[Japanese / English]
総括
- 山域
- Lake District/Wasdale/Pillar, Scafell, Ennerdale
- 参加者
- アダム・W、まさ
- 期間
- 2007/05/26--2007/05/28 (2泊3日)
- 2007/05/26 Leicester ...(車)... Wasdale Head ... Pillar Rocks/High Man/New West Climb ... Pillar ... Wasdale Head (幕営)
- 2007/05/27 Campsite ...(車)... Ennerdale ... Youth Hostel ... Ennerdale ...(車)... Campsite (幕営)
- 2007/05/28 Campsite ... Mickledore ... Broad Stand ... Scafell ... Campsite ...(車)... Leicester
- 宿泊
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- 2007/05/26-28 幕営 (@Wasdale Head)
- 天候
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- 2007/05/26 曇時々晴
- 2007/05/27 雨時々曇
- 2007/05/28 曇一時晴にわか雪
登山編
5月末の三連休に、久々にアダムと泊まりがけの登山に来る。 天気予報が思わしくなく、直前までどこに行くか決めかねていたが、 結局、湖水地方に来ることにする。 アダムとは、 2004年の5月はじめの連休に ここ湖水地方に来た。その時は、Scafell Pike からの下降で一旦迷ってしまって、 結局、登り口とはあさっての方向のワズデイル(Wasdale)に降りて、タクシーで 登山口まで帰ったのだった。 アダムとは、日帰りの岩登りはよく一緒しているが、泊まりがけの山行は、 それ以来、つまり 3年ぶりになる。
今回、僕の提案で、そのワズデイル(Wasdale)をベースキャンプとして、 登山とした。最大の目的は、イングランドで唯一、岩登りしないと登れない ことで名高い Pillar Rocks のハイ・マン(High Man)だ。僕は Pillar Rocks には、1年前に一人で来た ものの、結局、ルートが判然とせずに断念したことがある。今回こそ、 ちゃんとしたガイド本持参で登りたいものだ。そして、ルートは、 New West Climb (Diff または VDiff) で決まり! 湖水地方で、Diff としては、 Giant Crawl、Corvus に並び、3本の指に入るという有名なルートだ。
05/26
朝 4時半に車で出発。当然、道はがらがらで、飛ばせる。僕としては、記録的な 速さになった。Hardknot Pass 経由で、Wasdale Head 着 9:10。 手早く天幕を設営して、いざ Pillar Rocks 向けて出発。天気は、曇が少なく ないが、悪くない。Pillar Rocks に Wasdale側から来たことはないとは言え、 途中の峠からは 1年前に来た時と同じルートを辿る ことになる。
しかし、それにしても、人がいない。ピラー山自体への登山道にはそれなりの 数の登山客がいたが、Pillar Rocks へ向かう道に入ると、人の流れがぱたりと 途絶えた。Pillar Rocks 自体にも、クライマーは全く見当たらなかった — 今日一日最後まで! こんないい山なのに!! アプローチの長さから敬遠される、 とは聞くが、勿体ないことで。もっとも、僕らとしては静かな岩登りが楽しめて 文句はない。
さて、今回はまともなガイド本を持参したが、それでも、ルートの取り付きまで のアプローチがもう一つはっきりしない。Green Ledge から谷を渡ってすぐ上に 登れるはずが、そうならず、結局、大回りして、歩登攀の後、ようやく取り付き に着いた。時間はかかったが、ここが取付なのは間違いない。いよいよ岩登り!
このルート、二人とも(クライミング・シューズでなく)登山靴で登る。 最初は僕のリード。易しい。次いでアダム。途中から左にトラバース。 次がまた僕。上に登った後の最後のトラバースが高度感があっていい。
次の第4ピッチはアダムのリード。チムニー。数メートル登った後、 まず、最初の苦労。何とか越えるが、その上でさらに苦労している様子。 中間支点も下向きの力には大丈夫だが、一旦上に登るとどうなるか、とそれも 不安要因の一つ。「俺はチムニーは嫌いなんだよぉ!」「このザックが うざったぃ!!」などなど。散々トライした後、結局、断念。 ロワーダウンして僕と交替した。腕がすっかりパンプしてしまったようだ。
一方、僕はチムニーは好み。特に登山靴だと、チムニーは、クライミング・シューズ との差がある意味で最小になる。ただ、ザックがあるので、 バック・アンド・フットは可能なら避けたいところ。主にブリッジで 登っていく。アダムが 4個ほどの中間支点をセットしてくれているから、 支点をあまり気にしなくていいのもいい。気持ち良く登る。でも、確かに 今までよりは一段、難しい。ここが核心か?
上に、巨大なチョックストーンがある場所に出たところで、アダムが そこで(ルートは)右側に 行くんだ、と指摘。了解。右の壁を登るわけね。……ふむ、これは必ずしも 簡単ではないかも? とりあえず、中間支点のフレンズをセット。 バック・アンド・フットを避けるなら、どう登るか? 左側にある(第一関節までの)いいフィンガーホールドを 使って体を引き上げて、右の壁のがばに……右手が届いた。垂壁を上に 抜ける。
このムーブは難しかったぞよ。4b くらいか? Diff (VDiff) では あり得ない。そう言えば、ガイド本では、チョックストーンの前で、 右側のリブの方にそれる、と書いてあったような……。あちゃ、ルートを 外しましたか。「右に行く」とは、右の壁を登る、という意味でなく、その壁の 基部からリブの方を登る、という意味でしたか。 まぁ、楽しく登れたからいいけど。
ただし、すでにパンプしているアダムは、そこで大いに苦労して、悪態を つく羽目になった(申し訳ない!)。中間支点があるから、僕が通ったルートを 登ってこないといけないし……。セカンドの利点、ザイルに何度も体重を預け ながら、バック・アンド・フットで体をせり上げて来たアダムだった。
アダムは完全にパンプしきっている。次のピッチも僕がリードする。 最終ピッチのはず。しかし……、中間支点が取れないぞよ。ごく最初に、 上向きの力にはごく弱そうなスリングをセットした後、10メートルくらい 中間支点なしのランアウトになってしまった。簡単だったから問題はないけど、 緊張はする。
……そして、最後、頂上に! アダムも楽にフォローしてきて、握手。登り切った。 素晴らしい!!
山頂は、思ったよりは広かった。10メートル四方くらいか。 西側の Jordan Gap の上に、スリングが何本もかかっている。懸垂下降の支点だ。 僕もアダムも懸垂下降には惹かれないので、別の易しいルートを クライム・ダウンすることになる。岩登りでしか登れない、ということは、 下降は楽ではない、ということ。それもまた楽しみの一つだろう。
ルートは、Mod (ガイド本によっては、scrambling Grade 3) の Slab and Notches。 アダムが降りるのを僕が上から確保。アダムは、途中で中間支点をセットして くれる。次いで僕が、アダムの(下からの)確保を頼りに、中間支点を外しながら 降りる。2ピッチの下降の後、基部に着いた。難しくはないが、簡単でもない。 クライム・ダウンだから、そんなものだろう。
さて、今、21時。早く下山しなくては! しかし……、降りる ルートがこれまたはっきりしない。結局、ピラー山頂まで登ることにした。 山頂まで/からの道ははっきりしているから。
山頂着 21:30。ここから飛ばして下降。日の長い時期なのがありがたい。 ヘッドランプのお世話になることなく(すっかり日没後にはなったが)、23時前に 天場に着いたのだった。ふぅ。疲れたが、長いいい一日だった!
05/27
今日は、天気予報では最悪の日。どちらにしても、昨日の長い一日で 僕らは疲労困憊。朝はゆっくりする。
ただ、思ったほどには天気は悪くない。土砂降りの可能性も少なくなかったが、 朝の感じでは、むしろ、雨が降っていない時間の方が長いかも。 僕の提案で、エナデイル(Ennerdale)の方に軽い丘歩きに行くことにする。 エナデイルは、湖水地方の中でも、最も奥地になる。それもあって、 僕は(アダムも)今まで行く機会がなかった。ここワズデイルも相当の奥地で、 ここからだとエナデイルはそう遠くもない。この機会に訪れてみよう、という次第。
そして……、実はワズデイルからでさえ、エナデイルは実は相当遠い、と 思い知ることになった。Ennerdale Water 湖の奥の駐車場まで車で 1時間(!)も かかった。今日は時間があるからいいけれど。この頃になると、雨がずっと 降るようになってはいたとは言え、小雨。そう悪くない。
湖畔の林道をのんびりとユースホステルの方に向かって歩いていく。 帰りは、途中、森の中の途を取ってみたり。 アダムは、まだ腕がぱんぱんに張っている、とのこと。今日はいい 休養日になりますね。
さて、明日、天気が回復すればいいんだけど。期待しよう。
05/28
8時45分起床。ちょっと寝過ぎたが、まぁいいか。 天気は曇ってはいるが、雨は大丈夫そう。よかった!
昨夜、話し合った結果、今日は、スコーフル(Scafell または Sca Fell)山に、 歩登攀のルート Broad Stand (Grade 3) 経由で登ることにする。 3年前に二人で登るはずだったが、 道を外したおかげで、時間が遅くなり過ぎて断念することになったルートだ。 その時は、結局、予定外にここワズデイルに降りてきた。今回はその ワズデイルから出発して、Broad Stand を登ろう、というわけだ。リベンジ?
この Broad Stand、 有名なスコーフル山に続くルートであること、そして何よりも これこそが英国で最初に記録されている歩登攀のルートということで、 非常に有名なルートだ。 ルートは、Grade 3 ではあるが、難しい箇所はごく限られる (2.8メートル!) と 聞く。 そして、それ以外はいまいち、というのが、ガイド本の評価。 ただし、その核心部でもし落ちれば、(手前のミクルドールの)コルまで 転がり戻ることになるだろう、という話。この英国流の諧謔表現を日本語 で素直に表現するなら、死にますよ、ということか。 一応、ザイルと若干の登攀用具を持参する。
ワズデイルからは、素直な登山道を登っていく。右に見えるスコーフルの 岩壁は有名な岩登りの場所だが……、今日は、クライマーは一組しか見られない。 一昨日の Pillar Rocks にしても、クライマーは いなかったし、寂しいことだ。
ミクルドール(Mickledore)のコルからすぐに、Broad Stand に。 腕のパンプも回復したというアダムが今日はリードする。Fat Man's Agony (太っちょの苦難)と呼ばれる狭めの岩の隘路を抜けたところから、ピッチ開始。 左側から上に数メートル登り、核心前でアダムはピッチを切る。2.8 メートルの岩壁。 でも、下はそれなりの高度があるので、ザイル無しでここで落ちるのは論外だ。
まず一番左側を試すアダム。いまいちのよう。中央? それももうひとつ。右のコーナー? これはだめ。もう一度、中央に戻って、1回、2回、3回……今度は乗り越えた。 そのまま数メートル登って、確保へ。僕は右のコーナーから登ったが、 確かに少なくともコーナーはちょっと難しい。中央部の方が簡単だったか。 ただし、中央部は、雨だと登るのは厳しいようには思う。
アダムは、いや、これはザイルは必携だったね、と。確かに。短いとは言え、 ザイルに感謝するルートだと僕も思った。さて、この後、何もないかと 思いきや、そうでもなく、Grade 1 の歩登攀が数10メートルか続いて、 実は結構楽しめた。いや、Broad Stand、悪くないではないか。
スコーフル(Sca Fell)の山頂を踏んで、帰りは、そこからワズデイルまで直で (登山道で)降りていった。上部のなだらかな気持ちいい牧草地帯と途中からの ザレ場の急下降とが対照的な下降路だった。天場着 16:20。着くやいなや 雨が降り出して、好運に感謝したのだった。実は、この週末、ミッドランド(Midland; イングランド中東部)の方は、ずっと雨だったらしい。(雨の多いことで 有名な)湖水地方の方が天気がよかったなんて、何たる好運!
今回、久々のアダムとの泊まりがけの山行、こうして存分に楽しんだ三連休だった。
情報編
ワズデイル (Wasdale)
Wastwater湖を含む 谷がワズデイル (Wasdale)。 イングランド最高峰の スコーフル・パイク (Scafell Pike) への登山口として名高い。山に囲まれた谷ゆえ、他にも、 スコーフル (Sca Fell)山、 グレート・ゲイブル (Great Gable)山、 ピラー (Pillar)山、 Kirk Fell山、 Yewbarrow山 など、数多くの山への登山口になっている。
アクセスはかなり面倒で、湖水地方の奥地と言える。 湖水地方の中心部(たとえば Windermere湖)方面からは、 Hardknott Pass を通るのが最短だが、急登、急下降、急カーブで有名で、特に冬は通るべきではない。 しかし、それ以外の道は全て大回りになってしまう。もしイングランド南部から のアクセスなら、多少の回り道にはなるが、(西海岸沿いの) A590〜A595 を 使った方がいいかも知れない。
ワズデイルには、湖近くにナショナル・トラスト(National Trust)の天場、 谷の一番奥(Wasdale Head)に、旅館(と付属の酒場/レストラン)、天場がある。 それ以外には数軒の農家が点在するのみ。Wasdale Head の天場の小さな売店では、 食料や土産ものの他、地図、ガイド本、登攀用具も売られている。
Wasdale Head 近くには、無料の駐車場もある。
エナデイル (Ennerdale)
Ennerdale Water湖を含む 谷がエナデイル (Ennerdale)。 (東からのアクセスという意味で)湖水地方最奥地と言えるだろう。
奥の駐車場から林道(一般車両進入禁止) 2 km ほどで、 Low Gillerthwaite Field Centre (セミナーハウス、宿泊所)に着き、すぐ近くに Ennerdale - Gillerthwaite ユースホステルがある (2007年5月現在、改装工事のため閉鎖中)。 林道をさらに 6 km 遡ると、イングランドで最も人里離れたところにある ことで有名なユースホステル Blacksail がある。平坦に近い林道なので、 マウンテンバイクならアクセスが比較的容易。
スコーフル (Sca Fell)山
スコーフル (Sca Fell)山は、 標高 964m、イングランドで 2番目に高い山です (1番は、隣のスコーフル・パイク (Scafell Pike))。 Scafell とも綴られます。発音は、伝統的には、Scawfle つまり「スコーフル」 ですが、昨今は「スカフェル」と発音される方が普通でしょうか(湖水地方地元の 高名なクライマーもそう発音していました)。
スコーフル山とスコーフル・パイク山との間のコルが ミクルドール (Mickledore) と呼ばれます(標高 840m)。ただし、このミクルドールとスコーフルとの間に立つ ブロード・スタンド(Broad Stand)の垂壁が、 ごく短いながらも険しく、 山歩きの人を寄せつけません。歩登攀(scrambling)の Grade 3 とされます (もしくは、岩登りの Diff だそうですが……うーん、疑問)。ここを サミュエル・テイラー・コルリッジ(Samuel Taylor Coleridge)が 1805年の 8月5日に登ったのが、英国で記録に残る最初の歩登攀(scrambling)とされています (出典: Wikipedia の「Sca Fell」)。
山歩きで、スコーフル山頂から(おそらくはスコーフル・パイク山の方に行く ため)ミクルドールに達するには、Foxes Tarn池まで下る必要がある、 つまり、標高 680m辺りまで下って、登り返す必要があります。 逆側から Lord's Rake 経由という手も ありましたが……、2001年の大きな落石以降、このルートは岩が不安定で 危険とされています。
スコーフル山へ登る最短の道は、ワズデイル(Wasdale)のナショナル・トラストの 天場付近から登るものです。 あるいは、距離はずっと長くなりますが、 エスクデイル (Eskdale) から登ることもできます。もしくは、さらに距離が長くなりますが、 その反対側(北側)の ボロデイル (Borrowdale) からアクセスすることもできます。
タイム・テーブル
時刻 | 行動 | 高度(m) (計器|地図) | 温度(℃) | 歩数(複歩) | |
表注: 高度の表記で (s) は高度計をその高度にセット。 歩数は、その前の項目からの歩数[複歩]、 括弧「(...)」内は予測値。 GR は、Grid Reference Number で、省略時の頭文字は NY。 |
|||||
2007/05/26 (Leicester → Wasdale Head → Pillar Rocks/High Man → Pillar → Wasdale Head) |
|||||
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04:22 | Leicester発 | ||||
06:43 | Lancaster Service | ||||
07:20 | 発 | ||||
09:10 | Wasdale Head(天場) | ||||
10:20 | 発 | 15 | |||
11:25 | Col of Blacksail Pass | ||||
11:45 | Pillar Rocks分岐 | 616 | |||
11:55? | 昼食 | ||||
12:15 | 発 | ||||
12:40 | Robinson's Cairn | 11 | |||
19:40 | High Man 山頂 (GR171123) | 780 | 6 | ||
21:30 | Pillar 山頂 (GR171121) | 892 | 2 | ||
22:55 | Wasdale Head | 10 | |||
24:20 | 就寝 | ||||
2007/05/27 (Wasdale Head → Ennerdale → YH → Ennerdale → Wasdale Head) |
|||||
09:00 | 起床 | ||||
11:33 | 発 | ||||
12:30 | Ennerdale Water駐車場 | ||||
12:55 | 発 | ||||
Low Gillerthwaite Field Centre | |||||
13:40 | 発 | 14 | |||
YH | |||||
森の中の道へ | |||||
16:35 | 駐車場発 | ||||
17:34 | Wasdale Head(天場) | ||||
23:30 | 就寝 | ||||
2007/05/28 (Wasdale Head → Mickledore → Broad Stand → Scafell → Wasdale NT campsite → Wasdale Head → Leicester) |
|||||
08:45 | 起床 | ||||
10:45 | 発 | 14 | |||
10:50 | 車道からの分岐 | ||||
11:15 | NT天場からの径と合流 | 935 | |||
11:22 | Ford(道分岐) | 250 | |||
11:48 | Scafell Pike の道分岐 | 550 | |||
12:06 | 昼食休 | 690 | |||
12:32 | 発 | ||||
12:45 | Broad Stand前 | 7 | 485 | ||
14:08 | Symond's Knott (GR207067) | 959 | 5 | ||
14:23 | 発 | ||||
14:30 | Scafell山頂 (GR206064) | 964 | |||
14:37 | 発 | ||||
15:32 | stile | 12 | 1800 | ||
15:55 | National Trust天場 | 900 | |||
16:20 | Wasdale Head(天場) | 14 | 700 | ||
16:41 | 発 | ||||
19:57 | Holmes Chapel | ||||
20:35 | 発 | ||||
22:10 | Leicester |
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