△第72号: マロリーのスラブの悪夢 (後編)
- 発行日
- 2008/05/16
- 発行者・筆者
- まさ (坂野正明)
まさです。
先週末はコーンウォールで海岸沿いの断崖を登ってきました。 3日間で 10ルート、27ピッチ相当を登って大満足の週末でした。
もうすぐジューン・ブライドの 6月、一年で一番いい季節の 英国です。
さて前回に引続き、北ウェールズでの悪夢の山行について、その後編です。
英語で、(予想外に)大変な山行(に限りませんが)になった「事件」のことを、
epic
とよく言います。辞書の直訳は「叙事詩的事件」「壮大な仕事」など
でしょうが、現実にはそこまでおおげさでなくても、epic
はよく使われます。 この時のパートナーのダンと僕と二人は、この
epic
のため、 先々週あった山岳部の年次総会では、 「Best epic
award」(最高[最悪]山行賞)に選ばれ、 頭かきかき頂戴したものでした。ちなみにダンとは、
この夏、欧州アルプス登山を計画しています。懲りない面々? (苦笑)
この山行後には、英文で長い反省文も書きました。 まとめの部分を邦訳して以下に載せています。 お楽しみ(?)下さい。
目次
登山記録編 〜〜 マロリーのスラブの悪夢 (後編) 〜〜
(前号からのつづき — 雨の夜中、垂壁の真ん中から 200m 近くの懸垂下降を余儀なくされた まさとダンとは……)
既に日は暮れている。懸垂下降は少なくとも 6ピッチは必要そうだ。 どれだけ時間がかかることか……。 幸い、部の仲間に携帯電話で連絡がついたので、遅くなることを知ら せておく。申し訳ないが、速く降りることは、今は全く考えられない。 毎ピッチ、懸垂支点をセットするのは僕になるから、 僕がまず降りて、支点をセットした後、ダンを呼ぶことになる。つまり、 (ヘッドランプを忘れてしまった)僕はダンのヘッドランプを借りるわけだ。
食べ物を取って、ダンは少し元気になったようだ。曰く 「(自分が)クライミングを続けていく以上、
遅かれ早かれこんな状況にはいつか出くわすわけだから、 (経験豊かな)まさと一緒にこういう状況に出会えたってのは、
ある意味、最高に幸運だよ。」 ありがとう。
褒め言葉に浮き上がっている場合では全くないのでそれはいいんだけど、 君が元気になってくれて何よりだ。
お互いにしっかりとやるべきことをやって、この状況を無事に脱しようね。
懸垂下降第一ピッチ、垂壁上を谷部に降りていく。周り以上に暗い谷部に降りると、 後戻りできない、という感覚がひしひしと迫ってくる。 今後は、懸垂下降を続けるのみ。第一ピッチの支点をセットして、 ザイルを引いて回収可能性をテストしてから、ダンを呼ぶ。 済まないね、雨の暗闇の中で待たせてしまって。
自己確保確認。下降器解除。ザイル末端の結び目を解く。片方を カラビナに結びつける。ザイルを引く。回収完了。支点を再確認……。 1ピッチ、1ピッチ、懸垂下降を進めていった。 それでもどこか焦りがあったのだろう。 2ピッチ目の支点作りの最中、ナイフで過って人指指をざっくり 切ってしまった……。絆創膏を張るも、すぐ血で真っ赤に染まり、 下降中出血が止まることなかった。アドレナリンのおかげか、 大して痛くは無く作業に支障がなかったのは、不幸中の幸いか。
この下降、何が怖いと言って、満足な懸垂支点を作るのが恐ろしく骨だったこと。 懸垂下降の真のリスクを、今回、初めて身をもって体験することになった……。 懸垂下降の場合、懸垂支点が全てだから、それが飛ぶと、一巻の終わりになる。 たとえば、よさそうなフレーク(岩角)があるも、スリングを かけて体重をかけてみると、50cm 以上あるフレークがぼこっと取れて、 足下、そしてさらに下へと落ちていったりした。つまり、岩が脆く、 フレークさえ信頼できない。
したがって、この懸垂下降、僕のありとあらゆる知識を総動員して、 何とか信頼度を少しでも上げる
必死の努力を傾倒していくことになった。オフセット・ナッツの オポジション(対抗)・セット、ヘックスの片側引きセット、ありとあらゆる
種類の荷重分散……。本でしか見たことがなかった知識がこんなところで 役に立つ。
あとで計算すると、1ピッチに1時間弱かけていた……。 ほとんどの時間、暗闇の中、灯も無く孤独に待っていたダンも
おつかれさまだった。
こうして、計 8ピッチの懸垂の後、懸垂無く歩登攀で下れる 場所まで着いた。ほっとすること測り知れない……。ようやく生還が (ほぼ)確実になった瞬間。
油断は禁物と気を引き締め直して、多少の歩登攀を交えて下っていき……、 やがて、しっかりとした平坦な登山道に出る。 24時半、駐車場到着。マイクロバスが一台だけ見える。
「ただいま! お待たせしてごめんなさい!」
△以上、記録の一部。全文は、以下に載せました。
http://alpiniste.hp.infoseek.co.jp/record/uk/20071123_nwales.jis.html
議論提起編 〜〜 遭難を避けるための十の教訓 〜〜
以下、今回のニアミスから学んだ 10の教訓を列挙します。
- 事前に予定時刻を計算しておいて、実際の進度と比べるべし。
- ヘッドランプ(とナイフ)を忘れるべからず。
- 山行計画書をちゃんと残しておくべし。
- (懸垂下降用の)十分な量の残置スリングを持っていくべし。
- 出発直前に装備の最終チェックをするべし。
- マルチピッチ懸垂下降を事前に十分に練習しておくべし。
- エスケープルートを事前に考えておくべし。
- 長さ可変のぬんちゃくは懸垂下降用にも便利。
- チョークバッグ用の紐は登攀用スリングを、ナッツキー用のカラビナも登攀用にすべし。
- ある有名な登山家曰く
登山とは、可能な限りの知識を頭に詰め込んでおいて、必要になった時に それを引き出して使うものだ。
勉強に終わり無し、学び続けるべし。
△今回の山行の反省文全文は、以下に(英文で)載せています。
http://alpiniste.hp.infoseek.co.jp/record/uk/20071125_lliwedd_reflection.txt
Webページ更新情報
- この記事は、以下にも載せました。
http://alpiniste.hp.infoseek.co.jp/magazine/backnumber/eu072.html
次回予告
次回は… 「ケアンゴーム北圏谷のクリスマス山行」
See you later!
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