△第89号: 5年越しの目標の道 (ミルストーン・エッジ)
- 発行日
- 2009/04/29
- 発行者・筆者
- まさ (坂野正明)
まさです。
英国の登攀と言えば、まずピーク地方のグリット石(硬砂岩)での 伝統登攀が世界的に有名です。 昨年末にも米国の世界超一流クライマーが
わざわざグリット石地帯を訪れて何週間か過ごし、厳しいルートを次々に登って 英国登山界に旋風を巻起こしていたものでした。
グリット石は砂岩の一種のため摩擦が素晴らしく、しかも 硬くてしっかりしてい るため登攀には最適、ある意味で クライマーの夢を体現したような岩です。だからこそ こよなく愛されている次第 — もっとも、毛嫌いする 人もしばしばいますが。……たでくう虫も?
一方、高さという意味ではグリット石の岩場はたかが知れていて、 10メートルあまりが普通です。 とはいえ、そんなグリット石岩場にも例外はあります。 今回、その例外のひとつ、そして僕の思い出の岩場を訪れ、 長年の夢をかなえた登攀の記録を主とします。 お楽しみ下さい。
目次
登山記録編 〜〜 5年越しの目標の道 (ミルストーン・エッジ) 〜〜
Millstone Edge (ミルストーン・エッジ)に来る。 ここには思い出がある。 僕が英国に来た時、最初、あまり「高い」岩場で岩登りを したことはなかった。 そんな折、 2003年5月に訪れた ミルストーンは、 他と違って 30メートルに達する文字通りの垂壁がそびえ、 圧倒的な存在感を感じたものだった。これこそ岩登り、と ひと目惚れしたものだ。
その日、 パートナーのマークから、これをトップロープで 登るのを今日のハイライトとしよう、と言われたルートが Great North Road だった。 その日、結局、他のルートで実力不足を痛感し、触ることもなく立ち去った。 しかしそれ以来、 この Great North Road は僕の記憶に深く残り、いつか登ってやろう、 という最大の目標になっていた。
Great North Road は 32メートルの HVS。スタミナが要求されそうだ (マーク言うところの「レイバックのマラソン(!)」)。 おそらくはジャミングも。 HVSの数を登ってきた僕だが、 少しの不安がなかなか拭えなかった……実際、 Great North Road は下から見上げるだけで、その威圧感をひしひしと 感じてしまうのだ。 最近は、スタミナにも段々と自信がついてきた。 今日、時は満ちたか。
いよいよ Great North Road に取付く。 最初のクラックを登り切ってひと休みできるところまで登る。 — 思ったよりは少し手間取って、もうすでにちょっと疲れを感じる ような。いやいや、大丈夫なはずだ。登るのみ。
……十分な支点に関わらず なぜか怖い。高度感のなせる技か。あるいは失敗への恐れか。 グレート(Great)な道(Road)ということだろう。
ルーフ直下に達したところでブリッジでひと休み。ここで直下を トラバースしてから上に抜けるところが、下から見た感じでは、 明らかにもっとも難しく見える箇所だ。とはいえ、ガイド本は、 その前の方が技術的には難しい、という。つまり、僕はすでに 核心は越えてきたということ、登れないはずがない。 必死で自分に言い聞かせる。 ホールドとスタンスとを何度も何度も確認して、いざ突撃。 スタンスを確実に取り、指の力を頼りに左へトラバース、 そして上方へ — ルーフの上へ登り抜けた! ほっ。
とはいえ、まだルートが終わったわけではない。安心するには 早過ぎる。……実際、最後の箇所は、技術的にも結構なもので(4c?)、 中間支点も頼りなく十分怖かった。今までの緊張で、不要な力を 使ったせいだろう、腕も張ってきている。慎重にホールドを選んで 取って、最後、ついにルートを登り切った!!
素晴らしい……。本当にいいルートだった。 惜しむらくは、多分、僕はこのルートを、もっと前に登っておく べきだった。今の僕にとっては、このルートは、自分の限界よりは ずっと下の水準にあるため、(緊張したとはいえ)客観的に見て かなり余力を残した状態で登っていた。 もっと前に登っていたら、生涯記憶に残る登攀になったかも知れない。 贅沢なことながら、その点だけが少し惜しまれる。とはいえ、 今まで登った HVS の中でこのルートは、最高だった。
△以上、記録の一部。全文は、以下に載せました。
http://alpiniste.hp.infoseek.co.jp/record/uk/20080713_millstone.jis.html
登山ミニ知識編 〜〜 岩登り難易度の感覚 (その四) 〜〜
(第87号「岩登り難易度の感覚 (その三)」からのつづき。)
VSの次の壁が HVS (Hard Very Severe) なのは、ほぼ異論がないところです。 かって(数十年前)は、HVS を 登れるのはエリートだけでした。今では、長く登り続ける人なら、HVS まで 登って終わる、という人が大勢のようです。HVS では易しい ルートはそう難しくありませんが(ただし、支点に問題があって落ちたくは ないものになります)、最高難度の HVS は、おそろしく困難になります。 そういう意味で、難易度に最大の幅があるのは、HVS でしょう。つまり、 HVS の易しいルートなら登れる人と、HVS ならほぼ間違いなく登れる人との 間には、大きな差があります。
また、HVS のルートの少なからぬ数が、 「歴史的な」理由で HVS になっているようにも感じます。つまり、ずっと 昔に初登された伝統のルートが、長らく HVS となっているため、 今も難易度が変化していない、という次第。 実際、ガイド本でさえ、ある HVSのルートの説明として、 「HVSにしてはハード? これは伝統のルート、何を期待してらっしゃる?」 なんて表現を見かけたことがあるくらいですから。
クライマーの一般的傾向として、自分が登れたルートは、 低めの難易度をつけたがります。自分が登れた以上、 難易度は○○と主張したくなる、そんな傾向が最も顕著に 顕われている、それが HVSなのかも知れません。 英国に来て HVSのルートがあった時、初登が何十年も前ならば、 心してかかった方がいいでしょう。
(つづく)
Webページ更新情報
- この記事は、以下にも載せました。
http://alpiniste.hp.infoseek.co.jp/magazine/backnumber/eu089.html - この 3日前の Wildcat の岩登りの記録を以下に載せました。
http://alpiniste.hp.infoseek.co.jp/record/uk/20080710_wildcat.jis.html
次回予告
次回は… 「極端登攀の壁 (スタニッジ・エッジ)」
See you later!
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