North Wales/Tremadog/Craig Bwlch y Moch (2001)

山域: North Wales/Tremadog/Craig Bwlch y Moch (Left-hand section)
目的: Climbing
日時: 2001/11/16--18 ((前夜発)2泊3日)
参加者(ULMC): ジョン・クラックネル(CL)、ロブ、トム、ジョナサン、 ケイティー、バーニー、ジェーン、リック、坂野 正明 (計9名)
天候: 曇

今回、私にとって英国で初めての泊りがけの山行。11月に入って天候が 少しよくなったおかげか、結局雨が降らず、2日間とも登れた。画期的だ。

因みにこの "Craig Bwlch y Moch" は、ウェールズ語で、英訳すると "the pigs' pass crag" --- "豚の通り道岸壁" くらいになるそうな。 2、3人の英国人(イングランド人)に訊いたところ、意味はもちろん、 発音すらできなかった。強烈。ウェールズ人に発音してもらったところ、 "クライグ・バルホ・ア・モーホ" のように聞こえた。

第一部 (岩登り編)

岩登りの2日間、私はロブとコンビを組んだ。同じルートをジョン(リード)、 ケイティー、ジェーンが続くが、確保は2組で完全に独立で行なう。ルート には、やっぱりボルトは全く見当たらない --- つまりどこがルートかもよく 分からなかったりして、時に間違えることになる。我々は9mmのダブルロープ で登った。リードはもちろんロブ。「ダブルロープの確保って経験ない から…、落ちないで下さいね」とロブに声をかけると、「う、うん、ありが とう、ありがとう」とひきつった表情で応えてくれた。

1日目は、Captain's Crack(?) (175feet; VS(Very Severe))、2ピッチと少し。 2日目は、Christmas Curry (250feet; S(Severe))、3ピッチ。 結局、この2本を完登した。1日目はもう1本チャレンジしたが、ロブが 途中で断念、あとで上から空中懸垂で中間支点を回収と相成った。

2本とも技術的には難しくないが、高度感が楽しめるマルチピッチの 好ルートだった。眼下に広がる緑の牧場とその向こうの海と。そして 登り切って台地に立つと、牛がお迎えしてくれるのだ。

チョック類のナチュラル・プロテクションはやっぱり怖いものだと実感した。 ロブが登っている最中、すぐ下のチョックが外れる瞬間も目にした…。下方 への張力に強いようにセットするから、他の方向へ引っ張られると外れる ことがあるのだ。ビレイも張り過ぎないよう注意が必要だと認識した。ロブは さすが手慣れたもので、核心部とかだときっちり二重にプロテクションを 取っていた。フォロー時に見ると、そのうちひとつが外れていたりしたので、 実に正しい判断である(但し、外れたのは、登っている最中ではなく、ロープ アップの時の可能性も結構ある)。

一方、フォローも楽ではない。ボルトへぬんちゃくをかけているだけと違って、 チョックの場合は素手で押したり引いたりでは取れないことが多く、 リムーバーを持ち出してがんがん格闘する羽目になる。不安定な足場の上で…。 おまけにロブと私とでは身長だけで20cmはゆうに違ってさらにリーチも違う。 ロブが(チョックを)セットしたスタンスに立ったのでは、しばしば届きも しないではないか。

とはいえ、まさに自分の力だけで登っていける、というのは、大変魅力的 なスタイルだと感じる。ちょっとしたクラックがあれば、どこでも確保 できるし。

第二部 (生活編)

泊まりは、岩場すぐ横、道路沿いのコテージ(hut と呼んでいた)を借り切る。 快適な二段ベッド(マットはあるが、布団はないので寝袋で寝る)の広い寝室 小屋、台所とトイレとの小屋からなる。台所は電磁調理器から冷蔵庫まで完備、 おまけに蛇口をひねればなんと湯が出る! さすが西洋。。。もっとも、山の 奥深くにあるわけでは全然ない(実際、道路を挟んだ向かいには喫茶店が ある)ので、別に不思議な話ではないか。どんな宿泊所か知らず、ストーブ にジフィーズで武装してきた私はちょっと拍子抜け。

道路の向かいには、キャンプサイトがあった。牧場の片隅の芝生の広々と したキャンプサイト。山岳部なんだから、テントにしては、と思わない でもないが、コテージの貸切りに比べてコストがかさんでおまけに 不便、面倒と言われると返す言葉がない気がする。なにしろコテージの 借り賃は2泊3日で一人あたり2000円未満だったし。第一、山中ならとも かく、こんな平地ではね。

hutの壁にはクライミングの写真やポスターが所狭しと貼られている。 クライマーの住居という感じ。そして部屋に入るやいなや手頃な高さに あった桟に跳びついて懸垂するジョン、ジョナサンに…。クライマーたち という感じ。いや、単なるサルか。私は好きですけどね、そういう連中。

えらく大きな(寝袋用の)袋を持っているねぇ、とトムに声をかけると、 なんか照れ笑い。実は寝袋というより布団に近いもので、上下に敷いて バーニーとふたりもぐりこんでいた。失礼しました。隣では、ジョンが 着替えている。なかなかセクシーじゃない、お兄さん、、、えっ? ジェーン? ちょっとぎょっとした。あんまり気にしないのね。でも同じ着替えるにして も、もう少しアブナクない格好にしては…。いや別に個人的には不満は ないけれど(笑)。英国人はラテンや東欧系の人々に比べると保守的 だと聞いているが、それでも日本人の感覚からはちょっとずれるようで。

晩には、「じゃぁ行こう」とか言って近くの海岸に出かけた。何をするのかと 思いきや、真っ暗な中、しばし遊ぶのだった。はい、と石を渡されて、 水面に投げてみたり(skimming)、浅瀬をばちゃばちゃ歩いてみたり(paddling)。

"Why don't you paddle?" [paddle しないの?]

なんてpaddleしていたバーニーに訊かれたが…、京都や筑波なら12月中旬の 気候なんですけど…。さすがにつきあいきれなかった私です。

それにしても、特に男性陣、キャプテン・ジョンを初め、なかなか気分良い いい男が揃っている。レディ・ファーストの国の面目躍如か? 感心したことは たーくさんあるが、一番ビジュアルに印象に残っていたのは次のこと。

晩、海辺の散歩からの帰り道、ジョンは、急に道を渡ったと思えばそこに 咲いていたあじさいのような花をひと房手折る(こらこら)。んでつかつかと 前を歩いていた彼女(ジェーン)に近寄って、花束よろしく膝を折って 差し出すではないか(私の隣のロブ、私に囁いて曰く「What a guy!」[なんて 奴だ!])。結局花束はその後、彼女に上にぽーんと投げられて海の方に 捨てられてしまって、また彼女の様子も表面上つれなかった。でも、内心の 喜びの照れ隠しなのは明らか、という感じで。もちろんすべては冗談、 シリアスさのかけらもないのだけれど、ジョンの行動、見ていてとっても 爽やかであった。気障っ気もなく。格好いいと言っていい。

皆さん僕よりずっと若いんですけどね。大したものです。

(坂野 正明)