総括
- 山域
- North Wales/Snowdon (Wyddfa): Crib Goch, Y Lliwedd etc.
他の人の撮った Crib Goch の写真は、たとえば以下。
http://www10.brinkster.com/alexford/Gallery%202%20Crib%20Goch.htm
http://uk.geocities.com/mountainlists/wal/scrambling.jpg
http://www.hbwatg.co.uk/images/Al%20Cox%20on%20Crib%20Goch_big.jpg - 参加者
- まさ (単独行)
- 期間
- 2004/01/23 -- 2004/01/25 (2泊3日)
- 2004/01/23 Leicester ... Pen Y Pass
- 2004/01/24 Pen Y Pass ... Crib Goch ... Wyddfa ... Y Lliwedd ... 700m地点
- 2004/01/25 700m地点 ... Y Lliwedd ... Wyddfa ... Llanberis ... (車) Leicester
- 宿泊
- (forecast)ビバーク
- 天候
-
- 2004/01/23 雨後曇
- 2004/01/24 曇 (夜: 雨雪)
- 2004/01/25 晴時々曇
登山編
2年ぶりの冬山だ!
ただし、「Snowdonia Snow
report」 で事前にチェックしたところ、一週間降り続い
た雨と高温のため、どうやら雪はほとんどないらしいが…。まぁ、リハビリには それくらいでちょうどいいだろう。
Snowdon (Wyddfa: ウェールズ語) は標高1085m、England と Wales との中で最 高峰だ。ただ、夏には山頂まで登山列車が走っているので、観光地化されている らしい。今回は、東稜の Crib Goch がハイライトだ。England と Wales との中 で最高(少なくとも一番有名)の scrambling (手足、時にはロープも使う山登り のこと; 登攀ほどは厳しくない) のルートだと聞く。雑誌 High Mountains の 2003/12月号ではそのレポートがあって、楽しそうだった。この Crib Goch から Wyddfa を頂点として別の東稜(Y Lliwedd)一周が、horse shoe と呼ばれる、馬 蹄形のルートとなる。
事前に山岳部の連中に声をかけたが、残念ながら乗ってくる人がいなかった。ザ イルパートナーがいれば安心できたのだが。まぁ、厳しいとは言っても少なくと も夏ならロープは不要なルートだし、雪はないそうだから大丈夫だろう。但し、 念には念を入れて、ロープ(50m)とナッツ類、スリングたくさん、それに登高器 もザックに入れた。もちろん、ピッケル、クランポンも。稜線で水場がなさそう なので、一泊二日分の水も。それにストーブ、ガス、無線機、携帯電話まで…ふぅ、 重い。但し、今回、テントやペグは持たず、ツェルトで済ますことにした。初め てのツェルト山行だ。
さて、登山パートナーは得られなかったのだが、クローディアが偶然同じ日程で 同じSnowdonia山域の別の山に登ることが分かり、車に便乗させてもらうことに した。レスターから車で4時間…大した偶然もあったものだ。
1/23
レスター発21時過ぎ。Pen Y Pass (Pen-y-pass) の駐車場着午前1時過ぎ。意外 に整備されていて、かつ、たくさん(20台くらい)車が止まっていて驚く。路肩に 数台分の駐車場と便所くらいかと予想していたのだが。道路の向かい側からはディ スコか何かの大音量まで洩れ聞こえてくる。。。近くでビバー ク。
クローディアと別れてすぐ、明日の朝食、スパッツ、マップケースに入れた 1/25000地図を車に置き忘れて来たことに気付いた…ショック! 食糧、スパッツ はともかく地図は…。実は今回、たまたま1/50000地図を別の場所に入れていて、 助かった。不幸中の幸いだった。
1/24
6時45分起床。便所を探したりしているうちに時間が過ぎ、結局8:10発。日の 出前に発つはずが、すでに周りははっきりと明るく、3グループくらいは発って いたようだ。少しずつ高度を上げていき、Bwlch Y Moch の峠でひと息入れる。 ここで一般道と別れ、左に Llyn Llydaw湖を見ながら、ここからが急登になる。
分岐直後はともかく、その後はどうもルートがはっきりしない。もちろん、岩稜 だから、稜線を辿る限り、気がついたら全然別のところにいた、ということは あり得ないが…。そしてやがて、どうあっても手が必要な場所に行き当たる。荷 物が重い分、なるべく足で登るよう意識しつつ高度を稼いでいく。やがて、難し く見える場所にぶち当たった。なんとか落ちる心配はないという程度…。ひぃひぃ 言って越える。VD+ か S レベル? 重い荷物に武骨な冬靴では楽ではない。とし ているうちに、後ろから追い付いて来た人がさらりと右に避けて、あっと言う間 に私を抜いていってしまった。上から見ると、右のルートはずっと簡単ではない か! ルートが切れ落ちていると思ったのに、それは私の見誤りだった。どおりで。 難し過ぎると思った…。
それを契機に少しここのルート選択のコツを飲み込んでいった。有名な scrambling ルート(Grade 1)ということは、そんなに難しいはずはないので、迷っ たら右か左にルートを探せば簡単なルートが見つかる、というわけだ。日本なら、 このレベルならきっとペンキ印がありそうなものだが、そういうものが一切ない ところが英国らしい。自然にはできるだけ手を加えないのだ。ボルトなんて論外、 と。
ふぅふぅ言いながら、急登を登り切って、Crib Goch のピーク(921m)にたどり着く。途 中まで見えていた湖もここまで来る頃にはほとんど見えなくなってしまっている。 自分が雲の中に入ってしまったのだから…。そして、名物のナイフリッジの稜線 へ。切り立ち過ぎて稜線の上は歩けないので、数十cmか1mくらい左(南)側に下り たところに足場を求めて、稜線自体を手がかりにトラバースしていく。久々でおっ かなびっくり歩いていたところ、後ろから二人組がすーと抜いていった。彼らの 後に従いつつ、急場歩きの感覚を取り戻していった気がする。その後は速くはな いながらも滞りなく歩いていけた。途中にほんの一瞬雲が切れて、右下の湖が見 えたのが嬉しかった。
Crib Goch 稜線は予想よりは高度感があって楽しめる。とは言え、雲の中ではそ れも半減してしまうのだが。まぁ贅沢を言っても始まらない。淡々と歩を進めて、 二、三のケルンがある Garnedd Ugain (1065m)の比較的なだらかなピークにたど り着いた。それまで、今度のあのピークこそ Garnedd Ugain と何度も思ったこ とで…、ピークにたどり着いた時も、いやこの視界の向こうに次のピークがある やも、と疑心暗鬼になってしまっていた。いやはや。この日、雪は確かになかっ たが、1000m 以上では、クラスタリングした霜で覆われていた。当然、クランポ ンの出番はない。
さて、Garnedd Ugain を越えてすぐ、一般ルートが3本交わってくる。人通りが賑やか になってきた。頂上に続くなだらかな北稜の上を淡々と歩を進めて、12:26 分、頂上を踏む。視界30m。まぁ、頂上には違いない。登山電車の駅舎(この時期 は閉鎖されている)付近に50人くらいたむろしている。デイパックの人も小さな 子供連れも見かける。雪がない以上、一般道からなら、それで何とかなるのだろ う。ツェルトを張って休んでいるひと組が目をひいた。
さて、濡れた岩を散々掴んでずぶ濡れになっている手袋を替える。ところが…、 雲の中にいるためだろう、替えた手袋まで気がついたらかなり湿って保温能力が 落ちてしまっているではないか。凍えて動きもちょっと緩慢気味。視界は一向に 晴れないし、Y Lliwedd 方面の稜線で泊まることにして、ここは退散することに する。
今回、特に決めた宿泊地もないので、そういう意味で非常に気軽でいい。すばら しい!
急ぐこともなく、のんびりと horse shoe のもう片側の scrambling ルートを楽 しむ。Y Lliwedd
のピークを越えて、宿泊地を探しながら下り始める。あまり Y Lliwedd
に近いと、明日の登る楽しみが減るので、適当に下りたい。下降ルート が稜線を外れる 700m
地点付近の幾分平らなところで目星をつけることにする。 そして…楽しいツェルト泊…。
1/25
起床 6:30。結構、眠れて、体力恢復が感じられた。体をあっちにこっちにと捻っ て苦労して(ツェルトを破壊しないように)寝袋脱出、湯を沸かして簡単な朝食を 取る。特にゆっくりしたつもりもなかったが…、窮屈な姿勢での動作がやはり非 効率的だったようで、結局、出発は9:00になってしまった。急ぐ山旅ではないの で、よしとするか。
さて、昨夕以来初めてツェルトから出て驚いた。外は一面銀世界だ。雪が数cm積 もっている。そして当然周りには誰もいない一番乗り。すばらしい。近くの沼は 大きく拡大していた --- 乾いた地面を選んでてよかったってもんだ。
今日は、昨日通った Y Lliwedd を経由して、Wyddfa に再度登り、一般道沿いに Llanberis に下りる予定だ。ピッケルを手に新雪の中へと発つ。雪と岩とのミッ クス。昨日でルートファインディングの感覚は掴めた。今日は昨日以上に慎重に ルートを選びつつ歩を進め、やがて Y Lliwedd の頂に達する。陽が射していて 心地よい。一方、Wyddfa の方向は相変わらず雲がかかっている。というわけで、 ここで腰を落ち着けて、周りの景色を楽しむ。両側に広がる岩と湖と川とが美し い。向かいの Crib Goch を通る人がちらほら見える。
・・・時が経ち、Y Lliwedd まで雲が押し寄せてきたタイミングで腰を上げる。 小一時間、このメジャーなルートのピークを独り占めできたとはテント山行のお 蔭様に尽きる。贅沢な時間であった。
さて、雲の中の Wyddfa 目指し、昨日下ったルートを今度は登る。ほどなく(と
言ってもザックが肩に食い込むが…)頂上に着き、小休止。相変わらず視界はな
い。昨日よりずっと人が少ない。やはり雪と気温低下が効いているのだろう。い
る人の中でも、雪の地面にへっぴり腰の人も目につくし。初めての冬山としては、 Wyddfa
はいい山だろう。危険が少なく、人は多い。
さて、今回の山行も終盤、Llanberis に向けて下降 --- 一気に下った。実にな だらかな勾配の一般ルートなので楽であった。麓の Cafe & Information (人の よさそうなおばちゃんが短い時間ながら歓待してくれた。嫁さんを選ぶならアイ ルランド人よ、と力説してくれたものだ)でタクシーを手配して、待ち合わせの Plas y Brenin の登山センター(Mountaineering Centre)に。クローディアと無事落ち合って、 お互いの山行など語りつつ帰路に着いたのだった。
今回、久々の「まっとうな」山行だった。必ずしもよい景色には恵まれなかった が、存分に愉しめた。初めての経験もできたし。よかよか。
生活編
初日: 「本格的」ビバーク
1/23 深夜、ツェルトを固定するような木も周りになく、夜もすでに遅く、周り に人がうろついているのも気になって(ついでに出発前にBMCのテント泊のモラル というような本を読んだことも影響して…)、駐車場から50mくらい山に入ったと ころの石垣横でツェルトなしシュラフなし、シュラフカバーのみの「本格的」ビ バーク泊を試してみることにする。気温は0℃より高いはずだし…、風も石垣で 遮断されていたというのに、実に寒かった…。目出帽までかぶる羽目になった。 眠れない夜であった。ビバークは楽じゃない、と実感したのだった。
二日目: 幻聴?
1/24 Y Lliwedd 近くの稜線…、木が全くないので、ツェルトを張るのが楽では なさそうだ。風を防ぐためにも、張り綱を止めるためにも、少なくとも一方は岩 壁であって欲しい。地面は平坦かつ草があるところがいい…、それも乾いた…。 そんな我がままな希望をかなえるのはおそろしく難しいことが分かった。
結局、2m四方くらいの岩に隣接する、地面が一部草に覆われているところにした。 主綱は片方は岩の上、片方は少し離れた地面近くの岩角に止める…。風が強くなっ てきた。ザック他で、内側からツェルトの壁を押える。おっと、斜めの斜面でず れ落ちる…、引っ張りあげて、と…。風と格闘しながらの設営は結構消耗で、主 綱の固定点に不安を抱えつつもこれでよし、とした…。
しかし、狭い…。元々小さいツェルトのそれも半分は岩壁で使えず、草の場所は その半分くらいで、平坦でもなく、片側の主綱は地面近くから取っているから低 く、おまけにツェルトの中からところ狭しと壁をもので押えているから、体を伸 ばすスペースもない…。大いに苦労しながら湯を沸かし、α米とスープとの夕食 を済ませた。食後はすぐ就寝。19:15。
とにかく態勢が不自然なため、眠るのは困難を極めた。足を伸ばせないからその うち、足が吊りそうになる。上体を起こして腕で支えることでなんとか足を伸ば す。当然、それでは眠れない…。長い夜になることを覚悟する。
風はやたら強い。ツェルトが吹き飛ばされないか、主綱が外れないか、大いに心 配…。風は時々小康状態になるが、10分ごとにツェルトを大いに騒がし、浅い眠 りから起こされる。片側が岩なので、雨が降ると、岩を伝って、底が通常以上に 濡れることになるかも知れない。雨よ降るな…なんて祈りが通ずるはずもなく、 時折雨が、やがて雪らしき音でたたきつけることになる。要するに、嵐だ…。
夜半過ぎ、何度目かに目を覚ました時、人がツェルトの周りを歩く音が聞こえた…。 そんな馬鹿な…。こんなところに誰か来るはずもない…? 風のいたずら、つまり、 風と同期しているに違いない…いや、必ずしも同期していない気がする…? 銃を 持った人が周りを歩いている妄想が頭をよぎる。背筋をかなり冷たいものが走っ た。よく聴くと、歩く音は砂利道を歩く音だ。周りに砂利など存在しないから、 やはり風…? しかし…?
当然、何ごともなく、やがて気持ちが落ち着いたが、一時は本気で緊張した。うー む、私にもそういうことが起きるのか…。これで自分がもっとずっと疲れていて、 不安の中での予想外のビバークとなったりすると、本気で幻聴となるのかも知れ ないなぁ。いやはや、貴重な体験であった。
夜半も過ぎると、目覚める間隔がどんどん長くなっていった。つまり、思いの他、 よく眠れた。昨晩の寝不足も一日の登山の疲れも効いたことだろう。不自然な態 勢でも意外に眠れるものだ。そして、ツェルトが暖かいのにも驚いた。実に窮屈 ではあったが、それでも嵐の外に比べると中は天国と言っていい。ツェルトの壁 (屋根)と寝袋の間に狭いながらもそれなりの空間があったのも快適さにかなり効 いているのだろう。結果的には、ちょっとした嵐の中、朝に撤収するまで主綱も 外れずにもってくれた。ほっとしたものだ。次はもう少し信頼できるよう綱を張 りたいものだ。
何にせよ、ツェルト泊は技術と経験と(適地に恵まれる運と)を必要とすることが よくよく理解できた。快適さではまっとうなテントに及ぶべくもないが、その携 帯性、自由度は替え難い大きな魅力だ。雲の中の山頂でツェルトで休むなんての もなかなかおつだし。ツェルト泊は私のお気に入りになりそうだ。
タイム・テーブル
時刻 | 行動 | 高度(m) | 温度(℃) | 歩数(複歩) |
2004/01/23 |
||||
---|---|---|---|---|
21:20頃 | Leicester発 | |||
25:00頃 | Pen Y Pass着 | |||
2004/01/24 (Pen Y Pass → Crib Goch → Wyddfa → Y Lliwedd → 700m地点) |
||||
06:45 | 起床 | |||
08:10 | Pen Y Pass発 | |||
08:29 | 最初の川との交叉 | 410 | 630 | |
09:10 (10分休) | Bwlch Y Moch | 569 (590m(a)) | 6.2 | 850 |
10:25 (15分休) | Crib Goch | 921 (974m(a)) | 4.0 | 1130 |
11:00 | 923mピーク | 923 | ||
12:13 | Wyddfa への分岐 | |||
12:26 (60分休) | Wyddfa山頂 | 1085 (1134(a)) | 1.5 | |
南方面との分岐 | 1030 | 230 | ||
14:25 | 一般道(Nantgwynant方面)分岐 | 738 | 1300 | |
15:08 (5分休) | Y Lliwedd (West peak) | 898 | ||
15:20 | Y Lliwedd (East peak) | 893 (947(a)) | 2.0 | |
16:10(?) | 稜線からの下降地点 | 700 | ||
19:15 | 就寝 | |||
2004/01/25 (700m地点 → Y Lliwedd → Wyddfa → Llanberis ... Leicester) |
||||
06:30 | 起床 | |||
09:00 | 発 | 700 (769(a)) | 4.0 | |
09:31 | 818mピーク | 818 | ||
10:15 (45分休) | Y Lliwedd (West peak) | 898 (956(a)) | 2.7 | |
11:00 (発) | Y Lliwedd (West peak) | 〃 | 1.2 | |
11:50 | 一般道(Nantgwynant方面)分岐 | 738 | 2.5 | |
12:25 (10分休) | 一般道分岐 | |||
13:07 | 南方面との分岐 | 1030 | 850 | |
13:25 (20分休) | Wyddfa山頂 | 1085 (1152(a)) | 3.5 | |
14:22 | 線路を横切る | 775 | 1140 | |
15:00 | 線路を横切る | 440 | 2040 | |
15:16 | 家畜・車止め | 575 | ||
15:35 (10分休) | Pen-y-Ceunant Isaf (Cafe@Llanberis) | |||
16:00 | Mountaineering Centre@Plas y Brenin (タクシーにて) |
表注:
高度の表記は、(a)が高度計の読み、(s)が高度計をその高度にセット、それ以外 は地図から読み取った高度。
なお、高度計、温度計は、YAESUの無線機VX-5に付属のもの。歩数は、その前の 項目からの歩数(複歩)。
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