2003/11/14 Lake District/Shepherds Crag 登山記録/感想文 (by まさ)



総括

山域
Lake District (North West)/Shepherds Crag
参加者 (レスター大学山岳部)
エルスペス、ジョン、ニック、ジョナサン(マイルズ)、ライナス、アダム、 リッチ、アンディ、シルヴィア、ベアーテ、ローラ、まさ
期間
2003/11/14 -- 2003/11/16 (2泊3日; 以下の記録はまさの参加分)
  • 2003/11/14 Leicester夜発 ... hut (Bowder Stone)
  • 2003/11/15 Shepherds Crag
    (North Buttress/Ardus, 42m, MVS (4a, 4a, 4b))
  • 2003/11/16 Shepherds Crag
    (Brown Crag/Brown Slabs Face, 42m, VD)
    Keswick 夕方発 Leicesterへ帰る
宿泊
hut (Bowder Stone ?)
天候
  • 2003/11/14 小雨
  • 2003/11/15 曇時々雨
  • 2003/11/16 晴

登山編

泊まりがけの岩登りは実に一年半ぶりな気がする…随分と御無沙汰したものだ。 湖水地方は、ウォーキングなどで訪れたことはあるが、岩登りは初めてだ。今ま で、計画はあれど、ドタキャンしたりで縁がなかった。今回は、湖水地方の北西 部、Derwent Water湖のほとり(Keswick の近く)にある小屋を拠点の岩登りとな る。

事前の天気予報は荒れ模様、嵐に注意しましょう、という話…。実際、道中、激 しくはなかったが、ずっと雨だった。風も穏やかとは言えない。レスターからは、 出発が遅れたこともあって、着いたのは、午前2時くらいになってしまった。道 路から歩くこと5分で小屋に着く。小屋の前の高さ5mくらいの大きな岩(Bowder Stone)が圧巻。下は平らな上、階段までかかっていて、絶好のボルダリングの岩 だ。というわけで、着いた途端、暗闇の中、数人が手始めのボルダリングに出か ける。雨が激しくなってきたので、すぐ退散してきたが。翌日からの天気が心配。

11/15

明けて 11/15、天気は曇時々小雨の模様。天気予報よりはましだが、歓迎できる 天気とは言えない。11時近くに小屋を出る。遅立ちはクラブの伝統? 向かうは、 Derwent Water湖の南端近くにある Shepherds Crag、湖を見下ろせる岩登りが楽 しめそうだ。ぞろぞろと歩いて、一同、Brown Crag の方に向かう。ライナスが リードして、トップロープを2本張る、ということのようだ。私はアダムを誘っ て、その手前で見た(惹かれた)クラックの方へ行くことにする --- 私とアダム とだけが別行動。シルヴィアが見についてきた。ダブルロープなので、フォロー で登るか? と誘うと、嬉しそうだった。因みにアダムは、新婚3カ月の嫁さんを 放ったらかして、この週末クライミングに来ている根っからのクライマーだ。パー トナーに不足なし!

結局、ガイドブックを頼りに、クラックの隣のお勧めルート、Ardus に挑戦する ことにする。42m 3ピッチだが、2ピッチでいけそうだ。最上部が核心。アダムが 最初リードする。5m 程登って、ナッツを2つセットしたところで、あきらめて降 りてきた。濡れて苔で滑りやすくてリードしたくない、と。私が代わる。それを 見たシルヴィア、難しそう、と思ったのか、他の連中の方に加わることにした。

屋内の経験からは、クライミングは、アダムの方が私より少し上手いくらい。ア ダムが断念したものを私が登れるだろうか? MVS だから、そんなに難しいはずは ないが…、天候の悪条件がどう作用するか? 因みに今回、私のヘキセントリック のデビュー戦だ。なんてきれいな(shiny)ヘックス! とシルヴィアとアダムとに はからかわれた。

確かに滑りやすい。とは言え、ホールドはしっかりしているので、危険とは感じ ない。慎重に登っていく。最初に取り得るルートは二つ。壁際か、その右手か。 壁際の方が勾配が若干きついが、その右手側は、最後が一気にきつくなり、かつ それがいかにも滑りやすそう、ということで、壁際を攻める。プロテクションを 取るのも、特に問題ない。最後、ナッツの一番で確保した上で、50cmの隙間を越 えて、せまいが多少奥行きのあるレッジに立つ。第一ピッチ終了。自己確保した 上で、三点から流動分散で支点作り。すべてナッツとヘキセントリックとで。

続いてアダムがフォロー。彼がリードを断念した場所は難なく越えたが、その後、 一度落ちた。Thank you! と共に、この滑りやすい岩め、という悪態が聞こえる。 その後は特に回収に手こずることもなく、無事レッジに到着。

レッジからの上がり方は二通りのルートが考えられる。ナッツの一番のところま で戻って斜上するか、レッジから直登するか。斜上ルートを取るつもりだったが、 万一落ちたら振られることもあって、直登することにした。見かけよりは簡単だっ た。ほどなく、第二ビレイポイントに着く。ここから左に数mトラバースしてク ラック沿いに登るのが核心。この第二ビレイポイントはすっ飛ばして、上まで一 気に行く予定だ。ここで長めのランニング・ビレイを取って、トラバースに備え る。

足を踏み出す。これが怖い。トラバースの初めにホールドがあるが、その後、 2m ホールドらしいホールドがない。つまり掌を壁に当てるだけで、スタンス頼 りになる。ところが、このスタンスが少し外傾していて、湿った今の状態では、 今にも滑りそうだ。落ちると当然、振られるし、長めのランニング・ビレイを取っ ている分、落下距離も長くなる。おまけに次のランニング・ビレイの場所もはっ きりしないフェイスルートだ。

一旦、レッジに戻り、長めのランニング・ビレイをもう一点取る。もう一本のロー プ用に。再挑戦。どうもバランスがよくない…。足が見て分かるほどにぶるぶる 震えている。戻って、支点を確かめる。アダムから調子を問う声がかかる。息を 整えて再々挑戦。…だめだ、怖い。

下には、クライミングを終えた他の連中が集まってきている。トラバースではな く、チムニー気味に直登するルートについて尋ねると、トラバースルートよりも 難度が高い、という返事。陽も傾いてきている。「やめよう」とアダムから二回 声がかかって、中断を決断。「クライムダウンするか?」とアダムから言われた が、とんでもない、と断って、ロープとひとつの支点(+安全環つきカラビナ)を 頼りに、途中の支点を回収しつつ、アダムのいるビレイポイントまで降りる。

この時、最後の支点、つまり第二ピッチの最初のヘキセントリックによる支点が どうしても回収できなかった。動くのだが、岩の隙間から出てこない。アダムに 代わったが、彼も取れない。最後にはスリングをがんがん引っ張って、ついに動 きもしなくなった…。これを、最高の懸垂下降の支点として、下まで降りる。無 念の表情の私にアダムが慰めの言葉をかけてくれる。いい奴だ。

降りてみて考えるに、断念した段階で私はやはり動揺していたようだ。何しろ、 私が残してきたのは、ヘキセントリック二つに安全環つきカラビナひとつ…高価 なギアばかりではないか! 第二ビレイポイントでは、ナッツでの支点もあったの に、わざわざそちらを選んで回収している。最低、安全環つきカラビナを普通の カラビナに交換してしかるべきだし、懸垂で降りていたらカラビナも必要なかっ た。それは多分、アダムにしても同じだったようだ。岩にはさまったナッツ類の 回収時にスリングを引っ張る、というのは、考えられる最悪の方法だ(スリング を引っ張るのは、ナッツ類を「固定」する時だ!)。お蔭で、にっちもさっちもい かなくなってしまった。。。

楽しめたのは楽しめたが…、ちょっと意気消沈であった。「It's not my day...」

11/16

翌日 11/16。私とアダムとは、上から懸垂で降りて昨日のギアを回収すべく、再 び Shepherds Crag に赴く。前日、岩の状態がよくなかったのは、他の連中も同 じだったようで、うち何人かは今日は、近くの Keswick の屋内クライミングに 行くと言う。他幾人かは Keswick でショッピングしたり、湖畔の丘でウォーキ ングしたり、と。…しかし、ちょっと待て。今日は素晴らしい天気だぞ?! レス ターから何百kmも走ってきた挙げ句、何が悲しくて屋内クライミングに行かねば ならんのだ? アダムとその点で大いに一致する。なるべく早くギアを回収して一 本でも二本でもルートを登ろう!

North Buttress 右側の「急な」斜面を登り、崖の上部に達する。確かに「急」 で、アダムは、途中でクライミング・シューズに履き替えた。11mm ロープ1本に よる懸垂で、私が回収にかかる。幸い、ギアはすべて岸壁にそのまま残っていた。 フレンチ・プルージックで自己確保を取ったのだが、、、ちょっとスリングが長 過ぎたようで、もろに荷重をかけると、ずるりずるり、と下がってしまう…甘過 ぎ。いざ回収の段には、岩から確保したりして、ちょっと苦労する羽目になった。 今回は、上部で適当な岩を見繕ってポケットに入れておいた。それを使って、例 の頑固なヘキセントリックも何とか回収。ホッ。
アダムが上からロープを回収して、降りてきてくれた。

この回収にはそこそこ手間取ったが、それでも、集合時間まで1時間半はある。さぁ、 クライミングだ。昨日は私の希望で選んだので、今日はアダムにルートを選んで もらう。結局、昨日、他の連中が登っていた Brown Crag の一ルート「Brown Slabs Face」にする。VD。楽しく登れそうだ。アダムがリードするが…、ナッツ をひとつセットしたところで降りてくる。「滑る…。リードはきらいなんだよ。」と。

そこで、私が代わってリード。確かに最初が比較的難しいところか。でも、特に 難なくクリア、その後もどんどん高度を稼いで、上まで1ピッチで到達。気持ち よいクライミングだった。さて確保となると、足場はいいのだが、支点にちょっ と困った。結局、3mくらい離れた木と、近くの岩からナッツで二点自己確保して、 ボディビレイする。アダムも難なくフォローしてきて気持ちよくフィニッシュ。

この後、壁の左の下降ルートが滑りやすくていやらしかった。昨日、アンディや ベア(どちらも初心者)が、下降の方がはるかに怖かった、と言っていたが、おっ しゃる通り。彼らには、ロープが欲しいところだと思う。とはいえ大過なく下山。

ちょっと待ち合わせ時刻に遅れた。しかし、車(ミニバス)は我々のもとにあった から、他の連中は、我々を待たざるを得ない。はっはっは…なんて言っている場 合ではないか。いや、申し訳ない。日没の頃、Keswick を離れて一路レスターへ。 23時頃着。

今回、結果的にリード三昧となった。一日目の断念は残念ではあったが、怪我な く終えられた以上、言うことはない。また結果的に失ったギアもなく、いい経験 となった。ヘキセントリックは、今回、使い方のコツが少し掴めてきた気がする。 外れにくく、回収もたやすい。いいギアだ。重いけど…。

今回は私のギアに加えて、クラブのギアを幾つか借用した。確かにマルチピッチ だと現在の私のギア(ナッツ1セット(1〜10番)、ヘキセントリック1セット(5個)、 フレンズ3個、スリングたくさん)ではちょっと足りない気がする。上下の確保で 4点×2、つまり確保用の支点だけで既に8点もいるから…。純粋な岩のルートだ と、スリングだけで支点を作れることは多くないし。もう1セット、ナッツを加 えるべきか。実際、ライナスはナッツを2セット常に携帯している。

ところで、我がクラブのギアのセットには、フレンズが入っていないことが多い。 私のギアセットにあったフレンズを見て、リード時、アダムは嬉しそうだった。 シルビアに言っていたものだ「I like Friends. Friends are my FRIENDS!」。。。 お粗末(笑)。


生活編

洗いもの

英国の若者連中はとにかく、洗いものはしたがらない、と相場は決まっているよ うだ。まめに洗い物をする人に出会ったことはほとんどない。山岳部もその例外 でないが…、今回、特にひどかった気がする。食後、使った皿や鍋を洗っていた 人の方がずっと少なかったのではないか? 「はっはっは。山岳部の伝統だねぇ。」 と最古老のライナス、笑っていたものだが。日曜日朝、前日晩からのものを含め て山のように汚れた皿が積み重なっていた。もうすぐ、hutを発たないといけな いのに。業を煮やしたエルスペス、拭く人を募って一人で洗い始めた。エルスペ ス、偉い! 最近、髪の一部をパッションレッドに染め上げて、外見上、山岳部中 でイケイケ現代っ娘のトップを切っているエルスペスが先頭に立って洗い物をし ているのはなかなかに微笑ましいものがある。…ってもちろん突っ立って見てい たわけではなく、ちゃんと横で手伝いましたよ、私も。

喫煙

今回の連中のうち、煙草吸いはジョン、ニック、リッチ。何かひと息つくと、煙 草を吸いたがる。さぁ、smoking jacket でも着るかぁ、なんて (寒い戸外で吸 うのに、上着が必要、という意味。一応のマナーはできている、と)。ある時、 ジョンの彼女のエルスペス、「いい加減にしなさいよ! わざわざ死にたがるよう なことしなくてもいいでしょう!」と腰に手を回して力づくで止めようとしてい た。極めて温厚で優しい性格のジョン、さぁどう対応するかなぁ、と興味津津の 外野の私だったが、、、喫煙仲間に誘われたのに女に止められて断るなんてこと は男の沽券に関わる…かどうかは知らないが、エルスペスを意に介さず、ゆっく り手をふりほどいて「彼女を持つってのは、時にはいいことだよねぇ。」なあん てのたまう。「つまり、時にはそうではないってことかい?」って誰かの突っ込 みに、ふふ、と肩をすくめて悠然と出ていくジョンであった。悪いことほど断れ ないってのは、世界共通かな?

王様ゲームのトランプ

今回の hut の夜は、トランプゲームで盛り上がっていた。「神経衰弱」のよう にばらばらに置いたトランプから、一人一枚ずつ順にめくっていく。そのトラン プの数によって、毎回罰ゲームなどが用意されている、というものだ。たとえば、 3ならスリーフィンガー分、誰かに(分割可能)飲ませることができる、5なら男連 中は全員ワンフィンガー飲む、10ならその人がお題を出して(登山用具メーカー をひとつ挙げよ、など)順々にその回答を10人答えていく(答えられない場合やチョ ンボは一杯)、などなど。ただ…それで果たして罰ゲームになっているのかどう かは甚だ疑問な私であった(私は参加せずに横で見ていた)。なぜって、別に当た ろうが当たるまいが、結局、お前ら飲んでるやん! …例えばリッチが新しい瓶を 空けた時、たまたま2を引いたシルビアは「じゃ、リッチ、せっかくだし、2フィ ンガーから飲んでみる?」と言って指名していた…"合理的"だ。

このゲームのハイライトは、最初にキングを引いた人が、最終罰ゲームを指定で きることだ。たとえば、2回目のゲームでは、最初のキングを引いたジョン、 「下着一丁で(隣の)三段ベッドの柱を順にクライミング、クライムダウンしても らおう。」と指定していた。で、最後のキングを引いた人がその罰ゲームをする 羽目になるという趣向だ。この時は、お約束…というわけではないだろうが、た またまジョンが最後のキングを引き当てて、ぐぉーと吠えていた (笑)。
因みに、この一幕は、ジョンがエルスペスの制止を振り切って煙草吸いに出かけ た1時間後のできごと。いやはや、運命とは恐るべし?!


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まさ (正)