2001-2002 Northern Scottland 登山記録/感想文 (by まさ)

Language: English



総括

山域
Northern Scottland/The Torridon Hills
参加者 (レスター大学山岳部)
キャプテン・ジョン、ジョン・ボイ、ライナス、ロブ、トム、クレール、 バーニー、ガレス、ジェン、トゥプス、G、まさ
期間
2001/12/29 -- 2002/1/5 (7泊8日)
  • 2001/12/29 Leicester ... Torridon
  • 2001/12/30 遠くの丘 (ジョン・ボイ、G 以外; そり遊び他)
  • 2001/12/31 Sgurr Dubh (途中で引き返す)
  • 2002/1/1 海辺 (キャプテン・ジョンのみhut西方の425mピークへ)
  • 2002/1/2 Liathach/Spidean Choire Leith (トゥプスと下の二人以外)
    Stuc a Choire Dhuibh Bhig 東北面での氷壁登り (ロブ、トム)
  • 2002/1/3 hut西方(Seana Mheallan方面)の425mピーク(バーニー、ト ム、クレール、ライナス、G、キャプテン・ジョン、ジェン、まさ)、
    その途中でのそり遊び (それ以外 --- ジョン・ボイはhutで沈殿)
  • 2002/1/4 Beinn Eighe/Spidean Coire nan Clach (まさ、バーニー、 ライナス)
    Liathach/Spidean Choire Leith (キャプテン・ジョン、トム)
    ジョン・ボイ、G はhutで沈殿。 それ以外は、Stuc a Choire Dhuibh Bhig 東北面での氷壁登り (氷 がなく、雪遊び)
  • 2002/1/5 Torridon ... Leicester
宿泊
Ling hut (self-catering)

登山編

レスター大学山岳部の面々12人による年越し冬山山行 --- と予想していたが、 その実は限りなく春山に近かった。実際、測定した限りで、ずっと気温は0℃以 上あった。山頂でさえ。行く直前まで吹雪とかで大変だったようだが、行ってい る間は、一転、穏やかな天気になったということらしい。実際、着いた時には辺 り中一面雪で覆われていたのに、帰る頃には探さないと雪面がない、という状態 だった。

目的地の The Torridon Hills はスコットランドの中でもほぼ最北、 北緯57度35分くらい。因みに、東京北緯約36度、北海道稚内北緯45度、 樺太(サハリン)北端北緯55度だから、いかに北なことか。

メンバーは、重鎮ライナスを除き、冬山経験は少ないようだ (私が2番目?)。例 えば、クランポン(アイゼン)を自前で用意した人は、他にトム、トゥプスだけだっ た。

12/29

待ち合わせは大学のいつもの場所に午前8時で、そこからミニバス(16人乗り; 今回12人+荷物)を運転していく。私、なんと10分遅刻してしまい、バスが跡かたも 見当たらないではないか! おまけに電話も見当たらない、電話帳忘れた --- 困っ た、焦った。 タクシーで急遽家に帰って、キャプテン・ジョンの携帯電話になんとか つなぎをつけて、ひたすら頭を下げながら拾ってもらった。ふー。

レスターからは、一路スコットランドへ。遠い。寄り道なしで帰った帰路で 計算して12時間ドライブ。行きは、グラスゴーの登山用品店で、冬靴、 クランポンなどを各自必要に応じてレンタル。ピッケルを合わせた3点セット 1週間で6000円くらいのようだ。余談ながら、借りた靴は揃ってサロモンの冬用 革靴 --- 私が昨シーズン最初に購入してサイズが合わずに泣く泣く処分した 思い出の靴だ。

イングランドを走っている間は見事に平野か丘ばかりだったが、スコットランド の北部に入ると、多少山らしくなってくる。時には、道端を鹿がうろついていた り。窓から見える雪山の斜面にはきれいな面発生雪崩の跡とデブリとが…。なに しろどの山も木らしい木が生えていないから、雪崩を止めるものがない。内心、 一気に緊張感が高まる。

hut(山小屋; 自炊形式; 今回、実質、貸し切りだった)は、道(駐車場)から歩いて 10分のところ。雪に覆われた道がなかなか見当たらず、また、皆の荷物が多くて、 2、3往復の必要があったりで、結局寝たのは、午前5時前だった。

12/30

翌日、当然起床は遅く、昼前。雪の斜面を探しながら、バスで ぶらぶらと行く。雪上に繰り出したのは、何と15:00。今にも日が暮れそう。 しかし、ヒースが顔を出す雪面に、金髪白人の皆様が冬衣装で繰り出す のを見ていると、思わず登山用品のカタログにひとり入り込んだ気がしたものだ。 今日は、適当なところで(持参した)そり遊びに興じる。 バスに戻る頃にはヘッドランプが必要だった。晩はパブにでかけて就寝1時。

12/31

再び起床は遅く、10時半頃。ようやく正午、近くの山(Sgurr Dubh (782m))に向 けて、出発。山というより丘に近く、障害物も少ないので、ルートはどうでも取 れる。この付近の山は大体そんな感じのようだ。スローペース、頻繁な休憩、加 えてランチタイム、とくれば、山頂まで行けるわけなく、はるか手前で引き返す ことになる。帰りは、なんとなく大雪合戦。最後はヘッドランプ。

この日は、夕食後、新年を迎えにパブへ。別行動で来ていたクラブのメンバー、 アドリアン、サラ、ポールとも合流して、皆で祝う。就寝は 4:30。

1/1

昼過ぎの起床。海岸のクライミングサイトまでドライブ。 キャプテン・ジョンだけひとり別行動、近くの丘に登りに行った。 我らが着いた頃には時間が遅過ぎて、ただぶらぶらして帰ってきた。

さて、さすがになんとなく過ごすのも飽きたか? 翌日は7時出発で付近の 最高峰 Liathach山塊 Spidean Choire Leithに行くことにする。 地図を広げて予習、予習 --- 半年ぶりだぁ、わくわく。 パブはやめて早めにベッドへ。

1/2

さて、1/2。今回のメインイベントか? 往復約13km、標高差970m。だらだらと川 沿いのメインパスを通って、山の北側 Coireag Dubh Mor に出る。稜線直前、コ ルに達する狭い谷の急登がハイライトか(レベルI)。私が一番起床。出発は予定 より40分遅れ。まぁそんなものだろう。

20分ほど歩いて、ザックを一旦下ろして再び担ごうとした時、 気づいた。担ぐ時邪魔なものがない --- ピッケルをhutに忘れた!! 幸い当分間違うような道ではないので、先に行っていてもらうことにして、 走って取りに帰る。刺激的な準備運動…。

途中で待っててくれたトムとジョン・ボイと一緒に他の人々との合流は、1時間 20分後。ここで大休止。ロブとトムとは、ここから別行動、アイスクライミング へ。トムは持参の唯一のクランポンが縦爪タイプだからなぁ。

しばらく後、サラとポールとに出会う。幹線道ゆえん? ほぼ水平の夏道を離れる前に再び大休止。隣の斜面で滑落停止の練習をして みると、バーニーが声をかけてきた。「それ教えて。知らないといけないと 思うから。」積極的ね。まる。…ただ、それって私の役ではないと思うん ですが…、ねぇ、キャプテン・ジョン! ライナス!

登りに変わると、途端にペースが落ちる。200複歩くらい進んでは休憩を取って いるような。うーむ。山頂まで行けば、(文字通り)日が暮れるな、これは。 雪は膝まで沈むくらいの軟雪。時にずぼっといく。とはいえ、ところどころトレー スもあり、また、9人もいれば後ろの方は高速道路だ。

正午。ハイライトの急勾配の谷(Coireag Dubh Mor の奥)を前に昼食大休憩。ク ランポンに(一応)ハーネスとヘルメット装着。皆より一足先に谷の口に行って、 (雪の)ハンドテストをやってみる。谷の幅は3--5m、両側は岩壁、斜度20度以上 (最大50度程度)、水平距離250m、上が稜線。デブリは見当たらず、雪が少なく (場所によってはピッケルを刺すと岩に当たる)、両側が岸壁のため集まってくる 雪の量も少ない --- 雪崩の危険は少ないとは思うが、念のためと(テストの)練 習とを兼ねて。ピッケルで雪を掘るのは消耗、おまけに斜度がきつくて鉛直に掘 るのは簡単ではない --- 実戦勉強だ。結局(斜面の下側で) 30cmくらい掘ってう んと引っ張ってみるが動かない。安全ということにしよう。本当はもう少し深く 掘りたかったところだが。

ここで驚いたのは、皆、一様にピッケルのダブル・アックスで登っていくこと。 ダブル・アックスは、登るのはちょっとは楽かも知れなく、滑落の危険も少しは 少ないかも知れない。一方、もし滑落したら止めようがないから、絶対に滑落で きない。それと…二本も常に持ち運ぶのは重いじゃないか。西洋流なのだろうか。

稜線の向こう側から、上の方に霧が次々と流れていくのが見える。「ほら見て。 きれいだと思わない?」なんて隣のバーニーに声をかけた私。5分後にそんな自分 の能天気さを呪うことになるとも知らずに。--- 稜線上はみぞれを含んだ強風の 嵐だった。あっと言う間に体温が奪われる。上は下着と中間着との2枚、手袋は インナーのみだから。ザックを盾にヤッケとオーバー手袋とを着て、やっとひと 心地。その時点で、インナー手袋はびしょ濡れだった。気温は高いので(4℃)、 なにしろあっと言う間に濡れてしまう。みぞれの強風おそるべし。

ジェンはべそ状態。無理もない。初めての雪山としては、辛いところだろう、こ れは。行きたい人から順に稜線上を山頂に(水平300m、高度差120m)。突風の合間 を縫いつつゆっくり前進。途中、たまらず、目出帽をかぶった。気温1℃(山頂で 測定)で目出帽とは! 断念したジョン・ボイ、ジェンとその付添い、キャプテン・ ジョン以外登頂。15時前。

山頂でオーバー手袋を外して記録など取っていると、ついに手が寒さでかじかん でしまった。インナーはびしょびしょだから。手袋交換。雪山山中で手袋交換す る羽目になったのは初めてだ。みぞれの強風おそるべし。実にいい経験をさせて もらった。

ひと足先に降りたバーニー(ジェン他登頂断念組と合流したようだ)以外、揃って 下山を始める。クレールの足元がおぼつかない。聞くとキック・ステップを知ら ない、というではないか。え!? とりあえず教えて、私が先に立ってステップを 切りながら降りる。さぁ、問題は例の谷だ。クレールが大丈夫か? 仕切りのライ ナスに尋ねると、…大丈夫だと思うが…、とお答え。ライナスがクレールにロー プの必要性を尋ねて、大丈夫ということになった。ライナスがすぐ下で見ながら 降りるから、いざとなったら、止めるし、と。

もちろん、結果的には何事もなかった。しかし、ここは私の反省点だ。遠慮せず、 ロープを出させるべきだった。何しろ雪山初めての人間に自分の技量が分かるは ずがない。万一滑落したら、すぐ下のライナスごと谷の底まで一気に落ちるのは 必定の状態だった。英国流自己責任が悪い方に働いた例だっ たろう。ロープが必要なのはクレールのみ。雪の状態から言って、腰がらみで 確保できる。ちょっとの手間で安全が確保できたところだった。

何とか谷の下に着いたのは、17時過ぎ。日はとっぷりと暮れている。私的には、 不思議と不安はない。 トレースをたどりつつ、一路 hut へ。クレールの疲労が激しいが、20:30 帰り 着く。いつも元気で明るいクレールもこの日はさすがにちょっと勝手が違ったか。 初めての雪山で13時間行動は楽じゃなかったろう。悪天もあったし。とは言え、 帰り着いてお茶を一杯飲んだら笑顔を取り戻したのには感心した。

Gはこの日、激しくマメを作ってしまったらしい。借りものの靴でいきなりの長 時間行動では無理はない…。いやむしろ、平気な皆の足の丈夫さに感心したい。

1/3

起床は9:20頃。皆の昨日のつかれを考えるとむしろ上できか。14時前に発で、2 日前にキャプテン・ジョンがひとり登った、近くの丘に行く。途中、そり遊び組 と分かれて、バーニー、トム、まさ、クレール、ライナス、キャプテン・ジョン、 ジェンが山頂に。先頭バーニー。岩と見るとダブル・アックスで登りに行くトム とジョンとはさすが。下は軟雪、快適なフリーソロか。帰りは例によってヘッド ランプ。湿地帯の中、行きの踏み跡を見失って、ちょっと往生した。

この日の出発前、バーニーから、翌日の山登りに誘われた。大勢は、スキー・ス ノボーのゲレンデに行くらしいが、バーニーは山登りがしたい --- でもひとり では行けない、と声をかけてきたわけだ。いいねぇ、いいねぇ! 一も二もなく賛 成! 結局、地図を見ながら、近くのBeinn Eighe/Spidean Coire nan Clach (993m) に行くことにする。ルート図も道もないので、地形図とにらめっこでベ ストルートと思われるルートを決めた。最初に楽なメインパスで距離を稼い で、途中で道を外れて川を渡渉し、尾根筋(Coire nan Clach)の方に向かって、 最後、西のコルに出てから絶頂へ。実は、基本的にどこでも登れそうだ。雪崩そ うなところは避けるとして。逆に言えば、目立つものが少なく、特に悪天の時な どルートファインディングには慎重を要しそうだ。

結局、他の人々もスキーはやめになったらしい。キャプテン・ジョンとトムとは 登り損ねた Spidean Choire Leithに (ジョン、もう一度行くとは…)。 ライナスは私とバーニーのグループに。その他ほとんどは、ロブに率いられて アイスクライミングに。雪上登山組は早めに就寝、他はパブに。

1/4

5:20起床、6時40分頃、雪上登山2組は同時に発。気温9℃。なんて暖かい…。ずっ と暖かいので、日に日に雪が融けてきている。予定地点で2組はお別れ。川の水 音が(2日前に比べて)えらく大きい…。雪融け水ということか。不安だったが、 何とか岩を飛び石伝いに渡れた。これはルート選定ミスだった。下流で大きな水 音を聞いた時点で、橋を渡ってメインパスを行くのをやめて、直接雪原に乗り出 していれば、渡渉で悩まなくて済んでいた。

ついでに渡渉ポイントも予定より早かったようだ。夜明け前の暗さで、 地形の視認も楽ではない。歩を進めながら、地図・コンパスと高度計と にらめっこで、次第に明るくなったのにも助けられて、なんとか現在位置把握。

先頭は私。ルート・ファインディングしながら、ステップを切って行く。 雪より岩より草で滑りそうになった時点で、クランポン装着 --- 私のみ。 ここで純粋な雪の斜面が少し。フラットステップ(但し軟雪)で登り始めたが、 考えたら後ろはバーニー、クランポンなしの初心者。私のトレースを忠実に 辿ってくる。仕方ない、疲れるがキックステップで登る。尾根に出て…、 クランポンでは本能的に雪面を行きたいのをやっぱり我慢して石が露出 している方をなるべく選ぶ。

主稜線上はやはり風が強い。でもみぞれではなく、また耐風姿勢を取る ほどでもないので、2日前に比べれば断然快適。最後ひと踏ん張りで 三角点のある972m頂上に達する。嬉しいことにこの日のルート ファインディングは会心のできだった。最初に少し間違えたが、その後 ちゃんとリカバリーできたし、言うことなし。 地図読みと高度計の目盛とがぴたりと一致していた。

最高点に行きかけたところ、別の尾根(Stuc Coire an Laoigh)から2人組が登っ てきた --- なんと、サラとポール。よく会うねぇ。この後、尾根通しに縦走す るらしい。我々よりずっと自在なルートを取っているようで、少し羨ましい。

正午前に最高点993m到達。この後、隣のピークへ縦走する可能性もあったが、天 気が下り坂になっていることもあり、素直に帰ることにする。帰りは、アイスク ライミング組との合流を目指して西方に降りる。ライナス先頭。バーニーはクラ ンポン装着。

ライナス、雪面を見つけてはシリセードー。速い速い。では私もと行きかけたバー ニーを引き留めて、制動のかけ方を教えておく。ライナス、行く前にそれくらい 教えてから行ってよね。特にこんな岩ごろごろの雪面では…。なお、雪が少なく、 深い谷でもないので、雪崩の危険は高くはないだろう。シリセードー中、一度、 バーニーがクランポンを雪面に引っかけて1mmくらい足を切ってしまった。大事 に至らずよかった。シリセードーにはそういう危険もあるのかと、バーニーには 悪いが、勉強になった。

川は午前中よりさらに増水。結局、ちょっと廻り込んでメインパスの渡渉ポイン トまで行かなくては渡れなかった。アイスクライミング組は今日は、2日前にあっ た氷が融けていて、結局雪遊びに終始していたらしい…。同情。合流して心ゆく まで遊んで、最後はお決まりのヘッドランプ。この日、キャプテン・ジョンとト ムとは2日前の半分以下、わずか6時間で行程を終えたそうだ。さっすが! 主稜線 上も快適な天候だったと。

この夜が Torridon 最後の夜、全員でパブに繰り出してお祝い。 途中からアドリアン、サラ、ポールも加わった。あまり遅くならないうちに 切り上げて就寝。

1/5

レスターまでひた走り。22時頃、帰宅。


今回、私にとっては初めてのスコットランド、5月連休以来の雪山、楽しみにし ていた。英国流というのだろうか、のんびりした山行はそれはそれで楽しかった し、興味深かった。何もなくても山にいられたら、それで幸せである。ただ…結 局まともな行動日は(数え方にもよるが)2日間。フルに使える6日間中でそれだか ら、これはさすがにちょっと残念だった。大体毎年そういうものらしい。ほぼ同 じ日程だったポールに後で訊くと、1日以外はフル活動していた、と。羨望を禁 じ得なかった。…がつがつし過ぎかなぁ。確かに、同じ新年の日々を過ごすなら、 レスターよりスコットランドのhutの方がいいけれども…でも…。


It's up to you -- 自己責任? それとも責任回避?

「It's up to you」英国で頻繁に耳にする言葉である。日本語に訳すと、「ご自 由に」「どちらでも」「あなた次第」「あなたのご判断で」くらいになるだろう。 英国は基本的に(少なくとも日本よりはずっと)個人の自由意思が尊重されるので、 その象徴の言葉という気がする。

今回のTorridon山行でも、この精神が存分に発揮されていたと感じる。まず、別 行動が結構多い。実際、全員揃って発ったのは、最初の二日間だけ。あるいは、 出発時間は決まっても、起床時間は「It's up to you」。

で、問題は、時にそれが行き過ぎと感じたことがあった。まず、冬山基本講習が なかった(私はキャンセル空きで直前に参加が決まったので、その前のことは知 らないが、知識としてさえ持っていなかった(人がいる)ので、多分、全くなかっ たのだろう)。キックステップとピッケルとの基本的な使い方くらいは一度は練 習して(させて)おかないと…。キャプテン・ジョンはとてもよくできた人間だが、 ちょっと「It's up to you」に任せ過ぎだったかと感じる。

1/4 の Spidean Coire nan Clach、私がクランポンを出したところで、バーニー に「私もつけるべき?」と訊かれた。そうして欲しい、と答えようとした矢先、 ライナスに「It's up to you. 私はつけない。」と口を挟まれた。で、結果、バー ニーはクランポンなしで登ったわけだ。確かに、ライナスは問題ないだろう。し かし、今までクランポン装着の経験がほとんどない人間に「It's up to you.」 はないだろう。(誰がリーダーだったかは曖昧なのだが)リーダーとしては、 「It's up to you」と言っておけば、責任回避はできるが…、山ではそれはまず かろう。相手に十分な技量があるならともかく。

結果論だが、私としては、そこで装着を強く推しておくべきだった(反省)。実際、 先頭に立つ私がクランポンでトレースをつけていく以上、そのトレースを辿るバー ニーは、クランポンをつけておかなくてはまずかった。第一にクランポンのある なしで歩きやすいルートも歩き方も異なるし、第二にクランポン装着した私には、 そこをクランポンなしで歩いた時の危険度、例えば滑りやすさとかが分からない。 だから、例えば(クランポンなしでは)危ないところがあっても、気づかなくて、 後ろのバーニーに警告を発さずに通過してしまうおそれがあった。

「It's up to you」 --- 自己責任の世界なら、ひとりひとりにそれなりの気構 えが要求されると考えるのが自然で、実際ある程度はそうである。しかし…、山 に関してはちょっと甘過ぎる点が多々見られた気がする。たとえば、1/2 の Spidean Choire Leith、地図・コンパスを使っていたのは、キャプテン・ジョン と私のみ(ライナスは過去に登ったことがあるそうだが)。皆、地図を持っていな かったようだ。つまり、皆の感覚は、キャプテン・ジョン頼り…。楽しみ方に余 裕があるのはいいのだが(これはある意味で感心した)、ことに冬山ではそれには 装備や技術や経験の裏付けがないとまずいと思うのだが…。


生活編

hut

今回の hut (山小屋; 自炊方式、管理人はいない) は、プロパンガスで、部屋の 明かり、ストーブ、ガスレンジとをまかなっている。電気はない。小屋の中は15℃く らいにまで達していてとても暖かかった。ベッドにはマット(敷布団)があるし、 トイレはもちろん、乾燥室まである。そして当然、湯も出る。欠点(?)は水を手 動ポンプで屋根裏のタンクへ汲み上げる必要があることか。もう少し気温が低い とどうなるのだろうか?

かような hut だから、皆の装備も当然、それを想定している。普通の牛乳に、 肉、野菜、瓶詰め、缶詰の料理やソースを用意して。ライナスは共用にとラジカ セまで持ってきていた。因みに、昼飯として毎朝サンドイッチを用意していくも ののよう。凍らず、かさばらない高カロリー行動食を、と気を遣って用意した私 は肩すかしをくった気分だった。

hutの朝は紅茶で始まる。先に起きた人のうち誰かが紅茶(またはコーヒー; 少数 派だが)をそれぞれ皆の希望をとっていれる。砂糖の量の希望までとるあたりな かなかきめ細かい。因みにミルクはほぼ自動的に入ってくる。外から帰ってきた 時も同じだ。疲れて帰ってきた時、はい、と紅茶が出てくるのは実に嬉しい。英 国のよき習慣かな。一方、夕食時は順番にひとり、二人、あるいは4人くらいのペ アで食事を作る。2日のSpidean Choire Leithの時は、遅れて帰り着いたGが居間 で果てている間、ジョン・ボイが2人分の食事を作っていた。ジョン・ボイとて 相当疲れていたはずなのだが。いい関係だね。見てても気持ちいい。

チェス

hut の晩は暇だ。 談笑したり、チェスやトランプなどしたり。今回、英国に来て初めて、 チェスをする機会を得た。10年ぶりくらいか。なにしろ日本では指す機会などほ とんどない。ルールの確認から始める有り様で、こてんぱてんにやられることを 期待していたのだが、皆の指し回しを見ていると、これは…明らかに弱い。最強 に見えたトムと指しても勝ってしまった。拍子抜け。日本の小学生ほど将棋をや らないのだろうか。興味深かったのは、自分の手番の時でさえ、周りの人と談笑 したりしていること。ひどい場合には、今、どっちの手番だっけ? とか訊いてい たり。将棋と言うのは、一旦始まるとどちらの手番の時でも最強手を求めて一心 不乱に読むものだというのが私の感覚なのだが…。英国流?

パブ

最初にパブに誘われた時は驚いた。そもそもパブ(最寄りの村)に行くには、着替 えて夜の雪道を10分歩いて車で10分行って、と楽ではない。時刻も時刻だったし(21 時過ぎ?)。最初の晩は、女性陣3人は参加を断っていた。私に声をかけたのはガ レス。「パブに行くけど来ない?」「え?! 今から?! …う、うん、いいけど。」 「よーし、そうこなくちゃ!」誰かがトムに声をかけて「まさかひとり残って(恋 人の)バーニーといいことしようなんて考えてたりしないよなぁー、トム?」かく してトムを含めて男性陣ほぼ全員参加。うーむ、えらい日本的なような。

パブでも結局、トランプしていたり。…おんなじやんけ! ロブが"Ace Chaser"を しよう、なんて持ち掛ける。トランプと言えば、当然西洋が本場、どんな面白い ゲームかと期待が高まる。名前もなんか格好いいではないか。ところが…何のこ とはない、ばばぬきだった。ジョーカーの代わりにエースを一枚抜いてそれで行 う、と。

新年

新年を迎えたのもパブだった。この日は、ただで料理が振舞われた。デザートま で含めて取り放題。クール! 味も、イギリスにしては悪くない。新年が来た瞬間、 突然、パブのバック・ミュージックが大きくなって(ラジオ?)、店の人からテー ブルにクラッカーの数々が投げられる。皆でお祝い(撃ち合い)。なんか隣の席の 全然知らない人までやってきて、おめでとう、おめでとうと握手する。

店の人から声がかかる。「ロブスターさんってこちらでしょうか? お電話ですけ ど。」すかさず誰か、「ロブー、ママからお電話よ〜(笑)」。頬を赤らめて電話 口に向かうロブ。皆、追いかけてダッシュ、電話の後ろで大合唱「♪アイ・ラブ・ ユー、ベイビー! ...」。わはは。なんとなく出遅れて席にいた私、ふと隣を見 ると残っていた3組、6人のカップルが皆揃って取り込み中ではないか。しまった! 居場所なし…。

恋人たち

そう、今回は、メンバー中の女性陣3人は皆誰かと熱々の人ばかりだった。hutで も、寝袋代わりにでっかい布団のようなものを持ってきていたし。トムとバーニー とに至っては、途中から別の小部屋に二人移っていた。狭いバスの中でも関係な し。2人用座席をやたら複雑な使い方をしていた。行きはトムのすぐ後ろの席だっ た私は不幸であった。あんまり音高く、延々ちゅっちゅやっているもんだから、 最後には隣のロブが実力行使で制止してたからなぁ。

しかーし、そのトムをして、1/2, 4 とメインの日にバーニーとあえて別行動を とっていたのだ。山の呼び声、かくなるごとし!!


タイム・テーブル

2001-2002 Scottish Winter @ Torridon 山行タイム・テーブル
時刻 行動 高度(m) 温度(℃) 歩数(複歩)
2001/12/29
(Leicester から Torridonへ)
8:00 University of Leicester発 (ミニバス)
8:50頃 拾ってもらって、Leicester発
16:00頃 Glasgow (靴など借りる)
26:00頃 hut前に到着
28:40頃 就寝
2001/12/30
11:00頃 起床
14:00頃 hut発、ミニバスに乗り込む
15:00頃 バスを降りて、雪上に出発。そり遊び
18:30頃 ミニバスに帰る
パブに行く(女性陣3人とライナスとを除く)
24:50 就寝
2001/12/31
(Sgurr Dubh (782m))
10:20 起床
11:50頃 hut発 85
12:35 小ピーク 520
13:00 200
13:30 昼食 (30分休憩) 3.5 340
14:30 下り始める
15:50 hut着 85
22:00頃 pubへ(全員)
27:00頃 hutに帰る
28:30頃 就寝
2002/1/1
12:20頃 起床
14:40 hut発、ミニバスへ乗り込む (C.Jon はひとり丘へ)
海外沿いのクライミングサイトまでドライブ。海岸を散歩
17:40 hut着
22:10 就寝
2002/1/2
(Liathach/Spidean Choire Leith (1055m))
5:20 起床
7:36 hut発 85
7:51 駐車場 85(s) 5.0
ピッケルを忘れたことに気づいて、hut までひとり戻る
8:08 再びhut
8:17 駐車場
しばらく後、待っていてくれた、トム、ジョン・ボイに追い付く
8:35 トム、ジョン・ボイ、クランポン装着
9:20 皆に追い付く。休憩
ロブ、トム、アイスクライミングへ
351(a) 3.0
9:33
9:39 川を渡る 345
9:58 休憩; サラとポールとに出会う 417(a) 330
10:43 川が二股になる地点 377(s)/
401(a)
4.5
11:03 休憩(10分) 200
12:08 gulley手前、昼食休憩(20分)、クランポン装着 700(a) 5.0
14:43 山頂 1055/
1110(a)
1.0
17:08 昼食休憩の地点、休憩(20分) 1.0
18:18 main path (休憩5分)
18:48 休憩(5分)
20:35 hut着 85 6.0
24:20 就寝
2002/1/3
(hut 西南西 peak (Seana Mheallan方面; 約425m))
9:20頃 起床
13:50頃 出発 85
途中、雪遊び組と分かれる
16:00頃 ピーク (約425m); 20分休憩 425
17:00頃 8.0
18:10 hut 85
22:20頃 就寝
2002/1/4
(Beinn Eighe/Spidean Coire nan Clach (993m))
5:20 起床
6:42 85(s) 9.0
6:52 橋(駐車場) 85
7:15 5分休憩; Spidean Choire Leith組と別れる 970
7:39 渡渉終了 210(a)
8:00 地図にない岩近く(岩の西)。5分休憩 293(a) 8.0 300
8:32 岩(Fuaran Mor付近)の西側 402(a) 10.0 467
9:28 岩の東側; 10分休憩 621(a) 8.5 426
9:47 クランポン装着(まさ) 159
10:13 南北の稜線(Coire nan Clach; 5分休憩) 790(a) 7.0
10:51 主稜線(コル)(10分休憩) 951(a) 5.5
11:27 972m山頂 (休憩)
ここでサラとポールとに出会う
972/
1022(a)
7.0 397
11:48 993m山頂 (20分休憩)
12:?? 972m山頂 972(s)
12:32 クランポン装着(バーニー) 847(a) 6.5
14:19 渡渉
すぐ、アイスクライミング組と合流、雪遊び
345
バーニーは途中で先に帰る
15:40 5.0
16:50 hut 85/
34(a)
5.5
20:20頃 pubへ
23:10 hut
24:05 就寝
2002/1/5
(Leicester へ帰る)
7:20 起床
9:30 バス発
14:40 Glasgow
15:30 昼食の買い込み
18:50 トゥプス降ろす
19:20 ジョン・ボイ降ろす
20:30 夕食
21:30 ロブ降ろす
22:10頃 帰宅

表注:
時刻は、当然、私が基準。特に起床や就寝は人によって大いに異なる。テーブル にない休憩も多い。 高度の表記は、(a)が高度計の読み、(s)が高度計をその高度にセット、それ以外 は地図から読み取った高度。御覧の通り、1000m登って、50m くらいのずれが出 ていた。その間の気温変動は5℃程度。なお、高度計、温度計は、YAESUの無線機 VX-5に付属のもの。歩数は、その前の項目からの歩数(複歩)。


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まさ (正)