2008/05/09--11 コーンウォール/ボジグラン, セネン, チェア・ラダー登山記録/感想文 (by まさ)

[Japanese / English]



総括

山域
Cornwall/Bosigran, Chair Ladder, Sennen
参加者
ローレンス、バーニー、ジョン・M、スティーブ・E、ニール、ダン、トム・Bu、スーミン、ドム、サラ・S、ジョージ、ジム、アダム、トビー、リサ、グレアム・B、まさ
期間
2008/05/09--2008/05/11 (2泊3日)
(以下、リンクは特記しない限り ukclimbing.com へのもの)
  • 2008/05/09 Somerset ...(車)... Chair Ladder ...(車)... Bosigran (hut)
    1. Bishop Buttress/Diocese (61m, VS 4b(20m),5a(10m),4a(23m),4b(8m)); Leader(AL,OF) まさ (1,3pitches), グレアム(2,4pitches)
    2. The Pinnacle/Terrier's Tooth (39m, HS 4b(18m),–(9m),–(12m)); Leader(AL,OF) グレアム(1,3pitches), まさ (2pitch)
  • 2008/05/10 Hut ...(車)... Sennen Cove ...(車)... Minack Theatre ...(車)... Hut
    1. Demo Route (24m, HS 4b(15m),4b(9m)); Leader グレアム(OF), 2nd まさ
    2. Banana Crack (25m, HVS 5c); Leader まさ(Os, Dog), 2nd グレアム
    3. Zig Zag (18m, HVS 5a); Leader まさ(OF), 2nd グレアム
    4. Andrimne (20m, S 4a); Leader グレアム(OF), 2nd まさ
    5. Africa Route (18m, VS 5a); Leader まさ(OF), 2nd グレアム
  • 2008/05/11 Hut ... Bosigran Ridge ... Hut ... Bosigran ... Hut ...(車)... Leicester
    Bosigran Ridge Area
    1. Commando Ridge (Bosigran Ridge) (198m, VD –(26m),–(23m),–(18m),–(15m),–(33m),–(20m),–(33m),4b(30m)); Leader(OF) グレアム (1,8pitches; 2-7pitches MT), 2nd まさ
    Bosigran
    1. Doorpost (56m, HS 4a(18m),4b(12m),4a(26m)); Leader(AL,OF) まさ (1pitch), グレアム(2,3pitches)
    2. Little Brown Jug (64m, VS 4b(22m),4a(18m),5a(24m)); Leader まさ (OF; 1〜2 pitches は1ピッチで登る), 2nd グレアム
    様式: AL = 交互リード, MT = コンテ, O(s) = オンサイト, F = フラッシュ, (A) = (助言少々), G = グラウンド・アップ, Hp = ヘッド・ポイント, D(og) = ザイルぶら下がり, E(s) = 諦める/エスケープ, C(d) = クライム・ダウン
宿泊
The Count House (hut)
天候
  • 2008/05/09 霧時々小雨 (14℃@16:50、13℃@19:50)
  • 2008/05/10 霧 (17℃@14:30頃)
  • 2008/05/11 霧後晴

登山編

1年前に引続き、 5月にコーンウォール(Cornwall)に来る。 1年前と同じような面々だが、 今回はローレンスが取りまとめたものだ。 宿泊も同じく Bosigran (ボジグラン)の The Count House 小屋。

前日はサマーセットのドムの実家に泊めさせてもらう。 ローレンス、バーニー、ジョン・M ら他の地から来た旧友と再会を祝す。

僕は今回、主にグレアムとペアを組むことになりそうだ。 グレアムは、コーンウォールでクライミングは初めてだそうだ。 コーンウォール(の先端部)はイングランドには珍しい花崗岩で有名だ。 グレアムは昨年カナダのスコーミッシュで花崗岩を随分と登って いたく気に入ったと言う。ならば、コーンウォールも気に入るかも?

05/09

僕とグレアムとは、今日はチェア・ラダー(Chair Ladder)に行くことにする。 ここ Land's End 周辺の海岸には岩場が散在するが、そのうち最も有名な三つが、 北海岸のボジグラン、西海岸のセネン(Sennen)、そして南海岸のこのチェア・ラダー。 僕はチェア・ラダーにだけ、一度も来たことがない。今日、どちらにせよ ずっと東からアクセスするので、北海岸だろうが南海岸だろうがドライブの 距離は変わらないので、行くなら今日が最適、という次第(他の連中は、 ボジグランで登っていたようだ)。

ペンザンスで準高速道路を離れて、狭い田舎道(コーンウォールに典型!)をひた走り、 チェア・ラダーに着く。アプローチの普通のウォーキング道で足首を捻る も(なんてありがち……)、なんとかなりそう。急な岩場をクライム・ダウンして 取付に降りる。

最初のルートとして選んだのは、主バットレスの Bishop Buttress にある Diocese (61m, VS 4ピッチ)、 三つ星ルート。VS としては、非常にハードだという。 ガイド本によれば特に第二ピッチが「記憶に残る(memorable pitch)」という ことなので、そのピッチのリードをグレアムに譲って、僕が第一ピッチを リードする。4c。— 4c の連続だった。しかも、途中のレッジからの 数メートルが中間支点が取れず(落ちると、レッジにぶつかる)、ちょっと緊張。 このピッチだけで、立派な VS です! 洞穴の中に半ば入ってピッチ終了。

そして、期待の第二ピッチ。核心(5a)。洞穴の中からルーフ直下を左に 5m ほど トラバースして、そこから上に抜ける。下がすぱっと切れ落ちている 高度感抜群のピッチ。幸い、中間支点には事欠かない。とはいえ、 ぐずぐずしていると腕がつりそうな。真剣な表情のグレアム。 楽しんでるねぇ!
やがて緊張のトラバースを終え、上に登って無事リード終了。

僕のフォロー。ハンドホールドはよい。スタンスも細かいが、悪くない。 高度感は抜群。これは(フォローでなく)リードしてこそ楽しめる ピッチだと感じたところだった。問題なくフォロー。 そして眼下に海を眺めながら第三、四ピッチを交互にリードして、 登り切る。 確かに三つ星ルート、大いに楽しめた。

さて、まだ時間には余裕ある。次のルートとして、 Terrier's Tooth を選ぶ。コーンウォール最上のルートの一つ(!)だという。 3ピッチの HS。ただし、第2、3ピッチは VDiff 級に過ぎず、 第 1ピッチが中間支点に問題のある 4b なのだとか (the daunting first pitch, which requires some commitment; 「身のすくみそうな第1ピッチは、それなりの決意を要する」)。 10m 横から別のアプローチを取ると、VDiff で上まで登ることもできる。

僕らは当然、HS で直登! グレアムに第1ピッチのリードを任せる。 確かにまともな中間支点が取れずに、ちょっと怖そう。とは言え、 所詮 4b、問題なく上まで登り切る。 僕がフォロー、そのまま次のピッチをリード、そして最後のピッチは グレアムのリードで、ピナクルの天辺に突き抜ける!

難易度の示す通り、技術的に難しくはない。しかし登っていく感じがよく、 特に最後に天辺に突き抜けるのが見事なラインだ。確かにこれも三つ星ルートに 疑いない。

終了点のピナクルの天辺からは、僕はロワーダウンしてもらい、 グレアムは懸垂下降でピナクルの下まで降りて、今日の岩登りを締めくくった。 なかなかの一日だった。

05/10

今日は、僕も含めてローレンスら何人かは夕方から晩にかけて、 ランズ・エンド(Land's End)近くの 野外劇場(Minack Theatre)に 行くことになっている。……ならば、どちらにせよそちら方面に行くならば、 近くのセネン(Sennen (Pedu-Mên-Du))で岩登りして、そこから直行 するのが理にかなっている。というわけで、僕とグレアムとはセネンに来る (ローレンスらもセネンに来る、と当初は言っていたのだが、結局、 ボジグランでゆっくり登っていた、と後から聞いた)。

まずは、 Sennenと言えばこのルートを登らなくては、と Demo Route をグレアムに勧める。オフウイドゥスのクラックのルート (24m, HS, 2ピッチ)。 カナダの花崗岩でクラックに目覚めた君なのだから、やっぱこのルートは 登っておかないとね!

そしてグレアム、お約束通り(?)、そのオフウイドゥスの部分で 悪戦苦闘している。あはは。楽しんでるかい? いぇーぃ!

一方、僕は (去年と同じく) クラックに体を挟み込まず、フェイス部分だけ使って軽くフォローさせて もらった。そう、無理にオフウイドゥスで登ることもないのですよ(笑)。 — もっとも、その方が楽しいかもしれないけどね。

次いで僕が、HVS 5c (1ピッチ)の Banana Crack に挑戦。細いクラックを登っていくライン。"優しい"クラックでは ない……(から 5c)。核心は最初の数メートル。ただ、ボルダリング・マットは 1枚で、他にスポッターもいないので、マットにはあまり頼りたくない。 クラックと言うことは、中間支点はたくさん取るには取れるが、腕の力が……。 すぐ落ちてしまった。

その後も、悪戦苦闘。何度休みを入れたか数え切れない。 中間支点を取っては休み、取っては休み。 5メートルの間に 5つほど中間支点を入れて、ようやく上部のガバを掴む。 あとは簡単。ただ、そこまでは難しかった……。うーん、きれいに登れると 思ったんだがなぁ。残念。

グレアムは既にちょっと疲れている模様。そこで次も僕がリード。 遠くからも目につく、ルート名の通りの見事なそそるライン、 Zig Zag を。 垂壁に箱型の窪みが斜めに連なる、シングルピッチの HVS 5a。 見る限りではそう難しくはなさそう。

ひとつの箱から次の箱へと登るのがなんか楽しい。 上部になると……難易度が増してきた。あれ? ふむ、フィスト・ジャムが なんとか極った、それで越える。そして最後はオーバーハング、ただし、 立派なホールドがある。思いのほか楽しめるいいルートだった! 三つ星を進呈したい。

フォローのグレアム、後で曰く、「簡単そうに見えたんだけど、 まさがジャミングを使っているのを見て、『むむむ、そうではないのかも……』と 思った」と。そして実際、その核心はハードで落ちていた。 グレアムの手のサイズでは、フィスト・ジャムは極らなかったという。 確かに、僕でぎりぎりだったから、グレアムの(相対的に大きな)手では 無理か。でも、ということは、ある意味、登り方の読みと言う意味で オンサイトできた(せざるを得なかった)のだから、それはそれで楽しかったかもね? グレアムもいいルートだと僕に賛同してくれた。

この日、アメリカからイングランドに岩登り伝統登攀の旅に来ている、という ペアに会った。ピーク地方などで登った後、ここコーンウォールに来ている、 という。Zig Zag はどうだったか、と訊かれたので、僕ら二人素晴らしかったよ、 と答えると、では、と登っていた。「箱」の中に人が入って登っているのを 見るのは、見るのも楽しい、そんなルートだった!

グレアムが易しいルートをリードした後、最後は僕が Africa Route を登る。 去年、惹かれたのだが、 先客がいたこともあって諦めたもの。 アフリカ大陸の形のような岩を登る VS 5a。 VS としてはハードだが、問題無い。楽しく登れた。

このルートで終わりとするので、フォローのグレアムに、ボルダリング・マットを 一緒に引き上げてもらうように頼む。そうしてグレアムは登ってきたものの……、 途中でずいぶんと手間取っている様子。何をしているのかと思えば、 ボルダリング・マットが簡単に引き上がらず、結局、途中のレッジで 滑車システムを作って、それで引き上げていたそうだ。それはお疲れさまだった。 それくらいなら一旦普通に登ってから、(大回りながら)下降してその道経由で マットを持って登ってきた方が速かったか。まぁ、一旦始めたものは仕方ない、 滑車システムを作るのが最善だったのでしょう。フォローが(そういう機転が きいて技術のある)君でよかった。

05/11

僕らの宿泊は、ボジグラン(Bosigran)へのアクセスに最高の位置にある小屋。 そして、やはりボジグランこそ(セネンやチェア・ラダーに比べても)最高の 岩場と僕は思う。ところが、今回、まだ僕とグレアムとはボジグランで一度も 登っていない。だから最終日の今日は当然、ボジグランで登る。

まず、最初は、 Commando Ridge (Bosigran Ridge)。 8ピッチ、198m の VDiff ルート。 僕は去年登っていたく 感銘を受けたものだ。ボジグランは初めてのグレアムだから、 やはりここから始めないと!

リードはグレアムに任せる。 直下に波しぶきを見ながら直登する第一ピッチの後はコンテに切り替える。 振り返れば、ジョージ、サラ、そしてジム、アダムも登ってきている。 みんな、好きなんですね!

高度感溢れるトラバースの後、 最終第8ピッチだけ、再びピッチを切る。グレアムは 4b の The Armchair を直登。 お見事。 このルート、ここだけやたら難しいのだ(だから敢えて直登しなくてもよい ことになっている)。グレアムと二人、大いに楽しんだ Commando Ridge だった。素晴らしいルートという認識を僕は新たにした。

小屋に帰って昼食後(それができるのが素晴らしい小屋の立地条件!)、 ボジグラン主要部 に行って、岩登り。 まず、ボジグランで最も有名なルートの一つ、 Doorpost (HS, 3ピッチ)を。 僕にとってはこの Doorpost は、 6年前に初めてボジグランに来た時 に暗闇の中で登ったルートであり、またその翌日、伝統登攀で初めての リード(第1〜2ピッチ)をした思い出のルートでもある。 今日は僕が第一ピッチをリード。グレアムがその後の 2ピッチをリードする。

今日、6年前よりはずっと簡単に登れたように思う。……当然か。 豊富な中間支点、高度感、適度な難しさと申し分ない。 ボジグランで最も有名なのもさもありなん。 グレアムも楽しんだようだった。

さて、時間が少し押している。とはいえ、せめてもう一本は登りたい。 グレアムは疲れがたまってきているようなので、僕が VS (3ピッチ)の Little Brown Jug をリードすることにする。最初の 2ピッチは一気に登る。 第一ピッチ、4b のはずだが……意外に難しかった気がする (どうも HVS 5a のヴァリエーションを登っていたようだ)。 でも問題なく速攻で登って 2ピッチ分終える。

次の最終ピッチが核心。最初のトラバースから上に抜けるのがちょっと 難しいか。でも問題ない。最後は、がばのフレークを頼りに直登するのが ハイライト。申し分ない高度感。惜しむらくは、この直登は横に逃げられること。 グレアム共々ボジグランの岩登りを楽しんで、締めとした。

こうして、3日間のコーンウォール岩登り山行を終えた。 充実した三日間で申し分なく大満足だった。 コーンウォールが初めてのグレアムも大いに楽しんだようで何よりだった。 チェア・ラダーやセネンの花崗岩はかなり粗かったのに対し、 ボジグランはずっと細かく気に入ったようだ。しかし、 カナダのスクォーミッシュはそれよりもさらに良質の岩だという。 それはいつか訪ねてみたいものだ!


生活編

ミナック劇場の夕べ

2日目の夕方には、 ランズ・エンド(Land's End)近くの野外劇場であるミナック劇場 (Minack Theatre)に出かけて、 ジャズのショーを楽しんだ。グループは Shirt Lifters。

ミナック劇場は海岸に向かって作られている(ただし、実際の海面よりは ずっと(50m 以上?)高い位置)。ステージが海側にあって、観客は段々になった 場所に座る。つまり、パフォーマーと海の景色との両方が一度に楽しめる なかなかムードあるセッティング。 僕らはショーが始まる日没前に着いて、日没の風景も期待したものだったが、 今日は曇でおまけに霧がかかっていたのがちょっと残念。 とは言え、何とか本格的な雨に降られずにすんで、ラッキーだった ということにしよう。

そして肝腎の Shirt Lifters のジャズもよくて、大いに楽しめた。 特にリードギタリストが出色。見事だった。 岩登りの合間にちょっとした文化的なひと時まで楽しめて、 素晴らしい休暇だった次第だ。


情報編

チェア・ラダー (Chair Ladder)

チェア・ラダー (Chair Ladder) は、コーンウォール(Cornwall)の先端、 ペンウィズ半島(Penwith peninsula)の南海岸、 Gwennap Head (Tol-Pedn-Penwith)内に 位置する海岸沿いの花崗岩の岩場です。

伝説に曰く、魔女マジー・フィギー(Madgy Figgy)がこの岩場の上に腰かけ、 時折、大気の精を呼び寄せて嵐を起こしては船を難破させ、 宝を奪い取っていた、ということです。この岩場はそんな椅子(のような構造)が 連なっていることに名(Chair Ladder)の由来があると聞きます。

ボジグランやセネンと異なり、チェア・ラダーは、陸からその全景を見渡すことは 不可能で、また潮汐の関係で満潮時は取付に達することができない場所も 少なくありません(干潮時の 6時間が目安)。岩は、セネンに似て、 石英が散らばる粗い花崗岩です。主にシングルピッチの Ash Can Gully Area を 除けば、高さおおむね 40〜70m、2〜5ピッチのマルチピッチのルートが主です。

チェア・ラダーへのアプローチは、まず B3315 から狭い支道に入り、その終点に(有料の)駐車場(Porthgwarra car park)が あります(トイレと喫茶店もある)。そこから 400m くらい歩道を歩くと、 崖の上部に着きます。 干潮時であれば、取付まで歩登攀で降りられます。どのルートを登るかによって 降りる場所が違いますし、またその径も必ずしもはっきりしないので 要注意です。

ガイド本

West Cornwall
by Climbers' Club (2000年)
決定版
Cornish Rock
by Rowland Edwards & Tim Dennell (Cicerone社; 1997年)
ダイジェスト

参考リンク

Chair Ladder (@ukclimbing.com)
http://www.ukclimbing.com/databases/crags/craginfo.html?id=218
Madgy Figgy's Chair
http://www.sacred-texts.com/neu/eng/prwe/prwe181.htm
Holidaymaker Publications (潮汐表の出版社)
http://www.holidaymakerpublications.co.uk/
Climbers' Club (長期潮汐予報など)
http://www.climbers-club.co.uk/
Climb誌 41号 (2008/07)の特集記事
http://www.climbmagazine.com/Search.aspx?s=ChairLadder

この文書の先頭へ戻る
「英国での登山的生活」へ戻る
トップへ戻る


まさ