです。ある日、 見に行くと、ウェブページがすべて消えていました。 元々はグー(goo)が提供していた無料ウェブページで、その後、 ライコス(lycos)、インフォシーク(infoseek)、楽天、とオーナーは 替わりながらもユーザー側から見ると、アドレスが変化したくらいで 変わりなく、10年近く続いていたものでした。いかに無料だったとはいえ、 突然の閉鎖はショックでした。
幸いバックアップは取っていたので、データは 全て(のはず)手元に残ってはいます。とはいえ、新しいホストを見つけて 一からサイト構築しないといけないため、手間がかかります。 これを機会に構成やシステムも根本的に見直そうと、調査も始めました。 Drupal を使うのが現在の有力候補です。 いずれにせよ、しばらくは新ウェブサイト構築に手間と時間とを かけることになります。ただでさえ更新が滞りがちなところに、 相当な量の作業が加わることになって不本意なのですが……、 やむを得ません。いずれにせよ、今まで書きためた文書が ただ雲散霧消するのを眺めているわけにはいかないので、 可及的速やかに対応策を探ります。
以上の事情により、今回は、前回に予告した大雪山縦走の記録は 無しで、次回に回します。その頃までにはウェブサイトの形が 整っていることを願って(何週間かかかりそうです)。 今回、昨年頂いた質問メイルへの 回答の最終回を載せることで、メルマガ本文とします。 新年スペシャル(?)として、いつもより少し長めになっています。 では、本年もどうぞよろしくお願い致します。
目次
おたよりへの御返事 〜〜 イギリスの山岳救助態勢 〜〜
神奈川県の下山家さんから頂いたお便り(第97号)への 御返事のつづき、最終回です。 最初に、下山家さんからのお便りを再掲します。
私はこちらでは社会人山岳会(http://homepage1.nifty.com/bac/) に所属して山を楽しんでいます。年間計画を決めて、平日に集会を して(イギリスの山岳会ではパブミーティング)週末に山行したり と似ているところが多いですね。たぶん日本の山岳会のルーツはイ ギリスにあるのではないかと思います。すごいと思うのはイギリス の山岳会はどこもヒュッテを所持しているところです。資産家の寄 付による物なのかな?と想像しています。会員の年会費だけじゃ買 えないですよねきっと。あと驚いているのが山岳救助隊の存在です。 その数80チームぐらいあります。どこもボランティアによって運営 されています。それだけ自然が豊富なのか、遭難する人が多いのか。 いろいろ疑問が浮かんできます。
第102号で、イギリスの山岳会所有の ヒュッテの例として、ボウライン登攀会のヒュッテを挙げました。 まず、そのつづきです。
同ヒュッテの地権者は土地の農家です。 地権者の厚意で安く使わせてもらっています(毎年、ウイスキーの ボトルを 2、3本持参するのが代価(!)です)。 土地の値段が日本よりはるかに安い英国だから 可能なのでしょうね(日本ならそれでは固定資産税にも足りなさそう)。
一方、ヒュッテの建物は同山岳会の所有物です。 最初に建てる時には、地方公共団体のスポーツ振興予算の 公募(?)が運良く当たったため、強力な財政援助があったと 聞いています。これは、他の山岳会のヒュッテでも同様のようで、 ヒュッテに泊まると、「宝くじ基金 1992」とかそういうプレートが 部屋の隅にかけられているのがよく見かけられます。 そういう意味で、下山家さんご推測の(ヒュッテ建設費用は)「資産家の寄付」とは 当たらずして遠からずでしょうか。ここで言う「資産家」とは、 地方公共団体や公共財団であることが多いというのが僕の印象です。
ボウライン登攀会ヒュッテの普段のメンテナンスは、会員の自助努力で 大半がなされています。英国人はそもそも DIY(Do It Youself; 日曜大工のこと)が大好きで 誇りを持っていますし、また会員の中にはプロの配管屋とかもいますから、 有志ボランティアで相当のことが行なわれます。 なお、こういったヒュッテでは、利用者は、出発前にヒュッテを きれいに掃除していくのが常識です。端的には、自分が使う以前よりも 去る時の方が美しく、という精神です。もし使う機会がありましたら、 どうぞお忘れ無きよう。
昨年、ボウライン登攀会は、洗面所と風呂場とを全面改装しました。 これはさすがにボランティアの域を大きく超えるので、100万円くらい かかったと聞きます。今年は、ヒュッテ内に乾燥室を設置する計画で、 やはり相当額がかかります。 ボウライン登攀会の場合、会員年会費、ヒュッテ利用費に加えて、 会が一年に一度主催する(一般参加の)登山レースによる 収入がそれなりにあるので、長い年月の間にはそれくらいの 財政的余裕ができた、ということのようです。
ちなみに、会員によるヒュッテ利用料は 1泊 400円です。 ドタキャンも許されます。雨がちのウェールズで、 一日の終わりにヒュッテに帰還して、熱いシャワーを浴びて 暖房の効いた室内でソファーに腰かけて紅茶と茶菓子とを 頂きつつくつろぐ……という環境は、一度味をしめると手放せません。
次に、 山岳救助隊ですが、おっしゃる通り、どこも基本的にボランティアです。 英国の山で遭難した場合、110番(実際は 999番)して、つまり警察に電話をかけて 救助を要請します。その後、警察から山岳救助隊に出動依頼がいく、という形です。
なお、ボランティアと言っても、装備は半端ではなく、大きなところだと ヘリコプターまで所有しています。予算のやりくりは、どの救助隊も 頭の痛い問題のようです。多少は、地方政府や警察などからの補助が あるとはいえ、予算には全然足りないのが実情と伺っています。 登山基地村に行くと、いたるところに山岳救助隊への募金箱が設置されて いますし、時には募金運動が展開されていますが(たとえば、地方で 何かイベントが催された時に、その利益の一部が寄付される)、 それでたとえばヘリコプターまで維持するのは大変だろうことは 想像に難くありません。結果、救助隊員の持ち出しになること(たとえば ガソリン代)も少なくない、と聞きます……。なお、言うまでもなく、 ボランティアの言葉通り、救助隊員の仕事への報酬はゼロです。
なお、英国では、同様のシステムは山岳救助隊だけでなく通常の警察に さえあります。つまり、警察官の一部は完全なボランティアです。 当然、誰にでもできるわけではなく、資格を持った人、端的にはかつて 現場で本職として働いていた人が主だと聞きます。また、 できる(許される)仕事も制約されます。たとえば拳銃を持つことは無いのでしょう。 それでも、深夜のパトロールに出かけたり、と重責なのは変わりありません。 靴代は支給されるそうですが……、文字通り、靴代実費を賄えればラッキー、 と言う程度の少額で、仕事自体は純粋なボランティアだと聞きます。
なぜ山岳救助隊の数が多いのかは……存じません。 遭難する人が相対的に多いのかどうか、比較したことがないので、 それも僕には分かりません。 山を甘く見た人の遭難が少なくないのは、英国も日本も同じでしょう。 ただし、自然の豊富さでは、英国は日本の比ではありません。 英国はこれ全土牧場に近く、山の奥深さはごく一部の例外を除いて たかが知れていますから。
ただ、ここも文化的な差があるかも知れません。 日本だとしばしば「冬山に行って遭難するなんて、馬鹿なことした のはお前の責任。死ぬなり生きるなり勝手にしろ」という言葉が しばしば公然と語られます。英国では、少なくともそれが 公然と語られることはほぼありません。理由がどうあれ、 誰かが困難な立場にあれば、自分のできる範囲で助けを差し伸べるのが 美徳とされています。義務ではないので、個人の良識に任されますが。
相通じる話として、たとえば、日本(東洋)は予防医療では世界の最先端だと思います。 各職場で毎年健康診断なんて、英国では考えられません。 人間ドックという概念もそもそもありません。 今や、世界第二の肥満大国と化しているのに……。 しかし、もし病気になれば助けてやる、つまり入院まで含めて 全て無料で医療を面倒みるというのが、英国の医療システムです。 結局、「病気になるのは本人が一番嫌でしょう」という各自の 動機に頼っているシステムということになるでしょう。 別に各自がそんなことを意識しているとは思いませんが、 それが当たり前、というのが英国人の感覚です。
山岳遭難も同じことかと感じます。 「遭難したくないのは本人が一番でしょう」という各自の動機に頼り、 それでももし遭難が起これば、助けてやる、というシステムですね。 遭難者が出た時に救助隊が無ければ助けるのも至難の業なので、 各地で山岳救助隊が組織されているのでしょうか。これは想像になりますが。
もちろん、世の中これ全てバランスですから、あまりに非常識な救助要請が あるたび、山岳救助隊の出動は有料にした方がいいのではないか、 という議論が時折なされてはいます。日本で、膝すりむいたと言って 救急車を呼ぶ人が(稀ながら)いるのと同じことで、英国で、山岳救助隊を 無料タクシーのように思っているのか、という非常識な人が全くいない わけではありませんから……。
以上です。 下山家さん、御返事が完了するのに 1年近くかかってしまった ことをお詫びします。参考になりましたら幸いです。
次回予告
次回は… 「大雪山縦走の記」
See you later!
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