▲欧州的登山生活▲

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第98号: ラ・グラブの氷壁再訪 (中編)

発行日
2010/05/30
発行者・筆者
まさ (坂野正明)

まさです。
御無沙汰です。 初夏の季節になりました。 自宅の裏庭のりんごの木もひととき満開だったものの、 もうすべて散ってしまい、英国もようやく夏が訪れようと しています。皆さん、夏山の準備は整っていますか。

先日、 英国の誇るグリット石(硬砂岩)岩場の中で最も有名な地域のひとつで、 20年ぶりの新刊決定版岩登りガイド本「Froggatt」が出ました。 同ガイド本では、先の夏に来英された中島徹さんの勇姿の写真が 一頁を飾っています。彼は、短い滞在時間の間に数々の 高難度ルートを登り、その若さで、と英国クライマー界を仰天させて 拍手喝采を浴びたものでした。タイムリーな新刊だと言えましょう。

さて今回は、前回に引続きラ・グラブの氷壁登攀の 記録を主とし、また英国の山岳会について書いています。 お楽しみ下さい。

目次


登山記録編 〜〜 ラ・グラブの氷壁再訪 (中編) 〜〜

La Grave 村から望んだ時、最も目につく最初の氷壁は 前日登った Le Pylône。 そして、おそらく最も美しく壮観なのが、 La Croupe de la Poufiasse だ。 3年前に来た時、 第2ピッチまでは登ったとはいえ、核心はその上。 垂直にそそり立つ氷壁がまぶしかったものだ。

難易度的にも WI 4+ で、僕たちにとって今までに未経験の世界だ。 しかし、「やろうぜ」というグレアムの声に押されて 登ることに! そう、登れる時に登らなくてはね。

核心は僕がリード、左側から取り付く。 最初の垂直部を乗り越えて、ほうほうのていで氷柱にスリングを 巻き付けると共にスクリューでも中間支点を取る。 まだまだ行けるぞ!

登る。中間支点を取る。
登る。中間支点を取る。
ほぼ垂直なだけに、両腕がどんどん疲れてくる。 そして、疲れてくるから、さらに頻繁にスクリューを打ち込むことになり、 疲れが加速する……。右斜め上に洞穴が見えてきた。 そこでピッチが切れそうだ。 頑張る! ……そして、なんとかたどり着いた。 ふー、大変だった。
グレアムも何とかフォロー、 セカンドでよかった、と感謝しきり(笑)。

そして、核心最後の 15メートル。目の前の数メートルで垂直部が終わる。 苦労してスクリューを打ち込んだ後、気力を振り絞って 最後の 4メートルを登る。 腕のスタミナに問題がある。フックを多用してスタミナ温存。 片足が滑った、なんの、おっと、フックしていたバイルが 1本離れる、 もう 1本も……離れた……墜落。6メートルほどか。 ぬんちゃくのスクリーマーが少しほつれている。スクリーマーを 使っていて本当によかった!

スクリューまで登り返して休憩を入れた後、今度は横着せずに バイルを氷に叩き込む。一歩、一歩、登る。登る。 ……垂直部が終わりを告げた。ほっ。 斜め左上方にトラバースしたところで、岩にナッツを極められた。 ほっとすること限りなし。 少し登ってからようやくピッチ終了。力を尽くした、というものだった!

さらに数ピッチ登り切り、途中、日が暮れた中、 ひたすら懸垂下降で下山。疲労困憊ながら登ったという充実感に溢れる一日だった!

(つづく)


おたよりへの御返事 〜〜 イギリスの山岳会 〜〜

神奈川県の下山家さんから頂いたお便りへの御返事のつづきです。 なかでも、イギリスの山岳会について、の一般的な話です。

日本の山岳会ではよくある「遭難対策委員会」は、英国では聞いたことが ありません。理由は存じませんが、推測はできます。 まず、何か山で事故があった時、組織の責任が問われることは 英国ではほぼありません。事故があった時、山岳会の名前がたとえば マスコミに出ることは考えられません。あくまで、登山者(パーティー)本人の 責任と見なされます。そういう意味で、組織の社会的責任は、 日本よりも相対的に小さい、と言っていいでしょう。

また、英国は日本ほど山深くないため、およそどこでも (怪我さえなければ)1日で公道まで帰って来られます。 それもあるのでしょう、山に行く時に計画書を提出することも少ないです。 せいぜい、どこそこに何ルート経由で行く、と直前に誰かに 口頭で伝える、くらいのことが普通、という印象です。 英国の地は天候の変化が激しいため、現地で臨機応変に予定変更する ことはごく当たり前で、(車で移動して)予定より 50km 離れた場所を登る、 ということも珍しくありません。 そういう意味で、計画書の意義はあまりないかも知れません。

ちなみに、英国で、山に行くためにハム無線を持っている人は 見たことがありません。携帯電話が通じない場所は今でも少なくないんですけどね。 ただし、昨今では、稜線まで出れば携帯電話はほぼ確実に通じます。

加えて、事前に山行計画書を提出して「遭難対策委員会」の判断を仰ぐ、 というのは、きっと標準的英国人の理解を超えています。 そんな軍隊的なことは通常の社会では考えられない、と見なされそうです。 死にたくなければ、ひどい目に会いたくなければ、困難なルートに 行かないのは当然であり、それは個人の選択であって他人がとやかく 言うことではない(助言ならともかく強権的な「禁止」は考えられない)、 というのが英国の常識だと思います。

日本語の「迷惑」に相当する英単語は存在しません。そういう概念自体、 存在しない、と言って言い過ぎではないでしょう。 英国文化は、ラテンな国々の個人主義文化に比べれば相当日本文化に近いと 思うものの、それでも日本よりは個人の自由がはるかに尊重されるし、 他人の自由選択は徹底して尊重する義務がある、というのが僕の印象です。 端的には、他人に迷惑をかけるのが相当程度許容される一方、 迷惑をかけられたからといって怒ってはいけない、と言えそうです。 ある意味では、寛容の文化でしょうか。

(つづく)


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次回予告

次回は… 「ラ・グラブの氷壁再訪 (後編) 〜〜大空の怒り」

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