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8環(エイト環)

8環(エイト環)は、ある意味、クライマーのシンボルのような地位にある道具で しょうか。筆者がまだクライミングを始める以前、穂高で、ザックに二つの 8環 をくくりつけて歩いている人を見かけたのを印象深く覚えています。8環は、ク ライミングをしない人にはどうやって使うか見当もつかない一方、クライマーに は数多くの使い方を提供してくれます。筆者も、シンプルなデザインながら応用 に富む8環は、考案者に敬意を表したくなる、なかなか気が利いた道具だと感じ ます。

しかしながら、現代の登山においては、時代遅れの感が否めません。確保器とし て見た場合、他の確保器に比べ、

と欠点が目立ちます。

ほぼ唯一、確保器として優れている(かも知れない)点は、「制動がかからない 125」ために、動的確保が容易(否応なしに動的確保にな る)ということでしょう。したがって、動的確保が不可欠な状況、たとえば冬(や アルパインや沢)、には使い途がある[31]かも知れません。念のた め、(丈夫な)手袋の使用は絶対条件です。かつ8環ですから、シングルロープで の使用に限ります。しかし、動的確保が不可欠な状況ならば、一般論としてはダ ブルザイルを使うべき(第C章参照)ですから……、8環の活 躍する場所は、実はますます限られます。

そして、下降器としても、現在の最高の(筒型)確保器は十分に優れています。筆 者の個人的な使用感では、8環よりバリアブル・コントローラー(ワイルドカント リー社)に軍配を挙げます126。本当に優 れた下降器が必要ならば、下降専用の下降器を使った方がいいでしょうし。

というわけで、筆者の結論は、現在のほとんどの登山家には、8環は必要ない、 です。ベテランの方々には、「クライマーのシンボル」にこだわる人もいらっしゃ ると思いますし、また、その長い経験で使用法や限界を熟知してらっしゃること でしょう……から、ベテランの方々が 8環を使用することに筆者が口をはさむつ もりはありません。しかし、初心者の方が無理して 8環の茨の(=危険な)道に入 ることもないというのが筆者の意見です。

白状すると、筆者自身が最初に購入した確保器・下降器は 8環でしたし、長らく ギアラックの一角を占めてきたものでした。古の登山家の知恵の結晶と申します か、筒型確保器とはかなり異なる独特の使用法には惹かれるものがあります -- 今でも。そういう技術をマスターして使うのもひとつの「楽しみ」ですしね。で すので、そんな「楽しみ」を初心者の方から奪うつもりは毛頭ありません(それ が「楽しみ」である限りにおいて)。財布に余裕があれば、ひとつ購入してみる のも悪くないでしょう。各社出していますが、2つの輪の間の窪みが深いものが、 危険が少なく、扱いやすいでしょう。高度に「先鋭的」なものよりも、伝統的な 形状のものにしてみてはいかがでしょうか? 古の雰囲気を感じるためにも。

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坂野正明 2005年 10月 8日