安全紐
僕が最初に冬山を習った時、ピッケルは冬山では命、何があっても絶対に紛失し ないよう、安全紐をつけて、それを肩に懸ける、しかも、それは間違ってもピッ ケルを落とすことないよう、安全紐はザックを背負う前に肩に懸けるべし、と習っ た。
ところが、今回のアルパインクライミング講習では、講習の最初に僕は、先生から、ピッケルの安全紐を外すよう、 指示された。あとで先生に伺うと、以下のようなコメントだった。
僕は、安全紐は大嫌いですね。ザイルに絡まるのがおちだから。大体、プロ で安全紐を使っている人なんていないでしょう?
無くす可能性がある? 僕のこのピッケルは20歳を超えてますよ。
クレバスに落ちたときに、ピッケルを手放す可能性がある? まぁ、そうかも 知れないけれど、僕の25年のキャリアの中で、クレバスに本気で落ちた人は、 一人しかいません。それくらい稀なケースと言っていいですからね。
今回、(夏の?)アルプスで感じたのは、万一、どうしても行き詰まったら、(ヘリ での)救助を呼べばいい、という感覚のような気がする。たとえば装備を極端に 削る、ということは、裏返しとして、万一遭難した時に自己救助が大変というこ とに他ならない。たとえば、一日分の水しか持たず、火も持たないのならば(先 生は、ビバークが最初から予定に入っていない限り、アルプスでストーブを持っ ていったことはない、とおっしゃっていた)、万一遭難した時、3日と持たない、 ということを意味する。
このピッケルの安全紐もその感覚の延長のような気が僕にはした。プロは安全紐 を使わない、そうなのかも知れない(ただ、少なくともダブルアックスの時、安 全紐を使う人はいた気がするが)。しかし、プロの場合(プロにも色々あるが、冒 険家ならば)、極論すれば、命懸けで未踏の領域に入ろうとするわけだから、ピッ ケルを落とさないことを前提にして、ルートに踏み込むことは大いにあり得る話 だと思う。一方、その他大勢の趣味の登山家にとっては、ピッケルをミスで落と したら高確率の死が待っている、というのではちょっとついていけない。
ザイルに絡まる恐れは確かになくはない。しかし、安全紐の扱いに習熟していれ ば、その危険性は無視できる水準に抑えられる、と僕は考える。安全紐とザイル とが絡み付く、というのは、結構素人的な状況ではないか? 気を遣う点が一点増 えるのは確かだが、習熟すればそれはほとんど無意識のうちに対応できるはずだ。
ただし、コンテを使う場合(そしてアルパイン・クライミングでは、コンテは必 須だ)、安全紐をザックの下にかけると、それはかなり扱いにくいと理解した。 安全紐を(ザイルの肩に懸けた)コイルの下に持ってくると、安全紐がよほど長く ない限り(当然それは避けたい!)、ピッケルの動きに著しい制限を受けてしまう し、かと言ってコイルの上に持ってくれば、今度はコイルを解くのが非常にやや こしくなる。
というわけで、現在の僕の結論は、以下の通りだ。如何だろうか?
- ピッケルの(肩掛け)安全紐は使う
- それはザックを背負った後、(ザイルの)コイルを巻いた後、最後に肩に懸 ける (コイルを解く場合は、まず安全紐を外してから作業する)
コンテ
コンテは、僕にはまだ最適な方法が掴めていない。氷河地帯ならば、単純だ。手 にコイルを持たず、ザイルを張って歩く。では、岩場ならば? 手のコイルはどう するのか? 今回の講習中では、ロックするよう教わったが……?
基本的に、手を積極的に使わなければいけない場所ならば、コイルは落として、 氷河歩行のような形で歩くことになるだろう。 一方、コイルを保持する時には、どんな時に、手のコイルを ロックさせるのがよくて、どんな時に、単に巻いているのがいいのか?
手に持っているコイルをロックさせると、反応速度と反応効率とは最大になり得 る。つまり、後続がバランスを崩した時、即座にそれに反応できるし、正確に反 応すれば、もっともよくコントロールできるだろう。それは確かに利点だ。しか し、これは諸刃の剣で、下からの衝撃がほぼ直接に来てしまう、という欠点にも なるのではないか? つまり、衝撃を流すことができないから、いざという時に、 自分のバランスがすぐ崩れる可能性がある。
一方、ロックが無ければ、すぐ反応すべき時にすぐ反応できない、つまり、意図 に反して衝撃を流してしまい、それが致命的になることがあり得ると推測できる。
現在の僕の結論は、流すことに意味がある場所、たとえば雪の斜面などならば 普通にコイルを巻いているのがよい、一方、即座に止めないと(つまり、流した ところで)止めようがない場所、たとえば岩の急斜面ならば、ロックさせておく のがよい、というところだ。ただ、まだ、正直、 明確な基準が持てずにいる。ご意見下さればありがたく(2006/03)。
氷河歩行
氷河歩行で危険と思われる地帯を歩くとき、人々の間のザイルの長さはどれくら いがいいのだろう? 講習中、そういった時、ザイルを短くしたことがあった。こ れは本当によかったのだろうか? 現在、それについて素朴な疑問がある。
クレバスに落ちた時、それを止めるのは、アンザイレンしている人(体、ピッケ ル、アイゼンなど)と雪(地面)との摩擦の他に、ザイルとの雪との摩擦がかなり 効く、と聞く。だからこそ、途中に結び目を作るのが効果的なのだから。
また、ザイルが長すぎるのは、よくない、と言われる。理論的には、落ちた時の 最大衝撃力は、ザイルが長ければ長いほど、少なくなるのではないか? つまり、 長いザイルの方が、止まりやすいのではないか? 一方、確かに、長すぎた場合、 前と後ろの間の間隔が開きすぎて、前行く人の踏み跡をうまく辿れなかったり、 長いザイルを張ったまま歩くのが困難だったり(ザイルを張っていないと、最初 の衝撃が来るまでの落下距離が長くなる、つまり止めるべき総運動エネルギーが 大きくなるから、これは問題だ)、確かに扱いに困る点はあるだろう。また、ザ イルが延びすぎると、落ちた人がその間にクレバスの底なりどこかなりに体をぶ つけて怪我する可能性が高くもなるだろう。だから、結論として、長所短所両方 を考えて、長すぎるザイル間隔が確かに問題なのは分かる。
しかし、普段氷河歩行で歩いているザイルの間隔を、危険地帯で「縮める」意味 はあるのだろうか? 危険地帯なら、むしろ、(ロープを張ることを強く意識する、 という前提の上で)長く取った方がいいくらいなのではないか?
という疑問を持っていたところ、ヤマケイの教科書には、危険地帯では長く すべし、というくだりがあった。僕の考えと一致する。
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まさ