2009/04/09--12 ベン・ネビス登山記録/感想文 (by まさ)
[Japanese / English]
総括
- 山域
- Scotland/Highland/Lochaber/Ben Nevis
- 参加者
- グレアム・B、まさ
- 期間
- 2009/04/09--2009/04/12 (2泊3日)
(以下、リンクは特記しない限り ukclimbing.com へのもの)- 2009/04/09 Leicester ...(車)... Crew ...(車)... (徹夜運転)
- 2009/04/10 (徹夜運転) ...(車)... North Face 駐車場
... CIC hut ... Observatory Gully ... Good Friday
Climb ... Ben Nevis ... Abseil Post ... Coire Leis ... CIC
hutそば (幕営)
- Observatory Ridge Area/Indicator Wall/Good Friday Climb (III); 150m, Leader グレアム (OF), 2nd まさ
- 2009/04/11 天場 ... 雪上訓練 ... 天場
- 2009/04/12 天場 ... Observatory Gully ...
Tower
Ridge ... Ben Nevis Summit Plateau ... No.3 Gully ... 天場 ...
駐車場 ...(車)... Crewe
- Tower Ridge Area/Tower Ridge (IV 3); 600m, Solo (核心1ピッチ Leader まさ (OF), 2nd グレアム)
様式: AL = 交互リード, MT = コンテ, O(s) = オンサイト, F = フラッシュ, (A) = (助言少々), G = グラウンド・アップ, Hp = ヘッド・ポイント, D(og) = ザイルぶら下がり, E(s) = 諦める/エスケープ, C(d) = クライム・ダウン
- 宿泊
- 幕営 (CIC hut 横)
- 天候
-
- 2009/04/09 曇
- 2009/04/10 雨後雪
- 2009/04/11 曇時々雨
- 2009/04/12 曇一時雨後晴
- 朝食
-
- 2009/04/11 Musli (+ 粉ミルク)
- 2009/04/12 行動食
- 夕食
-
- 2009/04/10 Bacon Noodle (インスタント) + (フランクフルト)ソーセージ + Leek、クスクス、スープ
- 2009/04/11 Cheeze & Broccoli Pasta (インスタント) + パスタ + チョリーソ + 野菜(Leek、玉葱、人参) + ミルク + コンソメ、 マッシュポテト (インスタント) + チーズ、スープ
登山編
今年の復活祭休暇は、 去年に引続き、 ベン・ネビス(Ben Nevis)山へ北壁の冬季登攀に来る。 今年は、グレアム・B と二人だ。
今年の復活祭は、4/12 と遅い。この時期でまだ冬季登攀の 条件が整っている(可能性がある)のは、英国では (最高峰の)ベン・ネビス北壁くらいのものだ。 この冬、当初は寒波続きで、(冬季登攀的に)何十年ぶりとかの 素晴らしい条件で、大いに期待が高まったものの、 2月初め以降はさっぱりで暖かい日が続き、 ハイランド全域、まともに条件が整った日がほとんどない有り様だった。 実際、友人の友人でベン・ネビス山の麓に住む人は、今年は 2月以降、2〜3日しかまともな日が無かったという……。
というわけで、復活祭休暇もあまり期待はできなかった。 しかし、週間天気予報によれば、週末に向けて条件が整うかも、 という話! もっとも、直前には雨になりそう、と予報が変化したが……。 もしだめなら、岩登りでも、あるいは人工氷壁に行くのも一手、 ということで、とりあえずベン・ネビス山まで行くだけは行ってみる。
今回、目指すは、 Good Friday
Climb。 Good Friday Climb
の最後の確保支点は、英国で最高の位置にある、
つまりは山頂の三角柱を使う、とガイド本にある。 と、最高点(の北面)にあるルート(の一つ)なので、最も遅くまで
(冬季登攀の)条件が整っていることが期待できる。
それに何と言っても、名前が名前だ。Good Friday
とは、 復活祭(←常に日曜日)の直前の金曜日のこと。
今回、無理して木曜日夜に徹夜で車を飛ばして Good Friday たる金曜日に
何としても登ろうとしているのは、まさにそのため!
そしてそして、このルートは、 2年前に 同じグレアムと一緒に来て目指すも、時間の関係で近くで相対的に易しい Gardyloo Gully を登ることに結局なってしまって、爾来、再来を期していた、 という因縁のものだ。ところが、 去年、 僕が来た時に別のパートナーと一緒に登ったもので、 グレアムとしては少し複雑だったかも? というわけで今回は、 君が全ピッチをリードしたらいいよ、と僕は譲ることにしている。
余談ながら、その 2年前に来て
Gardyloo Gully
を登った時のもう一人のパートナーの ベン・H
は、その後、英国軍に入ってアフガニスタンにも派遣され、 銃弾飛び交う戦場も経験したと聞く。ところが、グレアムによれば、
ベンは、アフガニスタンの戦場よりも Gardyloo Gully
の方がよっぽど怖かったそうだ……。ベン・ネビス山、恐るべし!?
04/09
グレアムの仕事が終わり次第、即出発、Crewe で休憩の後、 交替で徹夜運転。
04/10
Good Friday! (=復活祭前の金曜日)。 Fort William村の North Face 駐車場着 4:00。 結構な雨が降っている……。直前まで眠っていた僕は、 全然やる気が起きない。携帯電話でインターネットに アクセスして天気予報を眺めたり、とぐずぐず。 行動を起こしたグレアムに促されるように のろのろと準備して、2時間(!)後に雨の中を出発。11℃。
天幕他の重い荷を担いで 700m近く登る。CIC小屋着 8:45。 コースタイム 2時間ほどだから、悪くない。 CIC小屋は拡張されていた上、大きな(発電用)風車が設置されていて ちょっと状況が変わっている。 去年、僕らが 天幕を張ったスペースも、他の 2組の幕営グループが使っていた スペースももう使えない。
雨は降ったりやんだり。 登攀用具・行動食他必要なものだけ担いで、 Good Friday Climb 向けて急ぎ出発。
アプローチの Observatory Gully には僕らの他に登山者がいない。 祝日の今日にしては、意外。こんな悪い天候のなか、 わざわざ登りに来る酔狂な人はそうはいない、ということか。 いずれによせ、気温は、頂上でも氷点下までは下がりそうにない。 速度が安全、速く登るに越したことはない。 今日はグレアムと二人なので、核心まではザイルを使わず ソロでかっ飛ばす予定だ。
ところが……、アプローチで、間違って Gardyloo Gully の方に迷いこんでしまった。気付いた頃には、実質上、1ピッチ分、 ソロで登ってしまっていた……。 今まで 2回も来たのに、何というていたらく! ルート(ルンゼ)をクライム・ダウンして Good Friday Climb の方にトラバースし、そのままソロで登っていく。 今度は確実に記憶と合致している。 去年、確保支点に使ったクラックも同定できて。 ちなみにこの頃になると雨がやんでいて、ほっとする。
核心ピッチの直前でアンザイレン。僕がザイルを整理しようとした時、 情けないことながらザイルをぐちゃぐちゃに絡ませてしまって、 ほどくのに 30分以上時間がかかってしまった……。何年 登攀をやっているのだか……。情けないったらありゃしない。
予定通りグレアムのリード。 氷壁をトラバースの後、氷壁を上に抜けるところがこのルートの核心。 直下に雪のレッジがあるのに、グレアムは敢えて氷壁上を トラバースしていく。せっかくだから、氷を楽しみたいんだって。 あはは、御自由に。楽しんでいるようでなにより。
グレアムは問題なくリードを終えて、僕のフォロー。 去年は、 難しくは感じなかったものの、核心が見えた時、よっしゃぁ、と 気合いを入れたものだった。 今年は、 先の 12月の La Grave氷壁登攀山行 の経験がやはり素晴らしく大きく、はっきりと易しい、と感じた。 (La Graveに一緒した)グレアムも同じだったようで、 トラバース無しで直登したい気分だったよ、と後で術懐していたものだった。
そのピッチの後、グレアムの右側にずっとトラバースしていく (去年は トラバースの途中で上に登っていったもので、頂上を外した — 実はこのルートの一つのヴァリエーションだったようだ)。
そこから氷と雪のルンゼを上に登りつめ、きのこ雪を越えるグレアム。 フォローの僕も楽しめた。16時過ぎ到着。 グレアムは、お約束通り、英国最高点、つまりは山頂の三角柱を 確保支点に使っている。お見事!
ちなみに、グレアムが最後の不安定なきのこ雪を越える時、 頂上にいた(当然、一般道(Pony track)を歩いて登ってきた)登山客から 「写真撮らせて!」と頼まれて、 少し止まっていたという — 不安定なきのこ雪を越える時って、 クライマーとしてはもっとも止まりたくない時なんですけど。笑えた。
山頂では雪が降っている。視界は 100メートルくらいか。 CIC小屋まで下降する最短は Number Four
Gully
経由と 聞くが……、ベン・ネビス山の山頂付近のナビゲーションの難しさは 悪名高い(拙文参照)。 加えて、きのこ雪がよく発達していると聞く
Number Four Gully
経由 は、今日の条件では雪崩の危険性を考えても避けたい。
そこで、安全のため、遠回りながら Abseil Post (懸垂地点)
の方から 降りることにする(それでも、
去年の Pony Track
経由よりははるかにまし!)。
下降後、天幕を張って、手早く夕食を調理して取って、 寝袋に入ってばたんきゅー。40時間で 2時間くらいしか 眠っていない計算になるわけで、当然! いい日だった。
04/11
7:50に起床するも……、風が強いのが明らか。 昨日の今日で、二人とも疲れていることもあって、 再度、寝袋にもぐりこむことに。結局、起床は 12:30! 午後になって、雪上訓練に出かけたくらいで、今日はゆっくり過ごした。 明日は、もう一つの目玉の Tower Ridge。1日かかることが予想される。 午前3時半起床予定のため、早めに床につく。
雪上訓練メニュー
- 雪崩危険性の注意
- 弱層テスト (ハンドテスト)
- 雪崩ビーコン訓練
- ソンデ棒訓練
04/12
今日は、英国冬期登攀ルートとしおそらく最も名高い Tower Ridge を 目指す。600メートル、難易度 IV 3。難易度が示す通り、技術的には そう難しくないものの、高度感あふれるトラバースが延々と続き、 5時間〜6時間が標準タイム、ビバークを強いられるパーティーも 少なくないと聞く。英国随一の山岳登攀ルートだ。
現在、暖かくてコンディションがちょっと安定していないが、 稜線ルートの Tower Ridge なら、大きな問題にはなるまい。 また、4月の今、日照時間が長いのも保険になる。やらいでか。
時間がかかると予想されること、また他のパーティーの後ろについて さらに遅れる、という事態を避けたいこともあって、早出とする。 04:45 出発。ルート取付を 6時発。
特に難しくはなさそうで、また、時間を稼ぎたいこともあり、ソロでかっ飛ばす。 すぐにクランポンをつけるも、雪が少ない岩場では、かえって いやらしい。やがてクランポンをはずして、登山靴で高度を稼いでいく。 しかし、じきに岩上に張るベルグラにぶつかった。 クランポンの出番だ。
クランポンをつけるやいなや、足元が急にしっかりするのが感じられる。 やがて、切れ落ちる強烈な高度感に足が震える Eastern Traverse に。 万一、落ちた日には 200メートルくらい? 十分な雪があるので、ピッケルを雪中に深くさしこみながら、ソロで 一歩一歩慎重に。
そして、核心の Tower Gap。3メートル垂壁を降りて、その後、 登り返す場所だ。ここではじめてザイルを出した。 僕のリード。リーダーとしては下降は精神的には悪くない。 上から確保されている形になるから。 一方、登り返すのが、精神的にはきつい。ザイルの流れを考えると しばらく中間支点は取れないから。幸い、登り返す方は技術的には 易しかったので特に問題なく上まで登り切った。グレアムも問題なくフォロー。
この後、再びソロで、頂上稜線まで登り抜けた。 なんと、3時間で登り切ってしまった。 予想外のスピード!
それにしても、高度感と緊張感とが持続する素晴らしいルート! 今まで英国で僕が経験した山岳登攀の中で最高のルートだった。
もう少し見晴らしがよければ言うことがなかったが、 それは贅沢と言うものか。
下りは、難易度 I の Number Three Gully 経由で(実は Number Four Gully を目指していたものの、過ってこちらに入り込んだもの)。 遠く Tower Ridge の上を行く登山者のパーティーも見える。
ルートを速攻で登ったため、当然、予想外に早く(午前中!)天幕に帰り着く。 そこでもう一泊宿泊の予定を変更し、今日のうちに下山して 徹夜ドライブして帰る。
今回、コンディションがどうなるか、と賭けだったが、 結果的にはすばらしい復活祭雪山山行となった!
タイム・テーブル
時刻 | 行動 | 高度(m) | 温度(℃) | 歩数(複歩) | |
---|---|---|---|---|---|
(計器) | (地図) | ||||
表注: |
|||||
2009/04/09 (Leicester → (Fort William)) |
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18:00前 | Leicester発 | ||||
21:30頃 | Crew発 | ||||
23:50頃 | Carlisle発 | ||||
2009/04/10 (運転 → Fort William → CIC hut側 → Good Friday Climb → Ben Nevis → CIC hut側) |
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04:00頃 | North Face駐車場着 | ||||
06:00頃 | 発 | 22 | 11 | ||
08:45 | CIC hut着 (天幕設営) | 655 | |||
11:00頃 | Good Friday Climb取付 | ||||
12:00 | 2 | ||||
16:00過 | Ben Nevis山頂 | 2 | |||
Coire Leis | |||||
CIC hut側着 | |||||
22:50 | 就寝 | ||||
2009/04/11 (CIC hut側 → 雪上訓練 → CIC hut側) |
|||||
07:50 | 起床→就寝 | ||||
12:30 | 起床 | ||||
14:30 | 発 | 4 | |||
17:00 | 天幕 | 4 | |||
21:45 | 就寝 | 7(内) | |||
2009/04/12 (CIC hut側 → Tower Ridge → CIC hut側 → Fort William → Crew) |
|||||
03:30 | 起床 | ||||
04:45 | 発 | 3 | |||
05:15 | gear up | 1 | |||
06:00 | Tower Ridge | -1 | |||
08:30頃 | Tower Gap | ||||
09:00頃 | ルート終了(頂上稜線) | ||||
10:45 | 天幕 | ||||
12:30 | 発 | 12 | |||
駐車場見える | |||||
13:50 | North Face駐車場 | 684 | |||
14:40 | 発 | 16 | |||
15:45 | Fort william発 | ||||
22:00 | Crew | ||||
23:50 | 就寝 |
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