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- 「登山の基本」
登山 ┃ 山歩き ┃ 沢登り - 「地図に使われる英単語」
基本 ┃ 道 ┃ 山 ┃ 川 - 「山岳地形用語」
- 「登攀地形用語」
- 「登攀技術用語」
- 「医療関係単語/表現」
サバイバル (最重要 ┃ 軽傷) - 「ボルダリング」
「登山の基本」
「登山」
「登山」に相当する英語は? これが意外に即答できません。
和英辞書で引けば、
- climbing
- mountaineering
などの単語が見つかるでしょう。しかし逆に climbing
を訳すなら、
多くの場合、「登攀」がぴったりきます。go climbing
は、「登攀に
行く」です。趣味は、と訊かれた時の答に "climbing" と言えば、
多くの英国人の頭には、ロッククライミングが思い浮かぶようです。
一方、mountaineering
は「登攀を含む登山」です。端的には、ザイル を使わない登山は、mountaineering ではありません。
だから、日本の「中高年登山ブーム」は、「climbing の流行」では
ありません(よね?)。対応する英国での普通の英単語は、多分、 hill
walking
です。直訳は「丘歩き」。英国の場合、山の多くは
「丘」のレベルなので、英国では自然な単語です。しかし……、日本 アルプスをもって hill と言うのは、やはり無理があります。実際、
普通の hill walking よりははるかに厳しいですしね。というわけで、 それに対応する最適の言葉は、
"mountain walking" だろう、という のが僕の結論です。標準英語ではありませんが、そういう概念自体、
(英語に)そもそも存在しないのだから、仕方ない!
「山歩き」
「登山」が mountain walking ならば、「山歩き」は?
やはり「山歩き」も mountain walking かと……。 あるいは 2, 3時間の軽いものならば、hiking もよさそうです。 さらに軽く、ほとんど車を横付けできるくらいならば picnic。 逆に、しっかり長時間山麓を歩くようならば trekking.
ただ、この三つはいずれも「山頂まで達する」という語感はなさそうです。 walking (hill walking, mountain walking) が一番しっくりきそうです。 ちなみに、冬山でも、ピッケル一本でザイルも不要なくらいなら winter (hill) walking です。
一方、手も使ってよじ登る場合は、 scrambling と言います。 scrambling と climbing との境界は曖昧で、 (登れる人ならば)ザイル無しでも登れるくらいの場合、scrambling が使われることが多いようです。逆に言えば、ハードな scrambling の ルートの場合は、ザイルを使う方が普通です。
この scrambling、日本語訳にいつも困ります……。 そこで提案。「歩登攀」ではいかが? 「歩攀」だと「とはん」と(音として)区別つきにくいですし。
「沢登り」
以下、沢登り関係の基本英単語を列挙します。 ただし、沢登りは日本特有の登山形態である以上、 確定した単語が無い場合もあります。近いものを挙げておきます。 あわせて、「川関連」の項も御参照下さい。
- gill (ghyll, gorge) scrambling: 沢登り (湖水地方だと gill が、ウェールズだと gorge が多い様子。ghyll は少し文学的)
- wading shoes: 沢靴
- wade: (水の中やぬかるみなどを)(苦労して)歩く
- paddle: 浅瀬をばしゃばしゃ歩く
- jump in/dive/plunge: 飛び込む
「地図に使われる英単語」
英国の地形図と言えば、OS (Ordnance Survey) 社のもの、と相場は 決まっています。日本で言えば、国土地理院の地図に相当します。 他に、メジャーな地域ならば、Harvey(ハーベイ)社も地図を出しているので、 それも役に立ちます。
地図の基本
- map: 地図
- map case: 地図ケース
- compass: 方位磁針
- scale: 縮尺
- 1/25000: one twenty-five thousandth
- mm/cm/km: milli(/centi/kilo)-metre (「ミートゥ」と発音)
- mile: マイル(車の時速はこれで言うのが普通)
- 50 mile/h: fifty mile per hour (時速50マイル)
- foot: フィート (複数形は feet だが、あまり使われない)
- contour: 等高線
- contouring: コンタリング (等高線沿いに進む技術)
- ten-metre (vertical) interval: (等高線が)10m間隔
道路関連
- road: 車道 (street は「街路」)
- track: 道 (形容詞と共に使われることが多い)
- railway track: (鉄道の)線路
- motorway: 高速道路
- gradient: 勾配
- [steep] gradient: [急]勾配
- path: (小)径
- [public] footpath: [正式の]丘陵・山中の歩行者専用道
- bridleway: 丘陵・山中の乗馬用の道(歩行者/自転車通行可)
- surfaced cycle route: 舗装された自転車専用道
- footbridge(=FB): 歩行者用「橋」(柵を乗り越えるだけの物も)
- boundary: 境界(線) (県(county)境など)
山関連
- hill: 丘/山
- mountain: 山
- fell [running/runner]: 山/丘 [登山マラソン/選手]
- tor: 小高い山 (地名や連語として使われるのが普通)
- peak/summit: 山頂 (用語としては top でもいい)
- moor(land): (ヒースなどで覆われた)原野
- rock: 岩
- outcrop: 岩場の中の突出した特徴ある構造
- crag: 絶壁
- [vertical] cliff/wall: 崖、[垂]壁
- boulder: 巨石 (高さ 1〜数メートル。たとえば、河原の巨石)
- [dis(used)] quarry: 石切場[跡] (地図上で "(dis)" は disused の略)
川関連
- brook(s)/stream(s)/river(s):
(小さい方から順に)川。
例:(The) R(iver) Thames
(テムズ川)、Red Brook
(レッド支流)
[注]「川」の場合、River
が先に来るのが普通 (米国は逆?) - canal(s): 運河
- dale(s): 山間に広がる谷的な(比較的狭い)平野。盆地。
- valley(s): 谷(間)、盆地
- (water)fall(s): 滝
- dam(s) / weir(s), barage(s): ダム / 堰
- [left] bank(s) / embankment(s): [左岸]川岸 / 堤防
- [suspension] bridge(s): [吊り]橋
- ford(s): 浅瀬の(歩いて|飛び越えて)渡れる地点
- steppingstone(s): (石伝いに川を渡れる)飛び石
(地図には多分出てこない)川関連
- gorge(s): (両側の切り立った)渓谷
- gill(s)/ghyll(s)/beck(s): 小川、沢、渓谷 (湖水地方)
- fork(s): 支流の分岐(点)
- cascade(s): 小滝、段々滝 (滝は (water)fall)
- river beds: 川底
「山岳地形用語」
山岳/登山関係では、何語であれ、しばしばその筋の用語(専門用語)が使われます。
日本語の訳語があるものもありますが……、むしろ原語がそのまま 使われることが多いため、訳語の方が分からなかったりします。
しかも外来語の場合、英語だけでなく、独語や仏語から きていたりしますし、最悪和製外国語になっていたり
するので、混乱に拍車をかけているように思います。 以下、その点も踏まえて、山岳地形関係の英単語を紹介します。 なお、末尾に
(s)
をつけたものは、複数形として使える名詞、 という意味とします。
- corrie(s):
英語というよりゲール語。coire と綴られる こともあるが、発音は同じ。日本語の訳語は
圏谷
[けんこく]。 実際には、独語(Kar)由来のカール
が使われることが多いか。 氷河の侵食(氷食作用)によって山地の(山頂近くの)斜面に生じた 半円形の窪地を指す。日本なら、たとえば穂高連峰の涸沢カールなどが一例。 - cwm: corrie と同義のウェールズ語。ウェールズの地名なら、 この語を見る。
- cirque(s): corrie と同義の英語。英国の登山の現場で corrie や cwm を見ることの方が多いのは、英国でそういう地形があるのは、 ほとんどスコットランド(かウェールズ)に限られる、という 単純な理由と推測する。
- gully(ies): 急峻な岩溝。谷部のこと。水が流れているとは限らない
(冬季登攀の場合、雪や氷で埋まっているのが普通)。 日本語では
ガリー
ということもあるが、むしろ独語(Runse)のルンゼ
、仏語(couloir)のクーロワール
が使われることの 方が多いか。 - scree(s): がれ(場)、薙[なぎ]。地面一面が不安定な石塊で
覆われた急斜面。富士山の下降路の
砂走り
がもっと急斜面なら、 これに相当するでしょう。
「登攀地形用語」
登攀の時は、極端な場合、岩面上の小指の爪より小さいとっかかりを 頼りに登ります。そこまでいかなくても、50cm
離れると予定と異なる ことは珍しくありませんし、3m 離れれば全然違った難しさになるのは むしろ普通です。だから、圏谷
(カール)や稜線などの 山の大きな構造よりはるかに小さい構造を表す用語が必要になります。
以下、そういった構造の英単語を紹介します。日本語は、外国語、それも 主に英語を日本語読みしただけのもので通じることが多いですが、
もう少し詳しい説明も含めています。
- route: ルート。登る道筋。登山道。
- line: ライン。ルート上で、ルートよりはるかに精密な意味で、実際に通る道筋。端的には、1m の精度で語る。例:
このルートは登るには、あそこの黒い岩の 50cm 横のラインを取るべし
- slab: スラブ(岩)。凹凸の少ないなめらかな(一枚)岩。昔は傾斜角 45度程度までだったが、最近の岩登りの世界では 80度程度でもスラブと言うことがある。
- face: フェイス。ほぼ垂直な岩壁のこと。中でも特に平たい部分を指す。クラックと対比して使われることが多い。つまり、クラックの外側の部分が、フェイス部。
- overhang: オーバーハング。前傾壁。「かぶった」岩。岩壁上で垂直以上に切立った部分のこと。
- roof: ルーフ。オーバーハングの極端なもので、ちょうど天井のようになった部分。
- crack:
クラック。岩の割れ目、裂け目。
参考: 割目の種類 (@山どんの資料室) - chimney: チムニー。原義は煙突。人間の体がすっぽり入るくらいの大きさのクラックのこと。
登攀技術用語
登山、登攀に使われる(多くは専門)英単語を紹介します。 実は、標準訳語が英語そのまんま、というものも少なくありませんが……、 その場合は、もう少し丁寧に述べています。
- party(ies): パーティー。ある山行、ルートを一緒に(協力しあって)登(ってい)る仲間、一団、部隊、グループ。
- (climbing) rope(s): ザイル、ロープ。登攀では、通常、直径約 1cm、長さ 20m〜60m のものが使われます。「ザイル」は独語由来 (独: Seil)。
- belay [動詞/名詞]: ビレイ(ビレー)、確保。ザイルを頼りに道具(または人体)を用いて、登って(降りて)いる人が落ちた時、その墜落を止められるようにしておくこと。またその確保支点。
- belayer(s): ビレイヤー、確保者。確保する人。
- ropework: ロープワーク、ザイルワーク。ロープ(ザイル)を用いて結び目を作ったり、確保したりする所作。
「医療関係単語/表現」
サバイバル
最重要
- 「風邪をひいた」: I've caught a cold.
- 「{高}熱がある」: I have a {high} temperature.
- 「寒気がする」: I feel cold.
- 「気分が{すごく}悪い」: I feel {very} sick.
- 「背中[お腹]が痛い」: My back [stomach] hurts.
- 「足首を捻挫した」: My ankle was twisted.
- 「指の骨が折れた」: This finger was broken.
- 「血が{たくさん}出ている」: It's bleeding {a lot}.
- 「大丈夫?」: (Are you) OK?
- 「救急車[救助隊]を呼んで!」: Ambulance [Mountain rescue], please!
軽傷
- 「大丈夫、元気、元気!」: I'm OK, fine, thank you.
- 「{ちょっと}疲れただけだよ」: I'm just tired {a bit}.
- 「めまいがする」: I feel dizzy.
- 「何箇所か擦り傷を負った」: I got a few scratches.
- 「{ただの}打ち身だよ」: It's {just} a bruise.
- 「蚊に噛まれて痒い」: I was bitten by mosquitoes and it's itchy.
- 「かなりの日焼け[火傷]を負った」: I got a sunburn [bad burn].
- 「腫れてきた」: It is swelling (getting bigger).
- 「右足がつった」: I've got a cramp in my right leg.
- 「筋肉痛だ」: I have a sore muscle (My muscle is aching).
「ボルダリング」
英語で巨石のことを boulder
と言い、そこからできた 新語が
bouldering
です。新語にふさわしく(?)、
ボルダリングには、一般人を煙に巻く、当然辞書にも載ってない(だろう) 英単語が幾つかあります。
まず、bouldering から派生して、 「ボルダリングのような感じで登る」という意味の動詞がまた
boulder
です。 たとえば、「(ルートの初めで) boulder up 3
metres」などというような 文章がガイド本のルート解説でしばしば出てきます。その意味は、
「3メートル、ボルダリングのような感じで登る」ということで、 ハードなムーブということが暗に示唆されています。また、
地面(時には確保点)からの最初の一連のムーブということが暗黙の前提です。
そうでないと、「ボルダリングのような感じで」はなくなりますから……。 一方、「ボルダリングする」という意味の動詞では、単純に
do bouldering
の方が普通だと思います。
また、boulderer
は、「ボルダリングする人」という意味です。
ボルダリングで(落ちた時のために)下に敷くマットは、 (bouldering)
mat
、 または crash pad
が普通でしょう。
ボルダリングの時は、登っている人が落ちた時にちゃんと足から着地できるように 手助けする人がいることが多いですが、そういう人のことを
spotter
、その行動を spot
(動詞; 名詞は spotting
)と言います。たとえば 「Spot
me!」とは、「スポットしてね!」。
元の boulder 自体は、(ネイティブなら)誰でも知っている一般英単語ですが、 bouldering や boulder の動詞用法はその筋の人でないと知らない一種の 専門用語となってます。 あるいは上の用法の spot も然りです。 完全な初心者相手の bouldering (および climbing) 講習会を見ていると、 この spot の意味を説明するところからよく始まっています。 僕が初心者に手ほどきをする時も同じです — ネイティブの英国人相手に 英語の意味を教えるのはちょっと愉快な感じです (笑)。
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まさ (坂野 正明)