2007/08/24--26 スコットランド/グレン・コー/アオナッハ・イーガッハ登山記録/感想文 (by まさ)

[Japanese / English]



総括

山域
Scotland/Lochaber/Glen Coe/Aonach Eagach
参加者
まさ
期間
2007/08/24--2007/08/26 (1泊2日)
  • 2007/08/24 Leicester (車運転)
  • 2007/08/25 ...(車)... Glen Coe/West Highland Way ... Stob Mhic Mhartuin ... Am Bodach (ビバーク)
  • 2007/08/26 Am Bodach ... Aonach Eagach ... Pap of Glencoe ... Glencoe村 ...(車)... Altnafeadh駐車場 ...(車)... Leicester
宿泊
  • 2007/08/24 運転
  • 2007/08/25 Am Bodach山頂でツェルト・ビバーク
天候
  • 2007/08/24 曇
  • 2007/08/25 曇時々雨
  • 2007/08/26 雨後曇

登山編

英国では、8月最後の週の月曜は祝日で、毎年 3連休になっている。 肘の調子がかんばしくない今年、気分もローで、特に予定は入れていなかった。 しかし、2、3日前に週末の天気予報を見るとなかなか良さそうではないか! では、とスコットランドまで出かけることにする (実は、直前にもう一度 天気予報を見直すと、僕が行く予定のハイランドだけ天候は今ひとつの ようだったが……、くじけず出かけた)。

どこに? 先の 5月の連休の時にも候補に上がっていた (結局、湖水地方山行となったが) グレン・コー(Glen Coe)のアオナッハ・イーガッハ(Aonach Eagach)縦走に 行くことにする。縦走ルートとして、英国の中で、スカイ島(Isle of Skye)の キュウリン(Cuillin)山地縦走に次いで素晴らしいとされる、つまり ブリテン島本島では最高とされるルートだ。というわけで、僕にとっては 以前から、スコットランドで行ってみたい場所の三本の指には入るところだった。

グレン・コーは、先の 4月の復活祭の 連休時に訪れたのが最初で最後。当時は、雨が降っていたので、 アオナッハ・イーガッハ(Aonach Eagach)は問題外としたものだった。 今度こそは!

今回、2日間かけて登ることにしたので、purist (完璧主義)アプローチを 取ることにする。つまり、 普通は、アオナッハ・イーガッハの始まる Am Bodach 山まで 下から登って、そこから楽しい痩せ尾根を縦走するところ、僕は、 アオナッハ・イーガッハを含む全稜線を縦走することにする。

08/24

天気予報によると、土曜の午後、そして日曜にかけての方が天気がよさそうだ。 連休前の渋滞も避けたいということもあり、金曜晩の出発は、21:37。 ゆっくり行くことにする。

08/25

途中のサービスエリアで 4時間の睡眠をはさんで、 夜通し(?)運転して、グレン・コーに正午に着く。途中、夜食を食べたり 眠ったりしたとは言え、14時間以上かかった次第。ガソリン給油に行ったりして 13時になってもまだ小雨がずっと降り続いている。うーむ。今晩は稜線で ビバークと決めているので、急ぐことはない。車の座席を倒して寝て、 天気の回復を待つことにする。

2時間後、少しましになった気がする頃、出発とした。最初は、長距離ウォーキング のルートとして有名な West Highland Way を行く。登山道はよく整備されて いて、行き交う人も多い。大きなザックを背負った人もちらほら見かける。 West Highland Way を無補給で歩き通す登山者だろうか。 僕は上下に合羽を着込んで歩き始めたものの、幸い雨はすぐやんで、 暑いだけになって合羽を脱ぐことに。

Devil's Staircase を通って 30分歩いて峠に着いたところで、West Highland Way を離れて アオナッハ・イーガッハにつながる稜線に向かう。「径」は途端に踏み跡へと 変わり、不明瞭に、あるいは消えてしまう。人の影もぱったりと途絶える。 そう、ハイランドはこうでなくては!

天候は少し回復してきて、時に晴れ間さえのぞくようになった。そうこなくては! 一人、ヒースに覆われる稜線を歩いていく。防水でない僕の登山靴は徐々に 濡れてくるが、それは覚悟の上だった。高度 700m で 14℃ある今日、 寒くはない。

今日の終点、歩登攀の始まる直前でもある、Am Bodach の山頂が 近付くと、稜線が岩でごつごつしてきた。靴にも少しは乾く機会があるか? それになにより、明日への期待も高まる、というものだ。

Am Bodach の山頂(943m)着 17:40。10℃。
ここから稜線沿いに下降するところが、歩登攀の始まりであり、最初の核心でも ある。明るい今のうちに、とザックを置いて偵察に出かける。歩登攀グレード 2、 という看板に偽り無し。難しくはないが、慎重さを要する、というところか。

この頃になると、霧雨がちらつき始める。ガスの中に包まれつつある様子。 急いで、ツェルトを張って、就寝準備を整えることに。山頂すぐそばの 岩陰の南側がいい感じなのだが……、風がそちらから吹いてきているから、 そこは諦めて、その同じ岩の逆側に陣取ることにする。スリングとナッツ 1個 で支点を取って、5m スリングを張って(細引きを忘れてきていた!)、ツェルト 設営。まぁ、こんなものか。

簡単な食事を済ませて寝袋の中にもぐり込む頃には、雨音が聞こえるように なっていた。19:15 就寝。7℃。

08/26

昨夜はもうひとつ寝つけなかった。寝袋の中にもぐりこんですぐ眠りに 落ちたのはいいものの、2時間も経たない間に目が覚めて(日が暮れていなかった)、 以降、かなり遅くまで — 時計は見ていなかったがひょっとしたら 3時くらい まで)寝つけなかった。だらしない。

朝、目を覚まして外を見ると、完全に雲の中の様子。待った方がよさそう、 と再び眠りについて……ということを 2、3度繰り返す。最終的に時計を見ると 午前 10時。これは少し寝過ぎた。起き出す。まだ雲の中のようだが、少し ましな気がする? 通り過ぎる登山者の声も聞こえてきた。 簡単な朝食、撤収を済ませて 11:05 発。この頃になると、天気は少しましに なって、どんよりとしているとは言え、それなりの視界は効くようになっていた。 9℃。

見える限りで、数人の登山者がアオナッハ・イーガッハの方に行っているようだ。 昨日偵察したところを慎重に降りて(朝一番だし、今度は荷物もあるし!)、 稜線を進む。次のピークを過ぎた頃になると、残念ながら再び雲の中に入って しまった。ここがアオナッハ・イーガッハの核心なのに、 ちょっと残念。

アオナッハ・イーガッハ(Aonach Eagach)と評価を分け合うという北ウェールズの クリブ・ゴッホ(Crib Goch)は文字通りの痩せ尾根、尾根上を歩くことができずに 尾根から 50cm 下がったところを、尾根につかまりながらトラバースしていく。 アオナッハ・イーガッハはそれとは少し感じが違い、稜線上に高さ数メートル のピナクル(柱峰)が林立し、それを越えていく感じになる。 クリブ・ゴッホに比べると、怖ければ迂回することが不可能ではない感じだ (すべてではないにせよ)。難易度としてはグレード 2 は妥当だろう。なにより、 ずっと緊張が持続するのがいい。アオナッハ・イーガッハ、さすがに評価が高い だけのことはある。気に入った。

次のピークに着いたところで、下降路を確認する。 アオナッハ・イーガッハは、ルートを終えた後の下降路が嫌らしいことで有名だ。 ルートを終えた後の山頂(Sgorr nam Fiannaidh)からほぼ直下降すると嫌らしい道になる。 一方、一番安全な道は、相当な遠回りになる。今日の僕は、時間があるので、 その遠回り道を選ぶことにする。加えて、もうひとつ山頂(Pap of Glencoe)を 欲張って、この稜線歩きを「完璧に」完結させようではないか!

ただ、その別れ道があまり明瞭ではないので、このガスの中、見誤るおそれが ある、と入念に地図を確認して出発 — ガスが晴れた、ラッキー! ……?? あれ、何か違う……?

稜線の歩登攀に思いの他時間がかかった結果、現在位置を見誤ってしまっていた! (ついでに、通過した山頂の数 1を 2と勘違いしていた……)。 下降路までは、もう一つ山頂を越えなくてはいけないのだった。いやはや、 ガスが晴れて幸いだった。だらしなや。

Cnap Glas (721m) を越えて、最後の目標地 Sgorr na Cìche (別名 Pap of Glencoe)山頂(742m)に着く。この山はそれなりに人気ある ようで、途中、10人ほどの登山者を見かけた。 今や天気はすっかり晴れて、両側にいい眺めが楽しめて最高だった。

ここからの下降路は、スコットランドとしては、踏み跡がそれなりに明瞭 だった。孤独な下降の後、グレン・コーの谷の舗装道着 15:17。

ここから主要道まで 1kmあまり歩いて出て、親指を使うことにする。 なにしろここから駐車場までは(この主要道沿いに) 15km もある。 とても歩く気はしない。考えてみれば、英国でヒッチハイクをするのは これが初めてかも? 親指を立ててにこっと微笑みかけるも、ひっきりなしに 近く通る車はなかなか止まってくれない……。30分も待っただろうか、 ようやく 1台止まってくれた。感謝! 実年夫婦。聞けば、運転していた旦那は、 昔アオナッハ・イーガッハ縦走をした時、やはりこうしてヒッチハイクを したことがあるそうで、以来、(ここで?)ヒッチハイカーを見かけたら 乗せてあげることに決めているんだとか。おぉっ、ありがたや!! 登山者の心、相通ず、って感じですね!

この後は、グレン・コーの宿兼レストランで夕食を取って、18時前に出発。 途中、1時間の睡眠をはさんで、自宅に翌朝 4時前着。
聞けば、この週末、イングランドは全域快晴だった、という。新聞には、 「『ようやくにして』英国に夏来る」との見出しが踊っていた。日光浴を 楽しむ人の写真と共に(この 2007年の夏は、英国は、この半世紀で最も 降水の多かった年だった。至るところで洪水禍に見舞われたし、とにかく 晴れ間がほとんど無かった)。 実はグレン・コーのレストランで見た、西ハイランド地方の(日曜日の)天気予報で さえ、「全域、晴れでしょう。ただし、800m 以上の山では、 雲に覆われる可能性がありますが」と言っていた。よりにもよって、 英国中でここしかない、という場所に僕は行っていた、ということか。 あらまぁ……。まぁ、そういう時もありますか。それなりに楽しかったからよしと しましょう。悪天の方が、(わざわざ持参した)ツェルトに感謝できていいという ものですしね! (強がり?)


情報編

以下の情報は、 「スコットランドの山情報」 のページにも転載しました。

Glen Coe (グレン・コー)

歴史と美しさで英国一有名な渓谷だが,”美しい”言葉を一般的に捉えてはならない. ”ここは地球ではない”.グレンコーについて間もないある日本人がこの場所を訪れて 思わず漏らしたこの言葉が,より正確な表現である. (Massie池田氏のページより)
http://sq uare.umin.ac.jp/~massie-tmd/site.html#Glencoe

地球ではない Glen Coe (グレン・コー)は、フォート・ウィリアム(Fort William)町 の南方 20km弱の場所にある渓谷です。その北西端に Glencoe(グレンコー)村が あり、そこから渓谷は約12〜15km にわたってほぼ東西に広がっています。 渓谷は、途中で横切る分水嶺を挟んで、西側が River Coe、東側が River Coupall の二つの川に沿っています。なお、River Coupall の方は、 Buachaille Etive Mòr 山(群)と Meall a' Bhùiridh山との間を通って 南西に流れる River Etive へと合流していて、この River Etive が作る Glen Etive (渓谷) がグレン・コーのお隣さんになります。

グラスゴー(あるいはイングランド)など南方から フォート・ウィリアム町に行く時には、ほぼ必然的にグレン・コー渓谷を 横断することになります。その(主要)道が A82、Pass of Glencoe (グレンコー街道)と呼ばれ、道沿いにちょっとした駐車スペースが並び、 よくバスツアーの観光客が立ち止まっては景色を鑑賞しています。 街道の両側、特に南側に、そびえる険しい断崖絶壁が一番の見もの。 また、道のすぐ近くに見えるコー川の滝も有名です。

グレンコー街道から南西に延びる Buachaille Etive Mòr 山(群)が グレン・コーの(東の)玄関口とよく称されます。 ただ、そのさらに東南数km の場所に、Meall a' Bhùiridh山 (1108m) があり、その北東面が、グレンコー(Glencoe)スキー場となっています。 冬は、ほぼ山頂までスキー・リフトなどでアクセスできます。

Buachaille Etive Mòr 山(群)の西に平行に走るのが Buachaille Etive Beag 山(群)です。その西に、平行に走るのが グレン・コー近辺の最高峰 Bidean nam Bian (1150m) を盟主とする 大きな山群で、グレンコー街道から見て南に、三つの険しい北壁 The Three Sisters (三姉妹) が臨んでいて、 よく写真に収められているものです。

グレンコー街道の北側には、Aonach Eagach (アオナッハ・イーガッハ)の 険しい稜線が東西に延びています。この稜線縦走は、ブリテン(Britain)本島内 で最高の稜線縦走(歩登攀 Grade 2)と評価の高いルートです。 その北側は、東西に長く延びる Loch Leven (ルベン湖)に向かって落ちていて、 西の方では、Glencoe(グレンコー)村もルベン湖に面しています。

グレン・コーは、その険しい山容から想像できる通り、季節を問わず、 厳しい山岳登攀の舞台として有名です (お隣の Glen Etive も忘れてはいけません)。 登攀を志すあなたにとって、グレン・コーは外せない場所と言えるでしょう。

宿泊

Glencoe村内は、ごく小さい村ではありますが、ホテルや B&B、 あるいは自炊形式(self-catering)の宿がいくつもあります。

村から南東に 2.5km ほど離れたところ(A82道沿いではなく、その北側の 側道沿い)には、ユースホステルがあります。 2007年春現在で、朝食すら出されないので、自炊が基本になります。

そのユースホステルからさらに 1.5km ほど道沿いに南東に離れたところに、 Clachaig Inn があり、ホテル(兼レストラン兼パブ兼喫茶店)となっています。 周りに何もないだけあって、登山家にはそれなりに知られる場所のようです。 ユースホステルから飲みに来ていると思しき人々も見かけたものでした (ユースホステルからは多分、もっとも近いパブになる)。

交通

グラスゴー(Glasgow)から/までは、長距離バス(coach)が走っています (CityLink社; Fort William行)。 グレン・コー渓谷内もバスがあるはずですが……、本数が限られるので、 注意が必要です。

参考リンク


タイム・テーブル

2007/08/24-26 Aonach Eagach 山行タイム・テーブル
時刻 行動 高度(m) (計器|地図) 温度(℃) 歩数(複歩)
表注:
高度の表記で (s) は高度計をその高度にセット。 なお、高度計は、腕時計を使用。 歩数は、その前の項目からの歩数[複歩]、 括弧「(...)」内は予測値。 GR は、Grid Reference Number で、省略時の頭文字は、NN。
2007/08/24
(Leicester → Holmes Chapel)
21:37 Leicester発
23:50 Holmes Chapel着
2007/08/25
(Holmes Chapel → Glen Coe → West Highland Way → Am Bodach)
00:23 Holmes Chapel着
02:35 サービス着
06:15
08:19 Balloch
10:05
11:07 Crianlarich
11:55 Glen Coe/Altnafeadh駐車場(GR220563)
12:30 給油
12:50 Glen Coe駐車場(GR220563)
14:53 19
15:07 着替(5分休) 17 500
(Devil's Staircase)
15:27 峠(GR216576) 548 15 550
15:47 Stob Mhic Mhartuin山頂 707 14 800
16:18 小ピーク(GR197578) 806 14 900
16:34 903mピーク手前 12 610
903mピーク(GR189579) 100
17:07 Sròn Gharbh山頂
(10分休)
873 1100
17:40 Am Bodach山頂 943 10 1100
19:15 就寝 7
2007/08/26
(Am Bodach → Aonach Eagach (Meall Dearg, Stob Coire Lèith) → Sgorr nam Fiannaidh → Pap of Glencoe → Glencoe村 → Altnafeadh → Glasgow → Leicester)
10:00 起床
10:30 登山者に会う
11:05 9
11:35 Meall Dearg山頂 953
12:35 Stob Coire Lèith山頂 940 9
12:44 発 (晴上る)
13:07 Sgorr nam Fiannaidh山頂 967 910
13:07 次のピーク(GR134582) 910 520
13:42 Cnap Glas 721 990
13:55 コル(GR127591) 14 610
14:02
14:16 Sgorr na Cìche
(Pap of Glencoe)
742 520 (410/375m/150m↑/15分)
14:26
(ダム経由)
15:17 舗装道(GR111586) 2400
(ヒッチハイク(30分程待つ))
16:26 Altnafeadh駐車場(GR220563)
16:47
16:59 Crachaig Inn (夕食)
17:50
19:13 道路脇 (Luss の少し後)
20:23
22:54 Penrith (夜食)
23:32
25:50 Tesco (Stokeの近く)
26:35 A50 サービス (J1そば)
26:59
27:50 自宅

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まさ