2008/04/11--13 湖水地方登山記録/感想文 (by まさ)

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総括

山域
Lake District/Ennerdale/Pillar Rocks, West Coast/St. Bees
参加者
クローディア、まさ
期間
2008/04/11--2008/04/13 (2泊3日)
(以下、リンクは特記しない限り ukclimbing.com へのもの)
様式: AL = 交互リード, O(s) = オンサイト, F = フラッシュ, (A) = (助言少々), G = グラウンド・アップ, Hp = ヘッド・ポイント
宿泊
Ennerdale 近くで Wild camping
天候
  • 2008/04/11 曇
  • 2008/04/12 曇後雪
  • 2008/04/13 晴

登山編

クローディアと湖水地方に。 2006年 8月の時と同じく、 クローディアが仕事の関係で西海岸の方に週末に滞在しているので、 僕が来て落ち合って、という次第。

クローディアとは 2週間半前にスコットランド で一緒して、記憶に残る大変な山行になったばかり。今回は 楽な山行にしたいものだ。

04/11

インターチェンジ近くで落ち合って、予定相談。 初日はエナデイル(Ennerdale)方面からピラー・ロックス(Pillar Rocks) を目指すことにする。とりあえずエナデイル方面に行って、 適当に道から離れたところで天幕を張って就寝。

04/12

8時起床。朝食や天幕撤収など色々準備していたら、結局、 駐車場を発ったのは 11時近くになってしまった。あらら。 でも日が長くなっているこの時期、問題あるまい。

今日、目指すのは、Pillar Rocks のうちのハイ・マン(High Man)、 イングランドで唯一、登攀無しには登れない山頂。そこを、 これも質の高いルートとして有名な New West Climb 経由で登る (VDiff または Diff)。 僕は、ほぼ一年前にアダムと登った ルートで、楽しかった記憶も新しい。何と言っても、静かな山域で 山頂を独占できるのは素晴らしかった。 クローディアは、ピラー山自体には来たことあれど、 Pillar Rocks には登ったことはないと言う。ならば、登らいでか! 湖水地方の最上の場所のひとつだと僕は思うから。

前回、アダムと来た時は、ワズデイル(Wasdale)の方からアクセスした。 今回は、趣向を変えて、エナデイルからのアクセスとなる。 どちらが速いかは微妙なところか。エナデイルからの方が、 道はしっかりしていると思われる。

山の最上部の方が白い、つまり雪が積もっているようなのが気にかかるが……、 High Man は少し低いし、仮に少々雪があっても所詮 VDiff だし大丈夫だと予想。

登山道を歩いて行き、やがて登山道を離れて、High Man のルート取付に 近付く。げっ、結構、雪が積もっているではないか。おまけに雪が少し 降っているし……。僕らはもちろんピッケルやアイゼンはない。 今日は完全な岩登り仕様。しかも愚かなことに、僕は合羽のズボンの方を 忘れてきてしまった! 今更取りに帰るわけにもいかないから、 何とかなることを願う。

ルート取付横の Jordan Gap の入口でツェルトにもぐり込んで昼食。 うーむ、すでに思ったより時間がかかっている。登り始めたのは 15:15。 4ピッチ、4時間はかからないだろうから、何とか日のあるうちに 登って降りられるだろう。実際、前回来た時は、僕は、クライミング シューズでなく、登山靴で登り切ったくらい簡単だったし。 ただ、岩にところどころ雪がついているのが 嫌らしいが……。気温 1℃。

クライミングシューズに履き替えたクローディアのリードで登攀開始。 やはり雪がついているのが嫌らしいようで、時間がかかっている。 僕が第一ピッチのフォローを終了した頃には、きっかり 1時間かかっている。 これは頑張らないと。

第 2ピッチ、再度クローディアのリード。 少し登ってからのトラバース。クローディアがアレットの向こうに 消えてから結構時間が経っている。速く登ろう!
突然、叫び声が聞こえる。これは! 瞬間的にザイルを少し引いて待ち構える。 次いで衝撃。墜落だ。

「大丈夫?! 怪我は?」
ややあって、返答
「うん、大丈夫。ちょっと打ったくらい。怪我はないわ。」
よかった!
「大丈夫? まだ登れる?」
「大丈夫。いける。でもちょっと休ませて。」
もちろん。

しばらくして再度登り始めるクローディア。 かなり長い確保の後、最終的にようやく、ビレイ解除のコールを聞く。ほっ。

僕がフォローしていくと、これは……、ルートを外している! 僕が一年前に登ったラインと違うから、 すぐ分かった。おかげで少々難しかったわけだ。 もっとも、僕はミトンと登山靴で落ちずにフォローできたから、 極端に難しかったわけではない。とはいえ、今日はリーダーは、 登るのにも中間支点をセットするにも時に雪をかきわける必要があるから、 本来の VDiff よりは、数段難しいのは間違いない。 おつかれさまだった。

さて、僕がフォローを終えた段階で 19時頃。暗くなりかけている。 早くしないと本当にまずいわ、とクローディアは本気で心配している。当然。

選択肢は二つ。ここから懸垂下降で撤退するか、頂上まで登ってから 懸垂で降りるか。 もし頂上まで行ければ、(懸垂下降用の)まともな確保支点があって、 かつ懸垂先も見えるから、ここから懸垂するよりは楽だ。 しかし、どこに頂上があるかがはっきりしない。すでに ルートを外れているし。

本来のラインはここから左に見えている。しかし……、そのラインに行くのは ちょっと面倒だし、それにそこが核心だったから、あまり気乗りがしない。 かわりに、このまま上に登れないか? この付近、そう難しいラインではない はずだから。今いるレッジから上部に抜ければ、そのまま上まで 登り抜けられるように見えるのだが……。もちろん、どこが山頂かは はっきりしないので、賭けになる。そちらに賭けるか。

リードはもちろん僕。墜落後(5m以上の結構な墜落だったらしい)、 よくぞ登ってくれました。おつかれさま、クローディア。 僕はクライミング・シューズに履き替えて、手袋も脱いで本気モード。 もし 15分トライして埓があかなければ、そこから懸垂下降で撤退する、と合意。 だから何も恐れることはないよ、と抱きしめて軽く頬に接吻して、 いざリード開始、19:20。

思ったよりも最初の取付が難しい。左から行きかけるも 諦めて一旦、確保レッジに降りる。「無理しなくていいからね」の声に、 「大丈夫」と反応して、今度は右からトライ — 登れる。 そのまま、ぶっ飛ばして登っていく。「5分!」の声を聞く。あと 10分。

上に壁が見えて、その向こうが見えない。つまり運がよければそれが頂上だが……? 「10分!」の声を聞く。 その壁に支点をセットして、壁を登る — 頂上だった! すばらしい! 間に合った!
手早く確保支点を取って、「ビレイ解除! 頂上だよ!」

クローディアも難なくフォローしてくる。
「『ビレイ解除』を聞いて、あとどれだけあるのかと思ったら、 『頂上だよ』って信じられなかったわ。速いリードがお見事!」
「どうぞ 1分だけ、この(夕暮れの)風景を楽しんで! これが君に見せたかった光景なのだから。」
「うん、素晴らしいわ!」

今日、頂上はもちろん、登攀中も、どころかアプローチ中も 誰一人見かけなかった。湖水地方の最上の場所という認識を新たにする。 しかし、夕暮れを過ぎた今のこの状態は一刻も速く脱して まともな登山道に着かなければ!

今回は、50m ザイル 1本で登ってきた。他に、(懸垂用に) 30m の補助ロープを 持参していて、スリングなどを足し合わせると 50m に達するから、 50m ザイル 1本での懸垂下降が可能だ。 Jordan Gap へ向けて立派な残置ロープがあるので、それにザイルをかける。 まず僕から降りる。僕の方が少し重いはずだし。

20m かそこら降りたところで、巨大なレッジ。 下の様子を見るが、下までは見えない。ならばここでピッチを切ろう。 ザイルを引くテスト。大丈夫。 クローディアに降りてきてもらう。

途中、補助ロープの方が、ひっかかってしまっていた。 クローディアに降りながら取り外してもらうも、最後の部分を忘れてしまって、 4m ほど上に残ってしまう。あらら。そこで、君がいつも持参している Tibloc の出番。ザイルを登る。Tibloc を実際に使うのは初めてだって。 それはよかったかも (笑) まぁ、緊急用のものでしょうからね、 そう使う機会があったら困ります。

僕は、次の支点としてスリングを巨石に回す。そこにザイルをかけて、 次の懸垂ピッチ。これが最終のはずだが……下が見えないのでよく 分からない。とにかく降りてみよう。

実際、45m で下に到着。よかった。これでもう懸垂は必要ない。 ザイルを引くテスト……引けない?! クローディアに少し調節してもらって、何とか動くようになった。ほっ。

クローディアの懸垂後、ザイルを引く。あれっ? だめだ、動かない? 二人がかりで引っ張るもだめ、びくともしない。ザイルが延びているのが 分かるだけで、もう片側は全然動かない。これは困った……。 もう下まで降りられたから命に関わることは何もないのだが……、 ザイルを残していくのは懐に痛過ぎる。

すかさずクローディアが、滑車システムを作りましょう、と提案。 OK! さすがクローディア、最高のタイミングでの提案、君にはいつも 感心します。僕は、滑車つきカラビナを 2、3持参してきているので、 道具に不足はない。

これが、その後、2時間半にわたる格闘の始まりだった……。 引く側のロープは何本ものロープのつなぎ合わせなので、 そのつなぎ目では、滑車システムを(何度も)再構築しなくてはいけなかったのが 問題を複雑化していた。加えて、最初に使ったプルージック用スリングが 太過ぎた(メインザイルでなかったので、細いものでないと効きが悪い)ので、 それを途中で細いものに変更する必要があった。さらに悪いことに、最初にセットした 滑車システム用の支点がいまいちで、途中でその支点が飛んでしまったので、 もう一度支点自体をセットし直す必要があったもので……。

結局、30m の補助ロープ(7.8mm)が 50m の長さになるまで引っ張ったにも 関わらず、メインザイルの方はびくともしなかった……。これ以上引っ張るには、 滑車システムを根本から二重(かそれ以上)にする必要があるが、 それはさらに時間がかかり過ぎる。というわけで、残念至極ながら 最終的に回収を断念することとあいなった……。

少し登って、ぎんぎんに張りつめた補助ロープにナイフをあてる……や いなや、一瞬にして切れ、ロープがゴムのように上に飛んでいった。 荷重のかかったロープを切るのは簡単と聞いてはいたが、本当に恐ろしく 易しい……。メインザイルの方も 10m だけ回収できた。 結局、メインザイル(40m分)、補助ロープ(ツインザイル 30m)と カラビナ 2個を残置する羽目になった。高くついたものだ。

ツェルトを再度広げて、20分休憩の後、下降開始。午前 1:25……。

来た時に比べてさえかなり雪が積もっている。慎重に降りないと。 クローディアは墜落の時に少し膝を捻ったようだ、と言う。だから余計に 慎重に。

やがて積雪がない場所まで降りてちょっとほっとする。
さらに降りて、登山道にあたりまたほっとする。
さらに降りて、林道にあたり、ほっとする。
長い長い下降となった。
駐車場着、午前 5:30。
ここまで起きていると最早ハイな気分。お茶を飲みながら夜明けを眺める。 移動して天幕を張って寝たのは、7:42。予期せぬ 24時間山行だった。

04/13

13時起床。遅いが……それでも 5時間睡眠。 ゆっくり昼食を済ませる。

クローディアの膝の調子がかなりよくないようだ。 昨晩はアドレナリンのせいか、普通よりは少しゆっくり程度には 歩けていたのだが(どころか登攀までできていたのだが)、 今日は、杖にすがって本当にゆっくりとしか移動できない様子。 それは気の毒……。

僕の友人で湖水地方在住のアレックスから、今日は (西海岸の) St. Bees Head で ボルダリングをしている、という携帯メイルが入っているので、 そちらに行ってみることにする。St. Bees は湖水地方のどこから行くのも 遠いが、実はここエナデイルからだと他のどこよりもずっと近い。 ちょうどいい、というものだ。海岸だから、クローディアでも 歩いてアクセスできるかも知れない。

ただ、St. Bees Head の駐車場に着いたのは、結構遅く、5時。 残念ながらアレックスに携帯がつながらない。 行くだけ行ってみる。クローディアは杖をつきながら普通の 3倍くらいの 時間をかけて歩いているから、僕もゆっくりと。

St. Bees Head のボルダリングの場所は、崖から 10分くらい急登を 降りなくてはいけないことが分かる。その場でちょっと休憩して Uターンとする。アレックスに連絡が取れなかったのが残念だが、 この時刻なら、もう帰っている可能性の方が高かろう。

あとはドライブ。おち会った場所でクローディアに別れを告げる。 膝が早くよくなることを願います!


タイム・テーブル

2008/04/11-13 Lake District 山行タイム・テーブル (Masa)
時刻 行動 高度(m) 温度(℃) 歩数(複歩)
(計器) (地図)

表注:
高度の表記で (s) は高度計をその高度にセット。 なお、高度計は、腕時計付属のものを使用。歩数は、その前の 項目からの歩数[複歩]。 GR は、Grid Reference Number で、省略時の頭文字は NY。

2008/04/11
(Leicester → M55 → Ennerdale)
16:15 Leicester発
16:45 Tesco発
18:25 Meir Park
18:40
19:55 M55 J1 駐車場
21:40
24:30 就寝
2008/04/12
(Ennerdale → High Man → Jordan Gap → Ennerdale)
07:30(?) 起床
10:28 幕営場発
10:53 駐車場発 140(s)
12:45 336 6
15:15 登攀開始 1
16:15 第1ピッチ終了(2人共)
19:20 最終ピッチリード開始
20:10頃 登攀終了
22:00頃 Jordan Gap最下部
22:20 1
25:05
(すぐ休憩20分)
27:21 205 3
29:30 駐車場 3
30:40
31:42 就寝
2008/04/13
(Ennerdale → St. Bees → M55 → Leicester)
13:00 起床
15:00 10
16:12
17:00 St. Bees Head駐車場
19:20
21:50頃 M55 J1 駐車場
22:15
22:30 サービスエリア
22:50
24:00 Stokeの近く
24:20
25:45 Leicester

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まさ