独立が住民投票で否決されたスコットランド

予定通り、スコットランド独立を問う住民投票が行われました。 そこで、現地、蘇格蘭から続報です。

報道の通り、僅差ながら現状維持派(=[独立に]No)が独立派(Yes)を上回る 結果となりました。

投票率 85%! 先進国の全国選挙としては驚異的です。 英国の全国投票としては 1928年に女性へ選挙権を与えるかどうかが 争点になった選挙以来の高投票率だったそうです。 日本の特に参議院だと 50% を切ることもあることに比べれば、 大変高い投票率です。

スコットランドの人口は日本の十分の一未満だから単純比較は 不公平とは言え。

今回、半年前の時点では、現状維持派がずっと多かったところ、 選挙日が近づくにつれて独立派が猛烈な追い上げをかけて、結果は 蓋を開けてみるまで分からない、と言われました。実際、世論調査に よっては、独立派が現状維持派を僅かに上回る、という結果が報道された こともありました(選挙日の 10日前)。

投票後、即日開票の早期の時点では、49.5% 対 50.5% とかの結果が出て、 多くの人が深夜から早朝までテレビに釘付けになっていた、と聞きます。 結果的には、55.3% 対 44.7% で、現状維持派が上回りました。 直前の世論調査に比べて、現状維持派がかなり多くなった、 と言っていいでしょう。

振返ると、選挙日直前に、スコットランド選挙区議員で前英国首相の ゴードン・ブラウン(労働党)が現状維持を訴えたのが、それなりに 効いたのでは、という話を聞きました。

聴いた友人によれば、感動的演説だったとか。 独立派の友人が、「それがどうした」と訊かれもしないのに (フェイスブックで)発言していたことも、それを裏付けましょうか。

また、そうでなくても、独立派の躍進が報道されるたびに、 イングランドでの市井の人々の関心(や心配)もどんどん高くなって いったのを感じます。たとえばソーシャルメディアでも、 「スコットランド愛してるよぅ、今後も一緒にいてよ、お願いだから!」 という嘆願の叫びが、イングランド人からたくさん挙がるようになりました。

実際、今の時代、スコットランド人で、イングランドに親戚が一人も いない人を探すのは、難しいと思います。まして、友達とかになると、 それこそ山のようにいるのは普通かと。それくらい、混ざり合って います。例えて言えば、日本で関西生まれ関西育ちの人でも、親戚に 関東に住んでいる人がいるのはごく普通、というのと同じです。 つながりある親しい人々から、離れないで〜、とお願いされたら、 心も動く事かと想像します。

言うまでもなく、独立推進派は、日常生活に大きな負の変化が起こる わけではない、と強調していたにせよ、です。

なお、今回、住民投票に選挙権を持っていたのは、スコットランド 生まれかどうかは全然関係なくて、現在(過去何年か継続して??)、 スコットランドに居住しているEU(欧州連合)国籍の人々、でした。 当然、大都市だと、生まれも育ちもメンタリティもスコットランドでは なく、親戚も皆スコットランド外、という人はたくさんいることになります。

加えて、特に独立派の一部が険悪化したり果ては狼藉を働いたりしたのも、 現状維持を後押しすることになったのでしょう。 たとえば、現状維持派の看板([独立に]"No")が至るところで乱暴に 傷つけられたり、お前は非国民か、のような言説を唱える人が時に 無くは無かったりしたしたもので。逆はほとんど聞かなかったのですが。 実際、現状維持派の友人夫婦の一組は、"No"を主張するだけで こんなに嫌がらせを受けるなら、もし独立することになったら 真剣にイングランドへの移住を考える、と宣言していたものでした。

そこまで公言する人はさすがに少ないまでも、内心、独立派を不愉快に 感じていた人は少なくなかったでしょうね。事の性質上、"No"を 公言するスコットランド人よりも、"Yes"を公言するスコットランド人の 方がずっと目立っていたように僕の周り、つまりハイランドでは 感じました。しかし蓋を開けてみると、ハイランドでさえ現状維持派が 僅差とは言え独立派を上回ったのでした。

スコットランド北方に位置するハイランドは、歴史的には 対イングランド反目の中心勢力で、スコットランド人のある意味では 心の故郷、もしくは最もスコットランドらしい土地なんですけどね。 ただし、エディンバラのような南部の都会から見れば、田舎者 という印象は、少なくともかつてはあったとは聞きますが。

まして、イングランドに距離的に、あるいはビジネス的に、近い土地では 現状維持派が多勢を占めました。 端的には(スコットランド南部にある)首都エディンバラと中でもさらに南部の Boarder県[=国境県]と、北海油田基地のアバディーン市・地域では 現状維持派の完勝でした。

興味深いのは、独立派が上回ったのは、グラスゴーとその周辺地でした。 グラスゴーは、スコットランドでは人口では最大の都市で、 エディンバラとも近いもので、両市はライバル関係にあります。また、 距離の近さにも関わらず、グラスゴーの方言の訛りは大変強く、 (昔から王族が居住していたこともあるのでしょう)"きれい"な英語を 話す事で知られるエディンバラとは好対照にあります。

"きれい"というのは、上流階級の英語に近い、という意味です。

端的には、洗練された文化都市のエディンバラに対して、 泥臭い産業都市のグラスゴー、という雰囲気ですか。

スコットランド議会で現在最大会派であり、独立を強く推奨してきた スコットランド国民党も含めて、当然、政治の中心は、エディンバラだった ことを思えば、これはある意味では皮肉な結果かも知れません。

スコットランド人の国民感情はかくも複雑、ということでしょうね。

なお、早朝に開票作業が確定した後、もちろん各政党の代表はそれぞれ 演説しました。午後になって、エリザベス女王も談話を発表しました。 ざっと要約すると、以下のような感じです。

「皆さんの中には近しい人々の間でも感情のしこりも残っていることでしょう。 でももちろんそれは、私たちの誇る民主的議論に必然的に伴うものです。 前進の時が来た今、考え方に違いはあっても、皆がスコットランドを 愛していることに違いはないことを忘れないようにしましょう。 それが私たちが団結する原動力の一つですし。 スコットランドの人々、そして連合王国の人々が、今後、自分の意見を 強く表明しつつも、お互いへの敬意を忘れず、助け合って、スコットランド と国全体の未来を築いていくことを確信しています。」

ちなみに、過去数日間、女王は、スコットランドのバルモラル城に 滞在していて、そこから談話を発表しました。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-29287662

エリザベス女王はスコットランド人にも別に受けは悪くないですし (そもそも独立後も女王を象徴君主とする、という筋書きでした)、 女王の言葉には一定の効力があったことでしょうね。

冗句としては、
「(エリザベス跡取りの)チャールズ王の時代になって保守党政権下の時に住民投票してたら、独立しただろうにね」
なんて言われたり (笑)

上の言葉にもあるように、今回、独立を巡って、特に小村などでは 住民相互の感情にある程度の亀裂が入ったことが少なく無かったように 聞いています。英国人は、一般論としては、相当に大人で、何らかの件を めぐって意見の相違があっても、その件を巡って激しく議論することが あっても、一息つけばお互い平和に麦酒を酌み交わしている、 という光景が普通に見られます。

唯一の例外はサッカー?!

ただ、今回は、そんな英国人をもってしても、行き過ぎのところが 散見されたように感じます。ただし一方で、理性を失うことは 英国では大変恥ずべき子供じみた行為とされているため、 一部とは言え独立派が取った過激な行動は、余計に反感を呼んだ ことと想像します。
だから、エリザベス女王の賢明な言葉は、一層、沁みるものだったかも、 と想像するのでした。

僕の友人のスコットランド人には、現状維持派もいれば独立派もいます。 そこで、住民投票の前夜、そして開票後の午後に、それぞれ以下を 僕のフェイスブックに投稿しました。 スコットランドの友人にもそれなりに好評だったので、悪くなかった と思います。

以下に書出して、この投稿の締めとします。

でも、いざ和訳してみると、我ながら実に訳しにくい文章です……。 (英語)原文で抵抗がない方はそちらをどうぞ (^^;

(和訳: 投票前夜の投稿)

親愛なるスコットランドの友人へ。住民投票を控えて、僕の思いを 投稿させて頂きますね。まず最初に、どうぞ信じるところに従って 一票を投じて下さい。あなたの愛するご家族、友人、そしてあなた 自身の生活をより良いものにするのに何が最善かを多面的に考慮された 上で。間違っても、イングランドやスコットランドの政治家や大企業の ことを考慮なさいませんように。連中は、選挙が終わるや否や、 あなたがたのことなどかけらも考えませんから。愛国心というものは、 スコットランド、連合王国、あるいはどの国であれ、悪です。 それが故に、日本は第二次世界大戦前に発狂したものであり、 米国に至っては今もそうで、世界中どころか自国の国民に対しても 非道をまき散らしているのですから。隣人に対して、「Aが Bである (ない)と思うってんなら、[この国から]失せろ」などと言うことなど、 ゆめありませんように。もしそういう言葉を発したならば、明日には 今度はあなたが同じ言葉を別の隣人から言われることでしょう。なぜなら、 この国はあなたは自分の国と信じているにせよ、その隣人は、あなたに この国に住む権利は無い、と思うからです。最後にもう一言付け加え させて頂ければ、この住民投票は終わりではなく始まりであることを 忘れないで下さい。何と言っても、違いを作り出すのは制度や国境では なく、人々自身ですから。もし皆さんが、今後続く何十年か、国の政治に 対して現在持っている興味と熱意とを失わず、政治への大なり小なりの 貢献をするならば、皆さんの一票が可否どちらであれ、投票結果が どちらに転んでも、スコットランドの将来は、約束されています! 幸運を!

(原文: 投票前夜の投稿)

To my dear Scottish friends. Before the referendum, let me post my thought. First, please cast a vote as you believe, thinking extensively over what is the best to make the life better of your family and friends you love, and yourself, but NOT the politicians or big coorporates in London or Edinburgh - they least care about you as soon as the voting finishes. Patriotism is bad, be it for Scotland or UK or any country. That is how Japan went mad before the WWII and US has been going even now, spreading atrocities all over INCLUDING to their own people. Never tell your neighbour "fuck off if you do/don't think A is B" - if you did, tomorrow you would be told the same by another neighbour as they don't think you deserve to live in their country, which you believe you belong to. Last but not least, please remember the referendum is not the end but the start - after all it is the people who make the difference and not the system or boarder. If you keep your interest and enthusiasm you have now for the politics of the country and make the contribution for it, small or big, for the coming decades, then the future of Scotland is promissing, whichever you vote for and the referendum result turns out! Best wishes!

(和訳: 開票結果確定後の投稿)

親愛なるスコットランドの友人へ。住民投票が終わりました。 独立反対票を投じた皆さん、今は安心して気を緩める時ではなく、 新たな挑戦を受け止める時です。ロンドンの国会は、そもそも選挙制度が 不公平の塊ですし、控えめに言っても、当然のごとくあなた方の面倒を見る なんてことは「ありません」。独立賛成票を投じた皆さん、自分の投票が 正しかったことを証明するためには、国を改善するために今まで以上の 努力をしなくてはいけませんね。もしそうしないなら、独立することの 意味がそもそも無くなりましょう。どちらにせよ、「貧乏、暇無し」と いうもので……。たとえば、例の封建時代から続く超大地主の土地改革から 始めてみるのはどうでしょう? なんにせよ、皆さんは今、スタートラインに 立ったところです! 他の連合王国の人々から尊敬を集めるくらいになりま しょうよ! 今回の住民投票の投票率は驚異的で、私も深く感動しました。 どうぞ誇りに思って、今後とも進んでいって下さい! そしてもし許される なら、この地に住まうことを私も誇りに思わせて頂きますね。

(原文: 開票結果確定後の投稿)

To my dear Scottish friends. The referendum is over. For "No" voters, it is not the time to feel relieved and relaxed but to face the challenge, as Westminster, of which the electoral system is grossly unfair anyway, will NOT take care of you automatically, to say the least. "Yes" voters had better work harder to build the better country in order to prove you were right - if not, what's the point of independence in the first place? No rest for the wicked, either way... For example, how about beginning with disintegrating those feudal massive land-owners? Whatever, you are standing at the start line! Make the rest of the UK look up to you! The turnout of the voting was staggering and I was very impressed. All of you should be proud of it, and keep going! And I too will be proud to reside if you let me :-)

ここまで読んで下さった皆様に、ひとつおまけ。 僕が笑ったのは、こちらのツィートでした↓
https://twitter.com/marimandona262/status/512876360742998016

ウィスキーの生産者が 「どっちが勝っても絶対ウィスキーの売上があがるはず。世界中でスコットランドの事が話題にあがってるからさ」 と嬉しそうにインタビューに答えていた。たくましい。
@marimandona262

(2014-09-20)

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