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ボルダリングとクライミング
「ボルダリング」という言葉を聞いたことがありますか? もし御存知なら、それなりの"通"でしょうか (笑)。 英語で、巨石のことをボルダー(boulder)と言います。 人によって感覚は違うでしょうが、ひと声、高さ 1メートルから数メートル くらいの巨石のことです。こういった巨石を、最小限の装備(端的には靴だけ)で 登ることを「ボルダリング (bouldering)」といいます。直訳すれば、 「巨石する(こと)」という感じでしょうか。
クライミングの場合、少なくとも伝統的には「落ちない」のが基本でした。 実際昔なら、落ちたら運が良くても大怪我だった、という至極当然の理由です。 今は、昔よりはずっと安全に登れるとは言え、それでも伝統登攀ならそれなりの 危険がありますし、そうでなくても、(倫理的に)落ちずに登ることが最も美しい、 とされてます。 一方、ボルダリングの場合は、落ちることが最初から前提にあります。 落ちても 2、3 メートルかそこらが普通ですから、落ちたところで (自尊心以外!)傷つきません。だから何度も落ちながら、 最終的に登れることを目指します (ただし、最近は、5メートル を超えるようなボルダリングのルートもあって、ハイボール (highball) と呼ばれます — 当然、危険度は格段に上がります)。
クライミングの場合は、 万一(?)落ちた時のための安全策を取る分、時間もかかりますし、また 重い登攀用具を担いで登る分、見るからに大がかりで、 登る難易度にも必然的に若干の制約がかかります。 加えて、確保してくれる仲間が必要です。 一方、ボルダリングの場合は、最低限靴(クライミング・シューズ)だけあれば 登れます。空身で登る方が、気分的にも物理的にも 登り易いのはものの理です。
現実には、ボルダリングでは、クッションとして下に分厚いマット (ボルダリング・マット)を敷くことが多いです。 足首を怪我しないようにという実用的な配慮と共に、 多くの人が同じ巨石の同じルートを登っては落ちることでその場所の地面の 植生が傷めつけられることを防ぐ、という環境保護的な意味合いもあります。 加えて、滑り止めのため、手にチョーク(チョーク石を 細かく砕いたもの)をつけることは普通によく行なわれます。
その昔は専用のボルダリング・マットが無かったため、布団やソファーを 現地(山)に持ち込んだり工夫したと聞きますが、今では、それ専用のマットが 売られています。このマット、畳んでも 100cm×50cm くらいある(ことが 多い)どでかい代物なので、実は、ボルダリングする人は少なくとも見かけ はでっかいものを担いで歩いていますね。
そんなボルダリングの魅力とは何ぞや? もちろん、それぞれ人によってポイントは異なるとは思います。 一つおそらく広く共通するのは、「(難しい)壁を四肢で登る」という 挑戦の要素を切り出せば、ボルダリングはその「登る動作」という要素を ほぼ極限まで純粋化したもの、と言えます。自分に応じたレベルの ルートが地面直上にあるわけですから、好きな時に好きなだけ何度でも チャレンジできます。飽きたら隣の別のルートを登るのもよし、 休みたい時に休み、だべりたい時にだべるのもよし。雨が降り出したら やめて帰ればよし。
比較すると、クライミングの場合、登りたい壁に、ん時間(ん日)かけて歩いて行き、 ある意味で登る動作そのものよりもロープワークや天気や諸々の周辺のことに 気を遣い、時間を使い、その尽力の結果、(登る動作という意味での)自分に 応じたレベルの難しさに、その山行のうちのごく一瞬だけ会える、ということに なります。
加えて、危険度と持続が必要な集中力とも違います。 クライミングの場合、一旦、登り始めたら、登り切るまで、原則的に 気の休まる時はありません(さらに正確には下山するまで!)。 ボルダリングは、(ハイボルダーなどの例外もありますが)原則安全ですし、 集中が必要なのは、まさに登っている 10秒あるいは最長 1分だけです。 それ以外の時間は、連れと気楽に談笑していて大いに結構。
ボルダリングがクライミングの分野として認知されてそれなりに 人気が出てきたのは、多分この 20年くらいだと思います。 でも、近年、ボルダリングは人気急上昇中の様子です。 今の英国を見ると、ボルダリング人口はクライミング人口より 多いような雰囲気さえ感じます。 クライミングとは異なる独自の難易度 もあります(日本にも独自のボルダリング難易度があって、級・段で 表されます — 将棋や武道と違って、人のレベルではなく、 各々のルートの難易度のことです)。 欧州では、ちょうど F1 のように、毎年ボルダリングの欧州選手権ツアーが 開催され、年々人気が高くなっているのを感じます。
場所ですが、巨石さえあればどこでもボルダリングはできますし、 好きなところでジャンプして飛び降りてもいいわけですから、 巨「石」でなく、「岩」壁でもいいわけです。 極論すれば、道端のブロック塀でもOKです。 そしてそんな巨石なら山岳地方ならどこにでもありそうですが……、 手頃な巨石(が望むらくは落ちても怪我ないように平坦な地形の上に)が かたまって多くある場所、かつアクセスがいいところは意外に限られている 印象があります。 フランスのパリ近くのフォンテンブロー(Fontainebleau)が世界一のメッカ として異論無いところでしょう。
僕は個人的には、ボルダリングはあまり趣味ではありません。 (願わくは雄大な自然の中で)見上げる高さの壁を登ってなんぼ、 という気持ちが僕の原点なので……。ただし、動作のしての登る技術を 鍛えるには、ボルダリングが最適であることには異論ありません。 そういう意味では、多分、僕は(クライミングの訓練として)もう少し ボルダリングを「すべき」なのでしょうね。
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まさ