2007/01/01--2007/01/06 Highland 登山記録/感想文 (by まさ)

[Japanese / English]



総括

山域
Scotland/Highland/Cairngorm, Aviemore, Ben Nevis
参加者
グレアム・B、ベン・H、まさ
期間
2007/01/01 -- 2007/01/06 (5泊6日)
  • 01/01 Leicester ...(車)... Crewe ...(車)... Aviemore (家)
  • 01/02 家 ...(車)... Cairngorm 駐車場 ... Coire an t-Sneachda ... Jacob's ladder ... Cairngorm ... 駐車場 ... 往路戻る
  • 01/03 Invernesshire/Strathnairn/Huntly's Cave (day trip)
    1. Right-Hand Groove (10m VD); Leader Graeme, 2nd Masa
    2. Central Crack (20m HS 4b); Leader Masa (→ give up (climb down))
    3. Jam Crack (8m HS 4b); Leader Masa, 2nd Graeme
    4. Cave Route (25m HS); Leader Ben (→ give up)
  • 01/04 家 ...(車)... Fort William ... CIC hut ... Gardyloo Valey ... Ben Nevis ... pony track ... Fort William ... 往路戻る
  • 01/05 休息日
  • 01/06 家(@Aviemore) ...(車)... 帰路
宿泊
ベン宅
天候
  • 01/01 曇一時雪
  • 01/02 曇
  • 01/03 曇後雨
  • 01/04 雨後曇後雨
  • 01/05 晴
  • 01/06 雨時々曇

登山編

今年の正月は、グレアムと彼の友人ベンと共にスコットランドで過ごす。 ベンは、現在アビモア(Aviemore)村近くに住んでいるので、彼の家に 泊めさせてもらう。アビモア村は、ケアンゴーム山域 への拠点村という非常に便利な場所だ。そこを拠点に山行三昧 — 持つ べきものは友か? (笑)

ケアンゴーム山は、内陸に位置して標高があるため、英国で 最も寒い(ことが多い)ことで知られる。つまり、コンディションの読めない この時期としては、最高の場所だ。 1年前に来る話もあったが、その時は、結局 トリドン山地に行って、 雪の全然無い山行になってしまった。今年こそは、と願いたいところだ。

同行のグレアムとは、10日前にローチズ で一緒したばかり。登山やクライミングの経験は豊富なれど、まだ冬山の 経験は限られる様子。ベンもしかり。だから必然的に僕がリーダーになる。

01/01

長距離ドライブ。クルーまでは一人、そこで車を乗り換えて、 今度はグレアムの運転で、ベンを乗せて、スコットランドはアヴィモア(Aviemore)村の そのまたはずれにあるベンの家まで。アヴィモアに家があるなんて、冬期登山に これ以上の条件は望めない!

アヴィモアに近づくと、雪が降っている。山も上の方は白景色。これだね! 今年こそは期待できるか?!

01/02

ベンは仕事の関係で今日はお休み、グレアムと僕とは、最も近い山、 ケアンゴーム(Cairngorm)に登山に。アヴィモアこそケアンゴーム山への基地村。 英国全土からわざわざケアンゴーム山まで登山にスキーに来る人で賑わう。 (そんな所に家があるなんて素晴らしきかな!) 7時発。

ケアンゴーム山域は、特に南部の方は英国で最も山深いところだが、 一方、ケアンゴーム山自体は、有名なスキー・リゾートになっている (もっとも近年の暖冬続きで商売はあがったりという感じだそうだが)。 つまり、それなりの標高まで除雪されている舗装道が通じていて、 立派な駐車場もある。だから、登攀には短いアプローチで済むのが利点だ。

今日の目標は、ケアンゴーム山麓の Coire an t-Sneachda にある (Scottish) Grade I の Aladdin's Mirror。昨日、雪が 降っていたこともあり、入門者向けの中で最も雪崩の危険が少なそうなルート を探して、決めた次第。

今日の天気は曇で霧がち。しかし、気温は高くないし、嵐ということもない から不平は言えまい。アプローチの間、一瞬でもこの濃い霧が晴れて、北壁の様子が 見えないかなぁ、と甘い期待をしていたが、そうは問屋がおろさなかった……。 視界 50メートル以下。(北壁のすぐ近くにあるはずの)山岳救助ポストに 辿り着いた時も、そこから北壁は一切見えない始末だった。

最終的に、ここがルートの取り付きかな、というところに着いた。前方に ルートの谷が見える。この辺りにはすでに、2、3のパーティーがいる。 うちの一人に尋ねたところ、どうも僕らは東に来過ぎたらしいことが判明!

幸いなことに、この壁のほぼすべての谷は、Grade I なので、僕(と経験の少ない グレアム)でも十分登れる。おまけに、もしルートから少し外れたとしても、 大抵、Grade II までだから、危険は最小で済む。もともと、昨日雪が降って いたこともあり、僕は雪崩の危険を心配していたものだが、実際にルートに 来てみると、積雪の量はごく少ない(むしろ登攀の条件として十分でない くらい、少ない)。だから面発生雪崩はほぼあり得ない。北壁でしかも霧に 包まれているということは、点発生雪崩もまず起きまい。

ならば……、戻るのも面倒だし、前面の谷のルートを登りますか。Jacob's ladder、 Grade I (105m)。この北壁で最も有名なルートの一つ。15m の間隔でコンテのセットを して登り始める。もっとも、雪が少ないため、すぐに岩を登る必要に迫られて、 手に持つコイルを落とすことになった。

その岩の後は、主に軟雪の斜面に時折、ちょっとしたボルダリング。中間支点は 完璧ではないにせよ、なんとか十分か。最後の稜線前までに 2回、半マスト結び でグレアムを確保した。(グレアムにとって)少しだけ難しく思えたのも一つだが、 それ以上に支点用ギアを回収する必要があったためだ。

最後の稜線への乗り越し部だけピッチを切った。 本来なら、きのこ雪の登攀になるべきところなのだろうが、今は 2、3メートルの 垂直の岩。ここが核心。でもそう悪くもなく、ピッケル 1本で問題無く乗り越える。 今日の条件下では、この谷は、(Grade I でなく) Grade II と言うべきだろう。 グレアムにとって、冬期登攀へのいい入門となったことを!

ここからは稜線沿いにケアンゴームの頂上へ。風は強くないが……、視界は 悪い。おまけに登るにつれ、さらに悪化。頂上に着いた頃には視界は 30メートル 程度。でも、登ったことには違いない。おめでとう!

ここからの一般道に沿って、次いでスキー場の中の下降は、あまり面白いものでは ないが、致し方なし。ところどころ岩が見えているというのに、多くの人が スキーに興じていたのが印象的だった。

01/03

今日は、一昨日の天気予報では嵐で、とても登れそうにない様子。 蓋を開けてみると、下界だと雲が厚いとはいえ、そう悪くもない様子だが、 山の上の方は分からない。ベンの案内で、3人でアヴィモア近くの岩場 Huntly's Cave に岩登りに行く。

道から徒歩10分以内、谷間にある岩場。岩が思ったより濡れていて、 いい条件とはお世辞にも言えない。グレアムがリードした VD のルートを フォローしてから、HSの Central Crack をリードする。……しかし、5m ほど登った後のオーバーハングの乗り越しが、 岩が濡れていて自信が持てない。しばらくトライした後、断念、中間支点を 外しながら登り下りる(クライムダウン)ことになった。残念だけど、 落ちる危険を冒すよりはましでしょう。この天候条件では、やむ無し。

そこで近くの別の HS Jam Crack をリードする。こちらは、ジャミングで登れそうだから、濡れていても大丈夫 と期待して。……確かに大丈夫だったが、結局、核心はジャミングでなく、 小さなホールドを指の力で越えたのだった。フォローのグレアムはそこで 落ちて、結局ジャミングで登ったようだ。グレアムをして HS で落ちるくらい だから、やっぱり今日の条件はごく悪いということでしょう。

続いてベンが、この岩場の目玉の一つ、25m の HS の Cave Route をリードする。でも、結局、10m くらい登った後のオーバーハングで 断念して、ロワーダウンということになった。

この濡れた岩では、仕方ないね。雨が降り始めたこともあり、ここで 岩登りはお開きとした。その後は、アヴィモアの屋内人工壁に行って、 ミックスも含めたクライミングに興じたのだった。

01/04

今日は今回のスコットランド山行のメインとなる日。英国最高峰のベン・ネビスに 北壁から登る。 一般論としては最高峰だからと言って登山として素晴らしいとは全然限らないが、 このベン・ネビスは、その北壁の険しさは名高く、高度があることもあって(つまり 条件が整うことが多い)、英国最高の冬期登攀の舞台となっている。

今回は、中でも、頂上まで直登するルート Good Friday Climb を目標とする。 最終ピッチの確保支点が英国の最高高度にある、つまり頂上の三角柱(!)を 使う、という素晴らしいルート! 150m、Grade III。むしろシーズン初めの 雪が少ない時の方が条件としていいらしいので、今日は悪くなさそうだ。 実はベンにとっては初の冬山登攀になるが、彼の岩登りの技量を考えると、 ザイルで確保されている限り、問題無かろうと判断する。

5時頃アヴィモアを車で発ち、6時40分頃、フォート・ウィリアム(Fort William)を 発つ。ベン・ネビスの標高は 1350m 足らずとは言え、出発地点は 海抜 20m、楽な登山ではない。時折降る雨の中の出発となったのが ちょっと嫌らしいが、今日は満月のため、日の出はるか前に関わらず、 ぼんやりとものが見えるのはありがたい。夏に北壁から登ったことのある というグレアムとベンとの後をただ追っていく。

最近の暖かい状況では、もちろん、登山口に雪はない。 北壁の方向に回り込み、登山小屋まで登った頃、初めて雪に出会った。 そしてやがて、雪の谷の下部でハーネス装着、ピッケルを取り出す。 すぐにクランポンも出して、登っていく。軟雪だが、軟らかすぎも せず、比較的登りやすい。とは言え、傾斜は徐々に急になり、やがて 45°を越えることに。最後、前方に分かれる二つの谷の中央部の岩部まで登る。 ここで氷と岩とから支点を取って、ここからピッチを切ることにする。

ガイド本を確認すると、ちょっと右に来過ぎてしまったようだ。 Good Friday Climb はかなり左方にトラバースする必要がある。 トラバースの終了点がルートの第一ピッチの終了点に相当するようだ。 雪の急斜面の中央に、ぽつんと岩が見えるので、まずはそこを目指して 左にトラバースしていく。ちなみに支点のアイス・スクリューは、細い氷に 打ち込んだ 12cm だから、どれくらい信頼できるものやら。岩の方は TriCam の 2番だから、こちらは大丈夫だろう。いずれにせよ、雪の斜面では 途中でまともな支点を期待できないから、落ちるわけにはいかない。

確保はグレアム。立派な岩登りの経験・実績があるグレアムながら、 ダブル・ロープを確保器にセットするのに大いに戸惑っている。 扱いにくい冬用手袋にちょっと高度感ある現在位置、それに寒い気温(0℃くらいだが)も 手伝って、彼をして困惑させたかな。そう、それも冬期登攀では克服すべき ポイントの一つなんだよね!

30メートルのトラバースの後、第一ピッチの終了点として選んだ岩に着く。 意外にナッツに合ったクラックがなく、結局スリング 1本で支点を作って、 後続を確保(マジック・プレートを使って後続二人を同時確保)。 ここから Good Friday Climb の取り付き(=本来の第一ピッチの終了点) まで、さらに 60メートル、トラバースしていく。今度は、中間点の岩壁 2箇所で ナッツで中間支点を取れた。確保支点を作っている最中、確保のグレアムから 声がかかる。時間がかなりおしているから、(Grade III の) Good Friday Climb を断念して、相対的に易しい (Grade II の) Gardyloo Valley に登らないか、と。 僕は時刻を計っていたわけではないが……、彼が正しいことは実はどこかで 理解していた。つまり、時刻がかなり遅いことを。だからリーダーとして、 それはむしろ僕から提案すべきことだった……。思うに、このルートを 登りたい、という願いで判断が狂わされたということだ。ひどい話……。 グレアムとベンとが冷静で助かった、というものだ。

Gardyloo Valley (170m) は、(グレアムが)確保している岩のほぼ直上にある。 そこで、僕は、セット中の確保支点を外し、途中、中間支点も回収しながら、 60m トラバースし返して、そのまま上に登っていく。さて、時間が遅いという ことは、速く登る必要がある、ということ。だから、できる限り、1ピッチの 長さを長くしていきたい。

中間支点はあまり取れない。ルートは雪の谷の急斜面で右側は岩壁。 ザイル一杯に近付いたところで、右側に小さなレッジを見つける。 レッジ自体は悪くない。問題は支点が取れるか? ナッツ(Rock)2番と 3番とを セットするが、あまりよくない。ピッケルでさらにぶちこんでおく。 とはいえ、どれくらい信頼できるものやら(実際、あとで回収したグレアムによれば、 1個は非常に悪くてすぐ取れた、ということ)。そこで、下部にアングル・ピトンを 打ち込む — 謳うピトン — こんなものかな? 大丈夫だろう — と期待する。少なくとも、フォローの確保には問題なかろう (回収した グレアムによれば、しっかりと極まっていて回収に苦労した、という。よかった!)

今や、僕らは谷のまっただ中。次のピッチで傾斜はさらにいや増す。 アイス・バイルも持ち出して、ダブル・アックスで軟雪を登っていく。 右の岩壁には、何本かの細いクラックが走ってはいる。しかし、全て ベルグラで覆われていて、中間支点は取りようがない! これが噂に名高い 「支点の取れないベン・ネビス」か……。こんな易しいルートでもそうだとは。 代わりに、氷の小滝(というよりつらら)から 2箇所、雪に半分埋もれた岩 を掘り出してスリングを回すこと 1箇所から中間支点を取った。55m の後、 都合のいいことに、半分前面から隠されたレッジを見つける。 岩のクラックに残置されたナッツが氷に埋もれている。上にアイス・スクリューを 足して、これで十分な確保支点と言えよう。

次のピッチは、氷っぽく見える。楽しい氷壁登攀の始まりかな? 角度は大したことない。しかし、氷の質はよくない — 空気の気胞が多く……。 氷は左側に集中していて、僕はそちらを登っていった。ということは、可能性ある 中間支点は、(あまり信頼できそうにない)アイス・スクリューに限られる、 ということ。確かに右側は岩壁になっている。しかし、やはりベルグラに覆われて いるように見える。近付いてよく検分したなら、ベルグラのない岩のクラックも 見つかるかもしれない。しかし、右側は傾斜が急で、不安定なように見えるため、 (あるかどうかも分からない)中間支点を求めて右側にトラバースする気は しなかったのだった。

結果、この 60m のピッチで中間支点は 3本のアイス・スクリューのみ。 2本目だけ、まぁまぁ信頼できるか、という状態。ひぃ〜〜。 僕は今回、結構な量の岩用の登攀用具を持参している。元々のルートは 岩をそれなりに含む、ということだったし。一方、持参したスクリューは 5本のみ (そのうち 1本は、このピッチの確保支点としてすでに使用している)。 しかし、この谷のルートでは、岩の確保支点なんてほとんど取れないではないか! 少なくとも スクリュー 1本は、上の確保支点用に残して置く必要がある。 というわけで、3本のアイス・スクリューこそ僕が中間支点として使える 全てであって、まさにそうした次第だ。

運のいいことに、ちょうど 60m 行ったところで、面白い形の洞窟の前に、 立派なレッジがあった。22cm のスクリューを使ってアバラコフ・スレッドを作り、 スクリュー自体も打ち込んで、負荷分散をかける。ただし、氷の質がいかにも よくない……。負荷分散をかけた後でも、どれだけ信頼できるか確信が持てない。 本来なら、他の支点の可能性を頑張って探すべきではある。しかし、今、ザイルは 60メートル一杯。そして何より、暗くなりつつある今、急ぐ必要がある! 幸い、レッジ自体は座って腰がらみ確保するのに、快適で安全だった。 だから、フォローを確保する限り、支点に負荷をかけて強度を試す必要がない、 というのは嬉しい限りだった。

グレアムとベンとがフォローしてきて僕が次のピッチのリードに発つ頃には 16:30。まだものは見えるが、すでに日没後。ヘッドライトを装着。登る。

右側には、美しい氷滝がある。でも、都合のいいことに、目の前の洞窟が 半分氷で埋まっていて、そのまま中を登り抜けられるようだ。 おぉっ、これは面白い。洞窟を抜けた後は、さらに急になる氷壁に取り付く。 ここが核心だった。最高斜度 80°というところか? ここでも、スクリューが 唯一可能な中間支点で、2本打ち込んだ(うち、1本は全く用無しだったと、 フォローのグレアムは後に語ったが……)。

35m の後、ごく小さなレッジに着いた。僕の前方には雪の大斜面が取り囲むのみ。 スクリューを打ち込む。怪しい……。もう 1本 — だめだ、噛まないでは ないか! このスクラップ安物スクリュー!! 安物スクリューを買うのは愚かという こと、知識として聞いてはいたが、今やこのうえなくはっきりと身を持って 理解できた。願わくは、このルートの前、もっと安全な場所で理解して おきたかった……あぁっ! 眼前、氷の手前には岩角があったので、そこに ピッケルをかけて、一応のバックアップとしたものの、これは 実用的というよりむしろ精神安定剤というべきものだろう。

今や、随分と暗くなっていて、2本のダブルロープの緑色とオレンジ色と を見分けるのも簡単でなくなっている。それで焦ってしまったのだろう、 僕は確保支点の改善を断念して、「登っておいで」と声をかける。 つまり、信頼できないスクリューと、精神安定剤のピッケルのフックとが 僕のすべての支点という次第。グレアム、ベン、頼むから落ちないでくれよ……。

幸い、二人とも問題なく、このピッチを登ってきた。さて、後は、最終 ピッチを残すのみ。左斜め前方へのラインが、最も傾斜が緩く、 稜線へ抜けそう。純粋な雪のルート。つまり、中間支点なし。

僕は登る。長いピッチではない(25m?)。最後のきのこ雪はそう悪くはないが、 それでも格闘を要した。何とか格闘を終え、稜線に出た時の喜びと言ったら!

ピッケル 2本を埋めて確保支点として、ようやく「ビレイ解除」と叫ぶ。 ふぅ、ちょっと安心の時……。2本のザイルは、途中で絡んでしまった ようで、グレアムの側のザイルしか十分に引けなかった。グレアムがフォロー してきて、登攀の最中、もう 1本のザイルとのもつれを直してくれた。 稜線に到着、やっとベンの番。ベンは後に、(グレアムの後)独り後に残されて、 危ういアイス・スクリュー(申し訳ない!)だけが頼りの状況で、怖かった、 と術懐していた。でも、今、彼は登れる、そして稜線まで登り切った。
おめでとう!!

時刻は 19:30。気温 0℃。ついに登り切った。
短い距離を歩いてベン・ネビスの山頂を踏む。
結局、この山頂は、僕らが今朝楽観的に予想していたより、はるかにはるかに 遠かった。でも、僕らは登り切った。素晴らしい!!

後にグレアムは、彼にとってこれがベン・ネビスの 3回目の挑戦で、 初めて頂上を踏むことができて、非常に嬉しかった、と語った。 実は、もし、ポニー・トラック(pony track; ここでは一般登山道)を取るなら、 ベン・ネビスの 山頂を踏むのは全然難しくない。単調で整備された(=つまらない)道が頂上 まで続く。ちょっと体力が必要ながら、ハイキングのレベルだろう。 グレアムの以前のトライは、それぞれ北壁と北稜とから。いずれも ずっと上級者向け。しかし悪天などに阻まれて頂上を踏むこと叶わなかった そうだ。今回、グレアムは再び北壁から挑戦して、そして成功した — 賞賛に 値する! 登山家かくあるべし!!

このベン・ネビス頂上稜線は、ナビゲーションが難しいことで悪名高い。 だから、この夜間ナビゲーションが、僕らの冒険の最終章になる。 かなり疲労していた僕としては、グレアムのナビゲーションが信頼できて大助かり だった。グレアムを先頭に一般道(ポニー・トラック)を下り、登山口着 22:45。 16時間の山行となったのだった。疲れた、でも満足だった。素晴らしい山行だった。

反省

今、省みるに、最後のピッチ前の確保支点が後悔の限りだ。 自分で意識はしていなかったものの、要するに焦っていたようだ。 焦らなくてはいけない理由は何もなかったというのに。その時点で すでに周りは暗くなっていた。曇だったとは言え、満月の威力は絶大で、 視界はそう悪くはなかった。ヘッドランプ無しでも何とかものが見える くらい。そして、その時点で、稜線はすでに見えていた。加えて、 もし仮にどうしようもなくなっていたとしても、十分なビバーク用の 装備も持っていた。だから、焦るというのは、愚かな話だったと言える。 冷静さを保っているべきだった。あぁ、この自分の経験の無さ!

十分な確保支点は無かった。本当に? まぁ、そうだったかも知れない。 しかし、僕が作った支点よりははるかにはるかにましなものを作ることは 可能だっただろう。まず、(精神安定剤支点として)ピッケルをフックした岩角 には、アイス・フック(DMM Bulldog)を使えばよかった。もし使っていたら、 ずっと実用的な意味のある支点となっていただろうに。しかし、その時、 ハーネスの後ろにかけていたアイス・フックの存在は完全に忘れていた。 何たる無駄!

また、周りには十分な雪があったから、その気になれば、立派な雪の確保支点 を作ることができた。確かに時間はかかろう(それが雪の支点を作らなかった 理由だが)、しかし、そうすることで、(セカンドにとっての)この核心のピッチを、 僕が使ったぼろぼろの支点よりははるかに安全な確保支点で確保することができた。 当時、すでに相当暗くなっていた。その段階ですこし時間を惜しむ意味がどこに あったという? 速い方法としては、ピッケルとアイスバイルと両方を埋め込んで 負荷分散かける手もあった。そしたら、相当強い支点になっていただろう。 もちろん、そうしていたら、後続とピッケルを交換しなくてはいけなかったが、 でも、それのどこが問題? 全くもって、僕はそうすべきところだった。

そして、最後に、これらすべてに負荷分散をかけていたら、さらに(持参して いた)負荷限定ぬんちゃくまで使っていたら、確保支点は、十分な強さのものに なっていただろう。

加えて、上では、純粋に雪のルートの最終ピッチは何も中間支点が取れないと 書きはしたが、これは、今から考えると、正しいとは言えない。 セカンドからピッケルを 1本借りて、登り初めからすぐ後に神のナッツと して雪に埋め込むことができたはずだ。あるいは、もし仮にスノーバーを 持参していたなら、あっと言う間に支点が作れて、力強い味方となったこと だろう。

結局、僕は、暗くなって、意味無く焦っていたということだ。 結果、意味無く急いでしまった。大反省の点……。 何も起きなくて本当に幸いだった、というものだ。

01/05

昨日の今日で、今日は休養日。午後にアヴィモアの屋内壁に行って 遊ぶくらい。

01/06

そして残念ながらスコットランドを去る時が来た。 結局、登れたのは 2日間だったとは言え、その 2日間は非常に濃いもので、 大いに満足のゆくスコットランド山行だった。ここ 2年の欝噴を晴らした 感じかも! またの再訪を期したい。

後日談

01/04 に登った Gardyloo Valey は、後にガイド本 をよく見ると、雪が少ない時は、Grade III に相当するらしいことが 分かった。確かに、あの傾斜でのほとんど 100m に達する長い氷壁登攀は、 相当にハードなように感じたから、そういうものか。 今まで Grade III は登ったことがないから比較の対象がないので、 何とも言い難いが……。でも、ということは、Good Friday Climb (Grade III) も 僕らにとって問題無い、ということか? それはグッド・ニュース! 次は是非、 Good Friday Climb を登ってみたいものだ!


情報編

ケアンゴーム(Cairngorm)山

スコットランド登山の特に冬期の主役のひとつが、ケアンゴーム(Cairngorm)山。 内陸に位置し、高度もあるため、(ベン・ネビス山頂と並んで)英国で最も気温が 低くなりやすい場所、つまり、特に冬の初めには、冬期登攀の条件が最も 整いやすい場所だ。また、ケアンゴーム山麓には、スキー場がある関係で、 かなり上まで車で除雪された舗装道をアクセスできるため、登攀ルートへの アプローチが短くて済む。

ケアンゴーム山の北壁は中でも特に有名。 中でも Coire an t-Sneachda には低難度のルートが揃い、アプローチの短さもあり、 初級者向け、つまり、クライマーの人口密度も高い傾向があろう。

ケアンゴーム山系全体は、ケアンゴーム山から南に大きく広がる。 最も深い場所は、おそらく英国で最も舗装道路から離れた場所になる。 雪の状態にもよろうが、アプローチだけで丸 1日かそれ以上かかりそうだ。

アヴィモア(Aviemore)とケアンゴーム(Cairngorm)

スコットランドの特に冬期の主役のひとつであるケアンゴーム(Cairngorm)山への 登山基地となるのが、アヴィモア(Aviemore)村。ケアンゴーム山は英国屈指(条件 が整いやすいという意味で、おそらく最高)のスキーリゾートでもあるので、 アヴィモア村が栄える由縁。スコットランド南部(たとえばグラスゴー市)と 北部最大の拠点インバネス(Inverness)市を結ぶ幹線道路 A9 沿いに位置する。 ユースホステルをはじめ、宿泊施設にも事欠かない。

アヴィモア村には、有名な屋内人工壁がある。

Aviemore Indoor Climbing Wall
http://www.extreme-dream.com/

ここの(共同?)オーナーは、特にミックスの登攀で有名なスコット・ミュイール氏。 そのためでもあろう、2007年1月の段階で、ここは、英国で唯一、 ドライツーリングが通年で許されている人工壁だ(ただし、クランポンの使用は禁止)。 ただし、ドライツーリングをするためには、一度、登録して、人工壁のスタッフ から安全指導を受けることが条件。現実には、僕らが 3回行った限りでは、 ドライツーリングをしている人はほとんどいなかったが。

ボルダリング用ルートも豊富にあり、リード用の壁でも 5〜7メートル程度の高さ しかない。しかし、その後、天井を延々とルートが這ったりするので、 少なくともハードコアな人々にとっては、持久力が養えない、という不満もなかろう (10歳以下に見える少年少女が喜々として天井を這っているのは衝撃だった……)。 片隅には、キャンパスボード他、色々とクライミング用のトレーニング設備も 整っている。これはスコット・ミュイール氏の個人トレーニング施設ではないか、 と感じてしまった、僕らには厳し過ぎてとても手が出ないものも多数……。


タイム・テーブル

2007/01/01-06 Highland 山行タイム・テーブル (Masa)
時刻 行動 高度(m) 温度(℃) 歩数(複歩)
(計器) (地図)

表注:
高度の表記で (s) は高度計をその高度にセット。 なお、高度計は、無線機付属のものを使用。歩数は、その前の 項目からの歩数[複歩]。

2007/01/01
(Leicester → Crew → Aviemore近く)
10:10 Leicester発
12:30 Crew
13:30
15:30 Service(Carlisle手前) 5.5
16:10
スコットランド国境 1.5
20:10 ベン宅 0.5
25:00 就寝
2007/01/02
(ベン宅 → Cairngorm駐車場 → Coire an t-Sneachda → Cairngorm → 駐車場 → ベン宅)
06:00 起床
07:00 2
08:55 Cairngormスキー場駐車場発 2
09:35 川横切る 0 1580
10:02 lochans の間 750
Rescue Box
11:05 Jacob's Ladder登攀開始 -1
12:20 登攀終了 -1
1141m ピーク 1141 600
13:05 Cairngorm山頂 1244 -1 530
13:30
13:50 山上駅 0 600
13:55
14:57 駐車場 0
ベン宅
屋内人工壁
24:00 就寝
2007/01/03
(ベン宅 → StrathNairn/Huntly's Cave → 往路戻る)
09:45 起床
11:00頃
11:30 Huntly's Cave 10
15:30
22:00 就寝
2007/01/04
(ベン宅 → Fort William → Gardyloo Valley → Ben Nevis → Pony Track → Fort William → ベン宅)
04:00 起床
06:40頃 Fort William YH発 20(s) 10
07:30 平たくなったところ 530 2193
三叉路 430
08:50 CIC hut 100m手前 645 2200
09:30 gear+ビーコンチェック 845
09:55 2
クランポン装着(谷の右手、岸壁の下)
10:50 1035 1
12:00 ピッチ開始 1150(?) 1
16:30 洞穴前のピッチ開始前
19:30頃 登攀終了(稜線) 0
20:00 Ben Nevis山頂 約100
700 2
21:50 三叉路
22:45 登山口 60 20 4 2900
27:00 就寝
2007/01/05
(ベン宅 → 人口壁 → ベン宅)
11:00 起床
23:00 就寝
2007/01/06
(ベン宅 → Crew → Leicester)
08:00 起床
09:30 4.5
15:50 Crewe
17:20 4.5
19:30 Leicester

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まさ