2008/06/14 京都・金毘羅山登山記録/感想文 (by まさ)

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総括

山域
京都・大原近辺・金毘羅山
参加者
T政、H野、M脇、ゆき、まさ
期間
2008/06/14 (日帰り)
金毘羅山/ホワイトチムニー
  1. チムニールート (5.5); Leader T政 (F), Bottom-rope H野, M脇, ゆき, まさ
  2. サラワリ (5.9); Leader まさ (OF), Bottom-rope H野, T政 (いずれも断念)
  3. コーナーハング (5.9); Bottom-rope Leader M脇, ゆき(いずれも断念), まさ
様式: AL = 交互リード, MT = コンテ, O(s) = オンサイト, F = フラッシュ, (A) = (助言少々), G = グラウンド・アップ, Hp = ヘッド・ポイント, D(og) = ザイルぶら下がり, E(s) = 諦める/エスケープ, C(d) = クライム・ダウン
天候
晴 (22℃ @10:00頃)

登山編

ゆきらと京都のスポーツクライミングのゲレンデ、金毘羅山に来る。 僕が登山を始めたのは、京都に住んでいた時だったが、当時、 岩登りには縁が無かったもので、今回来るまで金毘羅山がどこにあるかも知らなかった (大原のすぐ近くなんですね! 市街からもすぐではありませんか)

リーダーは、T政氏で、ここには何度も来たことがあるという。 H野氏はそこそこの経験があり、M脇嬢とゆきとの岩登りの経験はごく限られる。 今回、今まで使えていた駐車場(駐車スペース)が閉鎖されてしまったようで (英国でもしばしばある話……)、少し遠くに車を停めて歩くことに。 今日は、他に10人余りのグループも同じ岩場で登っていた。

まずはチムニールート (米国式 5.5) を T政氏がリードして、 ボトムロープを張る。それぞれフォローした後、 僕が隣のサラワリ (5.9) をリード。途中の垂壁部でちょっと立ち止まるも 問題無く登り切ってボトムロープを張る。H野氏、T政氏とフォローを 試みるも、いずれも例の垂壁部を越えられず、断念となってしまった。 なお、H野氏はここで時間切れで帰途に着いた。

次いで隣のグループが張ったザイルを使わせてもらって、 コーナーハング (5.9) をボトムロープで登る。M脇嬢、そしてゆきと。 三分の二ほど登ったところのバルジが核心だが、二人ともそこで躓いて 悪戦苦闘するも結局断念。ゆきに登ってみせてよ、と言われて僕が速攻で 登る。フットワークが鍵ですね。あんなに苦労して登れなかったのに、 随分と簡単そうに見える〜、と言われた。はい、まぁそういうものです。 岩登りも経験ですから。ちょっと残念でしょうが、ひとつくらい登れない ルートがあった方が、次に来た時の目標になっていいかもね。

その後、T政氏の音頭で岩場の上に行って、(ボルトを使った)確保支点のセットと 懸垂下降の始め方を訓練。登山には必須ですね。こうして丁寧に 教えてくれる人がいることはありがたいことかな。


議論編

日本の岩登りの難易度

今回、僕がリードしたルートのサラワリは、昔のガイド本で 5.9、 今のガイドだとちょっと上がって 5.10(a?) だと言います。 僕が登った感触では、核心のムーブは英国技術難易度にして 4c、 つまり 5.8 くらいだと思いました。5.10a? それはないでしょう。

僕は以前から日本の岩登りの難易度に疑問を持っています。 僕が生まれて初めて行った岩場(藤坂ロックガーデン)で、その日、 僕は(ボトムロープで) 5.10a のルート(「プロムナード」?)を落ちずに登り切ったのを よく覚えています。藤坂の難易度は少し甘いよう(と所有者ご本人も おっしゃってました)ですが、それでも 5.9 は 固いとみていいでしょう。あるいは二子山中央稜(5.9)の核心では僕は一度落ちて、 すぐ断念して A0 で越えたのを覚えています。 僕はその前後も、(日本で) 5.10a くらいの ルートなら何とか落ちずに登れるかどうか、という感じでした。 ……つまり、岩登りの完全に初心者の僕 (その年、岩登りに行ったのは、屋内屋外全部合わせて 10回程度)でも、5.9/5.10a なら (フォローなら)何とかなりそう、というのが当時の僕の感覚でした。

……ところが、英国に来て、これが登れない(!)という羽目になりました。 5.9 は英国で HVS (5a, F5c) 程度、5.10a は英国で E1 (5b, F6a) 程度のはずです。 当時の僕は、人口壁でも F5c を登れるかどうか。まして自然の岩場の HVS なら落ちまくって登れるかどうか、でした。 今でこそ屋内なら F7a+ までオンサイトしますし、屋外でも 5b なら ほぼ問題無く登っていますが……、 それは週に 2〜4回のクライミングを何年か続けた後の成果ですから、 まぁ当然です。実際、屋内で F5c (5.9) だったのが F7a+ (5.12a) まで 成長しているわけですから (ただし、英国の形容難易度を米国式難易度と比べるのにどれくらい 意味があるかは疑問です……。標準的な(英国)技術難易度に変換して 比較して、と思って下さい)。

だから、英国の難易度を基準にすると、日本の(米国式)難易度が 甘いような気がしているものでした。

ひとつの可能性は、米国式難易度⇔英国式難易度⇔仏国式難易度の 変換表がおかしいこと。しかし、多少のぶれは不可避にせよ、一般に 認知されているこの変換表が大きく違うことは考えにくいものです。 実際、カナダに行って散々登ってきた英国人の友人は、この変換表は ぴたりと彼の感覚に一致している、と証言しています。

別の可能性は、僕が日本で出会った難易度がたまたま大甘だったこと。 しかし日本の別の経験豊かな友人は、フォローなら初心者でも 5.8 や 5.9 から 始めるよ、と言っていました。リードの練習でも 5.6 くらいから始める だろう、と。これはまさに僕が日本でそうだった通りです。

さて、昔の一流登山家、端的には編み上げ靴で登っていた頃の人の限界難易度が 5.9 だったと聞いています。5.10a 以上は現代クライミングの難易度だと (米国式でaとかアルファベットが混ざって妙になってくるのはそのため)。 英国でも同じで、VS または HVS が昔の一流登山家の限界とされていました。 いかにクライミング・シューズがあるとは言え、そして危険度が無いとは 言え、素人がそうそう登れる難易度ではないと想像します……。 だから、フォローとはいえ、初心者がいきなり 5.9 を登れるというのは、 僕はちょっと疑問に思ってしまうところです。

一方、英国の場合、その原則に沿っているように思います。 たとえば Diff/VDiff (5.2〜5.4) でも、核心に一瞬だけ オーバーハングがあっても驚きません。もちろん、がばホールドの連続で 簡単に登れることを期待しますけどね。 実際、僕は 2年半前の雨の日に Diff を登っていて、核心の半オーバーハング で落ちたものでした……。

さすがにこのレベルなら、オーバーハングがあっても、 核心直前に完璧な中間支点が簡単にセットできることを期待します。 とは言え、初心者リーダーにとっては、十分震えるところかと 思います。それもあって、初心者リーダーがリードを始めるのは このレベルです。

一般論としては、フォローする初心者にとっての最初の壁は、Severe (5.5〜5.6) です。 ここで初心者は落ち始めるものです。 逆に言えば、初心者が Severe を落ちずに登れたら立派なものです。

一方、初心者で VS (Very Severe; 5.6〜5.8) を落ちずに登れたら、それは 相当に運動神経がいい人だと言えます。 リーダーにとっては、VS ならば、ちょっとしたオーバーハングの 場所でぷるぷる震える片腕で体重を支えながら、 もう片腕でナッツなどの中間支点をセットする必要があっても 驚きません。さすがにホールドもスタンスもほぼ完璧なことを 期待するとはいえ。だから、VS を登れるリーダーは、相応の力が 必要です。大学のクライミング部でそれなりに熱心な人が 2〜3年かけて このレベルに到達できるかどうか、というのが普通のように見受けられます。

HVS(5.8/5.9)ならば、10m くらいオーバーハングが続くことはあり得ます (たとえば、僕が登った Great Buttress はそうでした)。 あるいは、短いルーフを登る必要があることも。 たとえば、以下の画像にあるルートは、有名な HVS のルートです。
http://www.planetfear.com/includes/images/uploaded/7420069617324IMG_0198.jpg
ぬんちゃくのぶら下がっている角度を見れば、ちゃんと垂直アングルで 撮っていることが分かるでしょう。

こんなルートを初心者がいきなりほいと登れるとは思えません。 だから、英国で HVS (5.9) を落ちずに登る初心者は天才の域でしょう。 このレベルをリードするには、週に 3回以上のクライミングを続けて 1年で達したら立派、というところです。 E1 (5.10a) なら、それなりの経験がある人でも、(トップロープで)何度落ちても 最終的に上まで登り切ることができたら拍手喝采ものです。

……と考えていくと、どうも日本の難易度は世界標準より 2グレードくらい 甘い気がしてしまうのでした。5.13 とかの高いレベルになると 話は別であっても驚きませんが。実際、平山ユージ氏や小山田大氏のように 世界レベルで登っているロッククライマーもいるわけですから。

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まさ