「猿指数」とは、ape index
の訳語です。
端的には、身長に比して腕がどの程度長いかを表した指数です。
日本語はまだ確立していないようですが、「猿指数」を一番よく聞く印象です。
実際、訳語としても一番素直ですね。
ただし、英語にしても、用語の定義もまだ完全には定まっていない様子です (参考: Wikipedia (英語))。 端的には、以下の二つの定義があります。
- 差: スパン - 身長 [cm, inch]
- 割合: スパン ÷ 身長 [無次元量]
スパン(span)とは、クライミングの世界では、両腕を真横に伸ばした時の左腕指先から右腕指先までの最大長を指します。
英語で span
です。
水平方向のホールドがぎりぎり手で届く時は、full span
などと使います。
余談ながら、span
は本来は「全長」、たとえば飛行機だと「翼長」(wingspan)を指します。
ややこしいのは、クライミング以外で、人体に関して用いる時は、通常、親指先から小指先までの最大長(handspan)を指すのですが……。
人間の人体比率として、平均的には、スパンと身長とはほぼ一致するようです。 そのため、以下の表のように判断できます。
方式 | 腕が短い | 平均 | 腕が長い |
---|---|---|---|
差分[cm] | 負 (< 0) | 0 | 正 (> 0) |
割合 | 1未満 (< 1) | 1 | 1以上 (> 1) |
岩登りは、無理を承知で極端に単純化すると、上部のホールドに手でつかんで体を引き上げるスポーツなので、身長があればあるほど有利そうではあります。 とは言え、現実には身長が高い人は平均的には横幅や胴回りもそれにしたがって大きくなる、つまり体重も増える、つまり重力に対抗するのが大変になります。 人間を純粋な三次元体とすれば、数学的には、体重の増加は身長の増加の三乗で効いてきます。 つまり、もし身長が 2倍になれば、体重は 8倍になることになります。 あるいは、身長 150cm 体重 50kg の人を単純に 20パーセント成長させれば、身長 180cm 体重 80kg になります。 クライミングは如何に重力に抗するかが勝負なので、重量が増えれば増える程それは不利になります。 もちろん、体重増に比して筋肉量も増えるならば効果はおよそ相殺されるので、やはり身長が高い方が有利なような気はしなくはありませんが(たっぱの無い筆者の僻もかなり入っているかも?)。
一方、身長が同じであれば、手が長い方が有利そうです。 何しろ、より遠いホールドに手が届くのですから。 猿係数は、まさにそれを表したものです。
論理的には、割合の方が理にかなっていましょうが、現実的には、2014年現在、 英国のクライミング界では、(1) の差分の用法が主流のように見受けられます。
通説としては、猿係数の高い方がクライミングに有利に働く傾向があるとされているものの、2014年現在、まだ完全に決着がつくには至っていないようです。
たとえば、猿係数が高い人は遠くのホールドに手が届くという有利さがある一方、梃子のはたらきが大きくなるため、猿係数が小さい人に比べてより一層の筋肉量が要求されます。 また、腕が長い分、体が岩から離れてバランスを崩し易い、という側面もあるでしょう。
他のスポーツでは、伝説の水泳選手マイケル・フェルプスは +7.5cm(1.04)と高い猿指数を持ち、また NBA(全米バスケットボール一部リーグ)では猿指数が 1未満の選手はごく稀、と聞きます。 一方、たとえば重量挙げだと猿指数が小さい方が有利になるとされています。
顧みてクライミングの場合、数々の性質のルートがあるため、議論はずっと複雑になりそうです。 「一般的傾向」が仮にあったとしても、それは人々が「一般的に」好むルートの傾向の影響もありそうで、その偏りを排除するのは易しい作業ではないでしょう。 ちなみに、現在、世界最高のスポーツクライマーと(おそらく)誰もが認める Adam Ondra は、身長 181cm と極端に高いわけでなく、猿指数も負、つまり腕も長くないことで知られています。 少なくとも、猿指数の低さを自分のクライミングの能力の言い訳にはできない、と言っていいでしょうね!
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