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二つの風船の実験の解説

2015年7月15日
坂野正明

この文書は、MathML を使って記述されています。 最近のブラウザならばたいてい問題無いと思いますが、もし数式の閲覧などに問題があるように見える場合は、PDFファイルをご覧ください。 英語版 (English version)もあります。

1. 二つの風船の実験

ここに二つの風船があります。 それぞれを異なる大きさに膨らませます — 小さい方と大きい方とに。 さて、この二つの風船の口をつなげると、何が起こるでしょうか? 考えてみて下さい!

Schematic view of the two-balloon experiment quiz.

図1: 問: 異なる大きさに膨らませた二つの風船を接続するとどうなるでしょうか?

これは、比較的有名な問題で、「二つの風船の実験」と呼ばれます。 結果は、実は直感に反するものになります。

本稿では、何が起きて、そしてなぜそうなるかを解説します。 第2章では、古典物理の法則を用いて性質を導き出します。 第3章では、方程式を使うことなく直感的な解説をしてみます。

2. 理論的な解

2.1 フックの法則に基づいた風船の表面張力の考察

2.1.1 計算

完全な球体で、ゴムに張力が一切かかっていない時の初期半径 r0の風船を考える(図2の左側)。 この時、風船内の空気には、大気圧 1気圧以上の圧力はかかっていない。

ゴムがある長さだけ引っ張られた時の張力は、(同じ質の)ゴムの質量に比例する。 ゴムの密度が一様でゴムの厚さが一様(かつ無視できるほど小さい)と仮定すれば、張力は、ゴムの面積に比例する。 ある元々の面積と形をしたゴムのバネ係数を kとしよう。 フックの法則によれば、(理想的な、すなわち線形的弾性を持つ)バネを xの長さ延ばした時の張力 Fは、バネ係数 kを用いて、 F=kxと表される。

Schematic view of a band strip of rubber.

図2: 初期半径 r0 (左図)の風船が、半径 rまで膨らまされる。ここでは、見込む角度 Δθのゴムの細い帯 PQ¯ (青色の部分)を考察する。

球の中心からの見込む角度 Δθのゴムの細い帯(図2内の PQ¯)が、元々の長さ πr0から、完全な球面にそって長さ πr (半径 r)まで延ばされた状況を考える。 その時、 PQ¯ に働く張力 F(r,Δθ)は、 A を無次元定数として、 F(r,Δθ)k(πr-πr0)Δθ2π=Ak(r-r0)Δθ,(1) と表される。 なお、厳密な Aの値の算出は簡単ではなく、ここでは議論しない。 ただし、それは以下の議論に影響を与えない。

さて、この風船が、今の半径 r から微少量 Δr増加した r+Δrまで膨らまされる、とする。 その時に、ゴムの張力と風船内部の(大気圧を超える)気圧それぞれによってなされた仕事の平衡を考察する。 風船半径 rの時の風船内部の空気の気圧の大気圧以上の部分( P(r))によってなされる仕事( Wp)は、 Wp=P(r)4π3{(r+Δr)3-r3}(2)4πr2ΔrP(r).(3) 上述の見込角 Δθ のゴムの細い帯それぞれによる仕事 ΔWbは、式1の力を用いて、 ΔWb=F(r,Δθ)πΔr(4)=Ak(πr-πr0)Δθ2ππΔr=Aπk2(r-r0)ΔrΔθ(rr0).(5) となる。したがって、風船全体のゴムによってなされる仕事 Wbは、この ΔWb (式 5) を 2πラジアンにまで積分することで求められる。 Wb=02πAπk2(r-r0)Δrθ(6)=Aπ2k(r-r0)Δr(rr0).(7) この二つの仕事量 Wp (式3) および Wb (式7)は等しいことから、 4πr2ΔrP(r)=Aπ2k(r-r0)Δr(8)P(r)=Aπk4r-r0r2=Aπk41r(1-r0r)(rr0)(9){-r0(1r-12r0)2+14r0(rr0)1r(rr0),}(10) となる(図3)。

Figure of the air pressure inside a spherical balloon as a function of the radius <

図3: 風船の半径 rの函数としての球状風船内の空気圧

したがって、風船内の気圧は、

  1. 半径 rの敏感な函数として極大値まで急激に立ち上がり、それ以降では急激に減少する。
  2. 半径 r r0よりずっと大きいところでは、半径 rに反比例して減少する。

なお、ここでの議論は厳密ではない。 James-Guthの応力歪み関係式を使ったもっと厳密な定式化によれば、 rr0で支配的な上式の第一項は、あるオフセットの基で、上式の r2ではなく、負の r6に反比例する[1]。 すなわち、厳密な式もここで導いた上式も函数の形としてはおよそ似ている一方、前者の方が、 rによりずっと敏感な形になっている。 ただし、 rが十分大きいところで支配的になる第二項の方は、いずれも同じく rに反比例する。

加えて、フックの法則はゴムの性質を表すのによい近似ではあるものの、それはゴムの延びがある程度までの範囲内であることは特記しておく。 ゴムは、その限界の延びしろ、つまり破壊される点、の近くまで延ばされると、張力が急激に増加することが知られている。

2.1.2 直接的な解釈

二つの風船が接続された時、双方の風船内の気圧が一様になることで平衡状態が達成される。 そして、風船内の気圧は、風船の表面張力と平衡状態にある。

上の定式化の結果によれば、 元々の半径に比較的近い(約38パーセント大きい[1])ある閾値以上の半径では、風船が大きければ大きいほど、圧力は小さくなる。 つまり、両方の風船がその閾値よりも大きく膨らまされたという条件で、風船内部の空気圧は、小さい風船の方が、大きい風船よりも高い。 したがって、二つの風船が接続されれば、小さい方の風船が内部の空気を大きな風船の方に押し出して小さくなり、その結果、大きな風船はさらに膨らむ(大きくなる)。 すると、小さい方の風船内の気圧はさらに高まり、大きい方の風船の気圧はさらに低くなるため、正の帰還がかかり、この傾向が加速されることになる。 この傾向は、小さい方の風船の半径が閾値以下にまで小さくなって二つの風船内の空気圧が等しくなることで平衡に達するまで続く。

この平衡点は安定である。 なぜならば、小さい風船( r>r0)と大きい風船( rr0)の函数形(式10)が異なるためである。 この平衡点周りの摂動に対して、負の帰還が働くため、平衡状態がすぐに回復される。

なお、二つの風船実験では、これ以外にももう一点、平衡点が存在する。 二つの風船が同じ大きさで、したがって空気圧も同じになる点である。 大きな方の風船に外圧を加えて(たとえば手で押して)小さくさせることで、強制的にこの平衡点を達成させることは可能である。 しかし、この平衡点は不安定だ。 摂動に対して正の帰還が働くため、上述のもっと安定した平衡点にすぐに達することになる。

前章で述べたように、風船がある半径よりもさらに大きく膨らまされたときは、内部の空気圧は rの敏感な函数として急激に増加する。 その場合で、大きい方の風船の気圧が小さい方の風船よりも高くなっている場合、大きい方の風船が内部の空気を小さい方の風船に送り出しつつ、小さくなって、双方の風船の圧力が等しくなったところで平衡に達する。

2.1.3 理論的結果の直感的な解釈

Schematic view of the cone in a balloon to think of.

図4: 表面のゴムによる円錐内部への空気への圧力。

風船の球体中心から表面にのびた(底面が球面上の)円錐を考えよう。 円錐内の空気は、表面のゴムによって、中心方向に圧される、つまり圧力だ。 その面にゴムが及ぼす力( Fr)は、ゴムの動径方向の延びに比例し、それは風船の半径 rに比例する。 直感的には、円錐の底が球面と交わる脚部と底面中心までの距離( rθ2)を考えればよいだろう。 結果、 Frrθ2 となる(図4)。 一方、その力が働く表面の面積 Sは、半径 rの二乗に比例し、 S(rθ)22。 この二つから、圧力は、 FrS2rr-1となる。

したがって、圧力は(半径が十分に大きい時は)半径に反比例することになる。

2.2 体積と表面積の関係

この二つの風船問題を解釈するもう一つのアプローチとして、全表面積と体積とを考えることもできる。 風船においては、表面積が大きいということは、それだけゴムが延ばされているということで、つまりそれだけエネルギー(又はポテンシャル)が必要になる。 ある容積のもとでは、表面積を抑えるためには、球形が理想的な形である。 たとえば、容積1リットルを実現するためには、球形と立方体とでは表面積はそれぞれ 484 cm2および 600 cm2となる。 この理由で、風船は球形(または楕円形)に近い形になり、表面がギザギザの形になることは決してない。

さて、二つの風船の体積を足した全体積が Vとする。 二つの風船が接続された時、全体積が一定のままで全表面積を、ついては表面張力を、最小に抑えるためには、二つの風船の最善の半径の比( a)はどうなるだろうか? 全体積 Vは、半径比 aを用いて、 V=4π3(1+a3)r3(a0).(11) と書き下せる。一方、二つの風船の全表面積 S は、 S=4π(1+a2)r2(12)={9(4π)V2}13(1+a2)13(a0).(13) したがって、全表面積は、 a=0 の時、すなわち一方の風船の半径が 0の時に、最小となる。

現実的には、風船のゴムの表面張力は、小さいながらも 0ではない元々の半径(第2.1.1章 r0)の時に 0となる。 また、前述の通り、実際の風船では、他にもこの考え方では少し合わないところがある。 とはいえ、この課題のように両方の風船とも元々の大きさよりもずっと大きい場合には、これは、近似的とは言え直感的に理解しやすい考え方と言えよう。

3. (方程式によらない)直感的な説明

百聞は一見に如かず — (ネット上の)実演映像をご覧下さい[2]:

ご覧のように、異なる大きさの二つの風船がつなげられた時、小さい方の風船がさらに小さくなり、大きい方はさらに大きくなります。

なぜでしょう?

Photo of a child blowing up a balloon with effort by Norihiro Kataoka.

図5: 風船のふくらませ始めは大変! 写真は [©Norihiro Kataoka]

一言でいえば、これは、風船は小さければ小さいほど中の気圧が高くなるからです。 ただし、風船が(ふくらませる前の)もとの大きさに近いとき、あるいは風船が爆発する直前の物理的限界までふくませたときは例外ですが。 だから、二つの風船がつなげられると、小さい方の風船の空気の一部が大きい方の風船に押しやられます。 その時、小さい風船はさらに小さくなって、圧力がさらに高くなります。 逆に、大きい風船はさらに大きくなって、圧力がさらに下がります。 だから、この動きは加速されることになります。 小さい風船がもともとの大きさにごく近くなって、風船(のゴム)がほとんど圧力をかけなくなる状態になるまで続きます。

この風船の性質は、よく考えれば誰しも経験があるはずです。 風船に息をふきこんでふくらませようとした時、どんな感じだったか覚えていますか? 最初の一息がいちばん大変だったことでしょう? その最初の段階をいったんこえたら、あとは簡単にふくらませることができますよね。

あるいは、次のようなちょっとした実験をしてみるのもいいかもしれません。 まず風船を大きくふくらませてください。 風船の口の部分を持って、風船が飛んでいかないようにした状態で、風船の口を解放して、口から吹きだしてくる空気の流れをもう片方の手で感じてみましょう。 風船が小さくなるごとに、空気圧が急に高まることに気づくはずです。

こんな日常的な経験でも、風船の性質が見てとれます。 それを思えば、さきの二つの風船の実験の結果は、実は直感に反するものではありません。

では、風船のこの性質を理解したところで、つづく質問は、それがなぜか、ということでしょう。

気圧もふくめて、圧力とは、ある力がある面積に分散されてかかっているものです。 だから、面積が大きければ大きいほど、圧力は小さくなります。 たとえば、生煮えのジャガ芋になにかを突き刺すとしましょう。 串やフォークを突き刺す方が、人差し指よりもはるかにやさしいことは直感的に想像できますね。 これは、串やフォークの方が、(あたる)表面積がずっと小さいため、かける力がずっと少なくてすむ、という事実のあらわれです。

さて、風船の内部の一部、円錐の形、を考えてみることにしましょう。 (図4にある円錐です。アルファベットは無視して下さい)。 この内部の空気にかかる圧力とは、ゴムが外側に延ばされていることによるものです。 風船が大きくなればなるほど、ゴムはいっそう延びますから、ゴムによる力はますことになります。 しかし、そのとき同時に、表面積(円錐の底の面積)も大きくなります。 実は、ゴムが外側に延びるのよりもずっと激しく、面積はふえます。 言葉をかえれば、ゴムによる力が増えるのよりもずっと激しく、面積が広くなります。

たとえば、風船の大きさ(半径や直径)が二倍になったとき、ゴムによる力は二倍になる一方、表面積は 4倍に増えますから、圧力としては半分に下がります。 風船の大きさが三倍になれば、ゴムの力は三倍ですが、表面積は 9倍に増るので、圧力は三分の一に下がります。

これが、風船は大きければ大きいほど、空気圧が下がる理由です。 というわけで、二つの異なる大きさの風船をつなげれば、 小さい方の風船の空気圧が、大きい風船に勝ることになります。 小さい方の風船はさらに小さくなって、大きい方の風船はさらに大きくなるのです。

参考資料

著作権情報

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