サイディング・スプリング彗星と地球と人類と

2014年10月19日の晩(世界標準時)、サイディング・スプリング彗星 (C/2013 A1)が火星に最接近しました。彗星の核は直径わずか 700メートル、彗星としては極めて小さいものです。しかし、これが特異だったのは、火星に衝突しそうなほどのごく近いところを通ったことです。火星中心からの距離わずか 11万キロメートル、宇宙的にはニアミスもいいところです。人類が知る限りにおいて、火星と彗星の抜群に最接近記録です。

サイディング・スプリング彗星が発見されたのは、わずか 1年半あまり前、2013年1月に過ぎません。軌道として、火星に衝突しそうだ、ということで注目を集めました。その後の詳細な観測の結果、実際に衝突するには至らず、「かすめる」だけ、ということが分かりました。衝突は免れたとは言え、たとえば NASAが火星上に送っている探査機への影響などには不安が残る、とされています。

この事件に関して、ユニバース・トゥデイ(Universe Today)に掲載されたティム・レィエズ(Tim Reyes)による記事(英語)
"Comet Siding Spring is a close call for Mars, wake up call for Earth"
はなかなかよく書けています。題名を邦訳すれば、
「サイディング・スプリング彗星、火星にとって危機一髪(close call)、地球にとって危機警鐘(wake up call)」
くらいになります。

「危機警鐘」とは何でしょう? お隣の火星にサイディング・スプリング彗星のようなニアミスがあるならば、同じような彗星なり隕石なりが地球に衝突する可能性も常にあることを思い出させてくれた、という意味です。実際、白亜紀末の恐竜をはじめとする生物の大量絶滅は、(チクシュルーブのクレーターを作った)大隕石の地球への衝突の結果ということが定説になっています。推定直径 10kmのチクシュルーブの隕石に比べれば、サイディング・スプリング彗星(700m)は小振りとは言え、現環境に特化している現世人類を絶滅または壊滅的打撃を与えるのには十分かと推測します。直径 700mの岩が秒速60kmで衝突した時の衝撃とその後の地球環境の激変は想像を絶することでしょう。そしてもちろん、直径 10km級の隕石が地球に衝突する可能性すら、当然あります。大きければ大きい程可能性は減るとは言え、ゼロではありません。

一方で、別の問題は、小さければ小さいほど、早期発見が困難なことです。十分に大きいと言えるサイディング・スプリング彗星が発見されたのはわずか 1年半前です。人類の科学文明を持ってして早期発見は完全に不可能か、と問われると、実はそんなことはなくて、現在の技術でも、少なくとも現状よりははるかに早期の発見が可能です。もし隕石(彗星)を早期発見できれば、数百メートルの大きさであれば、ロケットを送り込んで、隕石が地球に近づく前に地球を回避する軌道に変更させることは不可能ではないでしょう。(新技術の)ロケットの開発サイクルはざっと 10年なので、数年前に発見できれば希望はあります。

現在、衝突軌道にある天体を早期発見できない理由は、観測網が全然不十分だから、要するに金をかけていないから、に尽きます。彗星の発見は今でも、アマチュアの方々、つまり自宅の裏庭とかで毎夜、趣味で観測している人々の貢献がそれなりにあります。彼らの熱意は真に尊敬ものである一方、それは公的な観測網がいかに節穴だらけか、ということも意味します。結局、もし仮に、一台1000万円超の高性能望遠鏡を世界各地の観測条件のよい場所(空気がきれい、光害が少ない、晴天率が高い、などの意味)にずらりと並べた観測網が存在していたならば、(新天体発見という意味での)アマチュア天文家の出番は無くなってしまいます。

もし今後 10億年のタイムスケールで考えれば、巨大隕石衝突は必然です。いつか必ず起きます。一方、今後たとえば 1000年以内に起きる可能性はかなり低いと見積もられます。そういう意味で、地球衝突物体観測網を整備することに予算をつぎ込むかどうかは、議論が分かれるところではありましょう。たとえば、タイムスケール的に喫緊で、進行が確実視されている気候変動対策の方が優先順位が高くなるのは当然だと思います。一方で、人を殺すために毎年何百兆円も使っている現状から言えば、そんな観測網の整備および運営費用は微々たるものです!

宇宙の天体現象を見るにつけ、人類の愚かさが感じられてなりません。

コメント

チクシュルーブ・クレータ

ユカタン半島のアレはチクシュルーブ・クレータというんですね。この記事で初めて知りました!

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