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冬山用登山靴についての私見

いくつかの冬山装備の本によれば、冬山と言えばプラスチックブーツ(以下、 プラブーツ)、という雰囲気です。 一方、最近(2004年度冬期現在)はシングルの革靴(以下、単に革靴)が 勢力を挽回してきているようです(「革靴革命」[27])。 以下、両者を比較してみます (ダブルの革靴に関しては、筆者の知識不足のため、ここでは触れません。 一点だけ。保温性には最も優れている(プラブーツよりも)そうです。 因みに、現在、ダブルの革靴を置いてある店は多くないようです)。

保温性
プラブーツに軍配が上がります。プラブーツの保温性はインナーブーツで決まるので、 購入時にインナーもチェックしましょう。 一方、最近は革靴の性能が向上したため、革靴でも(日本の山なら) 問題ないと聞きます。ただし、冷え症の人などはこの限りではないかも知れません。 革靴にせよプラブーツにせよ、(冬用靴下を履いた上で)きつくない、と いうのは絶対条件です(きついと血行が阻害されるので、冷えやすい)。 冷えが気になる場合は、極薄靴下の上に、冬用の厚手靴下を二重に履く (その上で靴を合わせる)とよいでしょう。靴下も素材によって暖かさが 違うので、それも念頭に置いておくとさらにいいかと。
テントシューズとの兼用
冬期、宿泊地で登山靴を脱ぎたければ(普通、脱ぐものでしょう -- ビバークやよほどハードな山行でない限り)、テントシューズが必要になります。 プラブーツの場合、インナーブーツでもって、テントシューズ代わりに使えます。 但し、テントシューズに比べると、一般に保温性に劣るようです 128
耐水性
プラブーツは完全防水です。 革靴もメンテナンスを怠らなければ、問題ないでしょう。筆者の 経験でも、それは確認しています。
一方、革靴の場合、湿気などのため、プラブーツに比べて凍りやすく なります。夜、シュラフカバーの中に入れるなどの対策が必要です (プラブーツの場合は、インナーだけ気にすればいいので、楽)。
重量
一般に、革靴の方がずっと軽くなります[27]。 靴の重みは、登山において非常に重要です。「足周りの 100g は、背中 の荷物の 500g と同じ効果がある」[23]。厳しい箇所になれば なるほど、この違いは効いてきます。
コストパフォーマンス(耐久性)
本格的冬山用なら、販売価格は同じくらいでしょう (5万円前後?)。 プラブーツのメーカー保証は3年間129、 一方、革靴はメンテナンスを怠らなければ、ゆうに10年以上使えます。 革靴をオーダーメードで作る、という手もあります。 多少高くなりますが、幅広の足型の人などは一考の価値ありでしょう。 なお、革靴でミッドソールの素材としてポリウレタンを採用している ものがあるかも知れませんが、これは「経年劣化による破損」が起きるので、 要注意です。早めに靴底の貼り替えを行うことです。
履き心地
革靴は、履くにしたがって次第に足に馴染んできます。 一方、プラブーツは決して形が変わらないので、 少しでも足に合わないと、それはもうどうしようもありません。
用途
冬靴は普通の道は歩きにくいものですが、特にプラブーツは歩きにくくなります。 雪道の縦走なら、どちらでも大差ないようです(が、革靴の方が、軽い 分、疲労が少ないか?)。岩が入ってくると、 革靴の方がずっと登りやすくなります130。 一方、純粋なアイスクライミングでは、プラブーツに軍配が上がるようです。
アイゼンとの相性
冬山用プラブーツにはほぼ必ず(?)ワンタッチアイゼンが装着可能ですが、 革靴にはワンタッチアイゼン用の溝がついてないものが多い、つまり ワンタッチアイゼン以外のアイゼンを用意する必要がある(ことが 多い)でしょう131。 但し、プラブーツが突然破壊を起こすとワンタッチアイゼンは装着不能に なりますので、その点、注意が必要です。 一方、やわな革靴の場合、アイゼンバンドを締め過ぎると血行不良を起こす可能性があります。 ちゃんとした冬靴なら大丈夫でしょうが、特に夏冬兼用のものだと要注意です。
メンテナンス
メンテナンスの点では、革靴が面倒だとよく言われます。 革靴の場合、山行の前後で汚れを落とし、防水性の専用油を塗って、 革を軽く毛羽立てる、保管は風通しのよい室内で、というところでしょう。 山行中、就寝時は、凍らないように注意が必要 (とはいえ、 最近の革靴はかなり凍りにくくなっていますが)。 一方、プラスチックブーツの場合、(水分と紫外線とが大敵なので) 乾いた布で汚れを落とし、乾燥した暗所で保管となります。 加えて、突然破壊の予見のために、山行前後および山行の各朝に、 変色した箇所や傷がないかどうかを確認する必要があります。 山行中、就寝時は、インナーブーツのみ凍らないように注意が必要です。

…と考えると、結局どっちも面倒ではないか、と思うのですが?

プラブーツの突然破壊問題
ある条件が整った時、プラブーツは、ほぼ文字通り突然破壊を起こします。 プラブーツ用ワンタッチアイゼンは装着不能になりますし、 それ以前に、下山まですら持たないような劇的な破壊になり得るそうです。 奥深い冬山でこの現象が起きると、まさに進退極まって命が危険に曝されることになりかねません。

突然破壊を予見するのは実際はかなり難しいようです。 分かっているのは、水分と紫外線(つまり光、特に日光)とが大敵、ということです。 また、傷や変色があるということは、その部分が傷んでいる、ということなので、 そこから破壊が始まるかも知れません。 というわけで、上のメンテナンスの項で述べたような注意が必要なのです。 水分と紫外線とを完全にシャットアウトするのは通常不可能ですから、 たとえ使用しなくても、製造後 (購入後ではなく、あくまで製造後です) 年月が経過すればするほど(例えばメーカー保証が約3年)、 危険性が高まります。もちろん、頻繁に使用しているなら、 その分、劣化も速いでしょう。 なお、購入後すぐ壊れた、という事例もあるそうです。 一方、7年くらい経っても別に問題ない、というケースもあります。

(筆者が)きちんと調べたわけではありませんが、多分、突然破壊の確率 はそんなに高いものではないのでしょう132。 一方、突然破壊の最大の問題は、そのインパクト、つまり命に関わる、 という点にあるのが、厄介です。

(実はこの第一版の後、 あまり突然破壊の話自体を聞かない気がしますが……、素材の質が 向上した? インターネットで検索すると、2003年の事例とかもある ようではありますが。)

というわけで、2005年現在、革靴は、勝りこそすれ劣る点は多くない、と いうのが筆者の結論です。最大の問題は、おそらく保温性でしょうか。 しかし、保温性を真剣に気にするならば、ダブルの革靴を購入すればいい 話かと考えるところです。もちろん、純粋なアイスクライミングなど、 プラブーツの方が優れている場面もあるのは、上述した通りです。

あとは……皆様の選択ですね。

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坂野正明 2005年 10月 8日