今、 スコットランドで、イギリス国からの独立を問う住民投票が 間近に迫っています(投票日は 2014/9/18)。 スコットランドにいると、当然、その雰囲気をひしひしと感じます。
以下、解説と浅見を書いてみました。
半ば旅行ガイドの雰囲気になっています。お気軽にお読み下さいな。
そして、よろしかったら美しきスコットランドに是非お越しあれ!
英国の中のスコットランド
英国(イギリス国)の正式名称は 「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国 (The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」 です。グレートブリテン島の北部全体、面積にして島の三分の一ほどが スコットランドです。一方、(コーンウォール地方から海峡を隔てた 北側の)同島南西部の面積にして十分の一ほどがウェールズで、 残りがイングランドです。
従って、国としての「英国」を指すときは、英語では
「UK (= United Kingdom)」
が普通です。「英国人」を指す対応する英単語は存在しないので、
敢えて明示するならば、「UK citizen」などと言います
(かなり堅い表現です; 「○○人」以外の表現を使う方がスマート?)。
慣用的には、「British (または Brit)」がよく使われますが、
厳密にはこれは[グレート]ブリテン島の人を指すので、
北アイルランド人は含まれないことになりますか。少なくとも
ブリテン島の人々はその違いを気にすることは稀ですが。
一方、個人のアイデンティティとしては、スコットランド人は 「Scottish (または Scot)」、ウェールズ人は「Welsh」となります。 イングランド人は「English」です。 英語で、「あなたは何人?」という表現は存在しませんが、 もし仮にウェールズ人に「Are you American?」と尋ねれば、 「No, I am Welsh.」という答が返ってくるのが普通です。 「No, I am British.」でも正確ですが、多分、そうは返事しません。 つまり、「英国人」というアイデンティティよりも、 「ウェールズ人」としてのアイデンティティの方が先にあります。 スコットランド人も同様です。
イングランド人が話す場合、
「English(イングランド人)」=「UK people あるいは British」
という意味で使うことは珍しくありません。しかし、
スコットランド人やウェールズ人は、そこはかなり気を配って
使い分けているのが普通です。
なお、北アイルランド人の場合、アイデンティティは、 「アイルランド人 (Irish)」です。 (南アイルランドの)アイルランド共和国と同一視されることになりますが。
というわけで、少なくともアイデンティティという意味で、 英国は四つに分かれています。
しかし、ドーバー海峡を一度渡ると、つまり欧州本土に行けば、 全部一緒くたで「英国」と見なされるのが普通です。 最もよく使われる単語は、「イングランド」に相当するものです。
語源的に日本語と同様ですね。「英蘭」=イングランド。
しかし、ウェブサイトとかだと、どの呼称が使われているか 頭を抱えるんですが……(特に、国名の入力を求められる時!)。 たとえばフランス語だと、
- 「Angleterre」 (「イングランド」に相当)
- 「Grande Bretagne」 (「ブリテン」に相当)
- 「Royaume Uni」 (「連合王国(UK)」に相当)
の三つの可能性があります……。ABC順なら、三つともばらばら。 日本だったら、"Japan"(英独蘭)、"Japon"(仏西)、"Japao"(葡)、 "Japani"(フィンランド)、"Japonia"(ポーランド)、"Giappone"(伊) と似たようなものなのに。
外国人にとってこの四カ「国」の差が一番見え易いのは、
多分サッカーとラグビーのワールドカップでしょうか。英国からは、
イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの
四チームが出場します。
一方、オリンピックの場合、英国全体で一国として出場していますね。
国連とか他のほとんどの国際組織やイベントでもそうかと。
イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの順で、 人口はそれぞれ、5300万、530万、310万、180万人 (2013年現在)、 面積はそれぞれ、13万、8万、2.1万、1.3万平方キロメートルです。 つまり、英国中、人口的にはイングランドが圧倒する一方、土地面積的 にはスコットランドはイングランドの三分の二、ということになります。
参考までに、グレートブリテン島の大きさは、南北の直線距離で約900km、 日本で東京-福岡間の直線距離とほぼ同じです。英国領土の全面積は 日本領土全面積の約三分の二です。
スコットランドの地勢
スコットランドの首都はエディンバラ、一方、人口最大の都市は グラスゴー(60万人; 周辺まで含めた Greater Glasgowで 120万人)です。 いずれも、スコットランド南部、イングランドとの 国境の比較的近くに位置します。国境から車で 1時間弱です。
エディンバラは美しい文化都市として名高く、毎年8月に開催される 芸術祭(Fringe)には英国全土はもとより世界中から人が訪れます。 大晦日のホグマニーのお祭りも有名です。 エディンバラが、スコットランドで旅行者に抜群に人気の地ですね。
それ以外では(大都市なりの観光客を集めるグラスゴーを除けば)、 スコットランド北部一帯を指す自然豊かなハイランドが観光客には 人気です。ネス湖やスカイ島、グレンコーなどの名前を聞いたことが ありますか?
あとは、ローモンド湖、ゴルフの聖地セント・アンドリュースなどが 有名でしょうか。
スコットランドには、目立った産業はあまりありません……。 人口も少ないことですし、漁業、牧畜を中心とする一次産業にも限りが ありますし。
人口密度が低いこともあり、林業はそれなりですが、特に北部は 気候的にヒースの荒野が広がる地が多く、限りがある状況です。 日本のようにびっしりと植林されていることは少なく、むしろ 荒野の一部に場合によっては植林地帯がある、という光景が一般的です。 同様の理由で、農業も牧畜以外は厳しそうな地勢が大半です。 なお、有名なウィスキー(=スコッチ)は、たくさん醸造所があります。
例外として特筆すべきは、英国経済水域内の北海油田です。 (ほぼ?)全て地理的にスコットランドの沖に相当します。 基地都市のアバディーンは、関連産業で特異な賑わいを見せています。 ただし、すでに埋蔵量の限界が見えていて、2020年までに掘削量が 最盛期(1980年代)の三分の一に落ちると予想されています。
人口密度が低いことを生かして、近年は、風力発電所がどんどん 増えてきてはいます。ただし、大規模消費地への距離が相応にあるため、 送電のコストは無視できません。 昔は炭坑が幾つもありましたが、特にサッチャー時代に 多くは閉鎖されました。
それ以外では、やはり観光産業が主になりましょう。 大都市はもとより、特にハイランドは観光地として有名です。 また、スポーツのイベントも少なくありません。
英国でスキー等の冬期スポーツをするならばスコットランド北部、 つまりハイランドに限るのですが……、近年は暖か過ぎて、 雪が少な過ぎたりべちゃべちゃだったりで、欧州本土(アルプスとか) への格安航空券ラッシュとも相まって客に敬遠され、スキー場は 青息吐息の様子です。
気候的には、夏でも長袖が欲しいことが普通です。一方、冬もそれほどは 寒くならず、北部でさえ特に日中は氷点下を割ることは多くありません。 緯度が高いため(南部のエディンバラでも樺太より遥かに北に相当)、 夏至の頃だと、18〜20時間超の日照時間があります。逆に冬は日照時間が 短くなります。
スコットランド、特に西部は、雨が多いことで有名です。
降水量自体は日本に比べて少ないものの、頻度が高く、つまり
からりと晴れた日が限られます。じめじめとした日が多いわけです。
イングランドも似たようなものですが、スコットランドの方が
より雨(の日)が多いですね。
特に冬は、北部では風の強い日が少なくありませんが、日本のような
台風、地震と言った大規模災害水準の自然災害はほぼありません。
総括すると、(スポーツも含めて)観光振興、特に自然を生かした観光が、 スコットランドが最も力を入れている分野と言っていいでしょう。
歴史
長くなったので、別記事とします。 日本人の感覚としては、複雑怪奇です……。
英国議会とスコットランド議会
英国の政治体制は、立憲君主制です。ただし、はっきりと明文化された 憲法は存在しないので、そういう意味で、「立憲」は語弊があるかも。 国王(現在はエリザベス女王)は象徴元首であるとして、すべての 政治的決定は、基本的に議会および議会によって選出された政府に よって為されます。ちなみに、象徴元首の根拠は、1689年の権利章典 (The Bill of Rights)に遡るのだとか。
ただし、法律の文言的には、今でも、国王は一定の政治的決定をできる と聞きます。たとえば、宣戦布告。慣習法の国である英国では、そのような 国王の政治への干渉は現実的に為されない、という前提で政治が行われて いますし、実際、過去長い間、それで問題が起きたことはない(または ごく稀またはマイナー)ようです。 だから、実質上、日本と同様、君主の仕事は象徴的役割に限られています。
英国の国会(連合王国議会)は二院制で、上院である貴族院(House of Lords) と下院で一般選挙で議員選出される庶民院(Hose of Common)とからなります。 貴族院は、もともとは全世襲制でしたが、現在は、大半の貴族院議員は 功なり名を遂げた人がその功績により(独立選出機関の推薦をもとに) 国王から一代限りの爵位を受ける、という形になっています。 貴族院議員の任期は終身で、給料は出ません。 庶民院は、他の国の議会(たとえば日本の衆議院)とよく似ていて、 民主的に選挙で選出され、数年ごとに改選があります。 基本的に、庶民院(下院)の力が貴族院(上院)をずっと上回っています。 現在では、英国首相は必ず庶民院から選出されることと定められています。
さて、1707年のスコットランドとイングランドとの統一の以前は、 スコットランドとイングランドとはそれぞれ独立に議会を持っていました。 統一後、それらは廃止され、ロンドンはウェストミンスターの グレートブリテン議会に統一されました。
1997年、スコットランドで住民投票が行われた結果、 スコットランド議会を設立することが決定されました。 1999年に最初のスコットランド議会が招集され、以来、 4-5年ごとに改選されています。 基本的に、英国議会で定められた法律は、英国全土で効力を持ちます。 スコットランド議会では当然、スコットランドにのみ効力を持つ 法律を立法できます。もし両者が矛盾する場合は、スコットランドでは、 スコットランド議会の定めた法律が優先される、と僕は理解しています。
一方、イングランドには、イングランド議会というものは存在しません。 イングランドのみに影響や効力がある法律であっても、ウェストミンスターの 英国議会で審議、議決されます。英国下院の議席の一割弱(人口に比例)は スコットランドからの議席で占められますから、これは、イングランドの 立法にスコットランド議員が干渉できることを意味します。一方、当然、 スコットランド議会の議決にイングランドは干渉できません。 そういう意味で、少し非対称性があるのが現状で、それへの イングランド人の不満を耳にすることは時にあります。
スコットランドの言語
スコットランドの第一言語は圧倒的に英語です。 相応の訛りはあって、特にグラスゴーなどの地域では強い訛があるものの、 日本語のように動詞の活用が変化することはありません。 いくつか固有の表現や単語はありますが、多くは、慣れれば 聞き取れるようになる、あるいは(ネイティブならば)努力したり 聞き返せば聞き取れる程度です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Doric_dialect_%28Scotland%29
英国の場合、今でも階級社会の名残があり、特に私立の高級学校など だと、上流階級の英語が使用されます。その場合は、スコットランドでも イングランドでも差はずっと少なくなり、端的には、「上流階級の 方言(アクセント)」になります。
スコットランドが独自なのは、一部、ゲール語([Scottish] Gaelic)を
使う人がいることです。イングランドでは基本的に度重なる外国からの
侵略者と同化して英語を喋るわけですが、スコットランドでは
先住ケルト人言語文化が今でもまだ生き延びている現れです。
ただし、それはスコットランドの中でもごく少数派で、ゲール語を
話すのは人口比にしてスコットランドの 1%程度、多くは北西部の
島嶼部に集中している、という統計になっています。
そして、スコットランド地元のゲール語話者の百パーセントが
英語を流暢に喋ります。
逆に、スコットランド人の大多数(99%弱)は、ゲール語を全く解しません。
しかし、それでも、スコットランドの、特に北部では、道の案内看板の 多くが、英語とゲール語との二カ国語表記になっています。 観光名所の説明看板が二カ国語表記になっていることも時にあります。
人口比にして 1%程度でそれも局所的に集中している、ということは、 実質的には、(ゲール語話者の多い島嶼部など一部を除いた)スコット ランドの看板のゲール語表記のほとんどは、見た人の圧倒的多数に とって解読不能か良くても(併記する)意味がない、ことになります。 しかし、スコットランドでは、ゲール語保存に力を入れていて、 莫大なコストをかけてもずっと努力を続けているのが現状です。
以下、この項、言語に関する余談です。
英国には稀少言語絶滅の前例があります。 スコットランド北部と同じく、ローマ人の侵略を免れた 英国最南西部のコーンウォールおよびグレートブリテン島西側の島 マン島には、それぞれ独自のコーンウォール語、マン島語が存在して いました。いずれもケルト語系で、ゲール語の親戚です。 コーンウォール語は 200年前ほどに絶滅し、マン島語に至っては 最後のマン島語を母語とする話者(Ned Maddrell: 1974没)まで 知られています。
スコットランドはその同じ道は辿りたくない、という強い思いが あることと想像します。現在、ゲール語話者の総数は減り続けている そうですが、若い人の間の話者の数はむしろ増えている、と聞きます。
スコットランドのゲール語は、アイルランド語(Irish [Gaelic])および マン島語によく似ているそうです。そして、少し遠めの親戚として、 同じケルト語系のウェールズ語、コーンウォール語、(フランス北西部で 話される)ブリトン語が存在します。いずれも、ウェールズ語を 除けば、話者の数はごく限られます。 いずれも印欧語族に分類される、つまり英語やペルシャ語やヒンズー語と 同じ系統ながら、文法をはじめ大きく異なります。例えば、語順は常に、 動詞→主語→目的語の順だと聞きます。
因みに、スコットランド人は英語で、Gaelic を「ガーリック」のように 発音します。スコットランド以外の人は、英語で「ゲーリック」と発音する 方が普通です。上述したように、アイルランド語を指して Gaelicと 言う場合もあるので、混同を避けたい時は、"Scottish Gaelic"と 呼称します。
最後、スコットランドに住むのに、まして旅行するのに、基本的に ゲール語が喋れないと困ることはありません。 しかし、地名の読み方だけは別です。
スコットランドの、特に北部の、多くの地名はゲール語起源で、表記も、 特に山や川や湖だとゲール語が残されていることが少なくありません。 例えばネス湖は、「Loch Ness」です。"Loch" の "ch" は、ドイツ語の ch に似た破裂音です。片仮名にするのは不可能ですが……、通常は 「ロッホ」と表記されますか。もし仮にこれがイングランドに存在して いれば "Lake Ness"となるところですが……、"Loch Ness"で定着して いるので、イングランド人でさえ必ずそう呼びますね。
北東ハイランドの比較的有名な山の一つ、"Beinn Mheadhoin" が 発音できれば相当なものです。想像できます?
スコットランドの文化 - イングランドとの共通点と相違
さて、スコットランドの人々が独立したい、と主張するくらいならば、 イングランドとスコットランドとで文化にどれほど違いが あるのでしょう?
結論から言うと、少なくとも外部から客観的に眺めるならば、
違いはほとんどありません!
でもそれは、それこそ関東人と関西人との違いがなんぼのもんやねん、
と言うのに似ていましょうか。あるいはフツ族とツチ族との違いとは?
そして、英国の場合、日本に比べてもずっと人的移動が大きいと 観察します。たとえば、一生のうちに、持ち家を三回ほど買い替えるのは 普通です。その際、比較的近くで買い替えることが多いとは言え、 大移動することも少なくありません。たとえば、定年後に 田舎に家を買い替える、という話もよく聞きます。
日本に比べて、土地の人間関係で束縛されることが相対的に少ない、 という要素もあると思います。近所の人間関係が稀薄、というわけでは 必ずしも無く、近所だから○○しなくてはならない、という 文化慣習的・社会的制限が少ない、と言えばいいでしょうか。
旧植民地からの移民、あるいは難民の受け容れも少なくありません。 英連邦の国々は、いずれも今も英国女王を形式的な国王としていますし、 その間の移動には比較的自由度があります。 近い欧州からは、何世紀も前から、相互移住は珍しくありませんでした。 特に欧州連合(EU)が発足、また拡大してからは、少なくとも国籍や 労働許可という意味での障壁が無くなったので、また移民が増えました (英国人が外に出る機会も当然増えました)。
そのためもあるのでしょう、よくも悪くも、英国内の土地土地での 差は、あまり感じられない、というのが正直なところです。
人々の外見と人種
外見から出身地を判断するのは、英国どこであれ不可能です。 白人が多いとは言え、黒人も褐色人種も黄色人種もどこにもそれなりに います。白人に限っても、2000年にわたって色々な人種が混ざり合っている からでしょう、色々な人がいます。金髪もいれば茶髪もいる、青い目の 人がいれば茶色の目の人もいる。背の高い人がいれば低い人もいる……。
仮にギリシャ人と英国人とを無作為に 20人ずつ選んでまとめて、 どちらが英国人集団かと問われれば、多分、見当がつきます。 でも、英国人とベルギー人とであれば、難しいと思います。 まして、英国人とアイルランド人とは不可能です。 いわんやイングランド人とスコットランド人をば。
都会に行けば行くほど、白人以外の人種がよく見られ、 田舎に行けば行くほど逆になる傾向はあります。しかし、 それも程度問題で、どれほど田舎に行っても、日本の地方都市よりは 人種的には国際的だと感じます。
統計的には、スコットランドに比較して、イングランドの方が 平均的に人種の混合が進んでいます。 僕自身は今までハイランドに旅したことは数知れず、移住してから一年近く になりますが、未だ、人種差別を感じたことは一度もありません。 ですから経験上、人々の差別意識が無いという意味では、 スコットランドもイングランド並みに進んでいる、つまり日本とは 比較にならない、と感じます。
「君はイングランド人では無いから、スコットランドでは(差別とかの)問題は無いに決まってるよ!」
言葉
皆、英語ですから、方言、つまりは訛で区別することになります。 中上流階級の場合、前述のように出身地推測は不可能です。 労働者階級の場合は可能です。出身をかなり正確に当てられましょう。 でも、スコットランドだけが特殊なのではなく、たとえばリバプール、 バーミンガム、ヨークシャー出身と言ったイングランド内部でも十分に 区別できます。スコットランドだけ例外扱いする問題ではありません。
名前、固有名詞
スコットランドの人名は、イングランドとは若干異なります。 有名なのは、Mac (あるいは Mc; いずれも「息子」という原義)が 接頭辞として付いた姓です。たとえば MacDonald (マクドナルド)。
他にも、スコットランド人(あるいはアイルランド人)に多い姓が 幾つもあります。たとえば、昨年、テニスのウインブルドン男子シングルを 英国人として 77年ぶりに制した(またロンドン五輪で金を取った) アンディ・マレー(Andy Murray)の姓 Murrayは、 スコットランド出身の姓の一つです。
(姓ではなく)名前も同様で、スコットランドに多い名前がたくさん あります。中には、今では英語圏全域で広く名前として使われる ほど広がったものも少なくありません。 たとえば、"Ian"(イアン)は、ゲール語起源です(英語の "John"に対応、語源的にはヘブライ語の"神からの授かり物")。 スコットランドでは、"Iain" と綴る場合もしばしばあります。
人的交流は何世紀も続いていますし、スコットランドから たとえばオーストラリアに大挙して移民した歴史もありますから、 今では、スコットランド(又はアイルランド)起源の姓を持つからと 言ってスコットランド人とは全く限りません。
名前も同様です。イングランド生まれのイングランド育ちでも、 たとえば祖母がスコットランド出身だから、などの理由で スコットランド風な名前がつけられることはよくあります。 加えて、名付ける時に有名人や流行を追うのは時代を問いませんし、 それに日本のキラキラネームほどではないにせよ、少し 人と違う名前を付ける傾向が見られる昨今、出身地による名前の 違いは少なくなりつつある、と言っていいでしょう。
一方、土地の固有名詞は、ゲール語起源が多いこともあり、 スコットランドの固有名詞は独特のものが少なくありません。 とは言え、移民の歴史を反映して、海外に同様の地名がある(そして そちらの方が現代では世界的には有名な)例も時にあります。 たとえば、オーストラリア西海岸最大の都市のパース(Perth)は、 スコットランド中央東部の同名の市が語源のはずです。
気質
現代では、いずこも、人々の気質が国内の土地土地によって大きく変わる 傾向は少なくなっているように感じます。よくも悪くもテレビやネットや そして教育により、画一的になりがちのような。 地方による違いよりも、都市部と田舎との違いや、あるいは信奉している (ものがもしあるならば)宗教の違いの方が大きいかと。
ただし、スコットランド人の方が、国(スコットランド)への帰属意識が 少し高いとは感じます。イングランド人は、イングランドとイギリス国と を同一視する傾向があるのに対し、スコットランド人はそこはきっちりと 区別する傾向がありますね。
宗教
信心深い人々の中では、キリスト教が圧倒的最大勢力です。 ただし、国民の無宗教化、もしくは宗教の形骸化が急速に 進んでいます。国勢調査によれば、2001年に基督教信者と答えた スコットランド住民が 65%だったのに対し、わずか 10年後の 2011年にはそれが 54%まで落ちています。代わって激増している のが、無宗教と答えた人々でした。
キリスト教の中では、プロテスタント系のスコットランド国教会 (Church of Scotland)が最大勢力です。カトリックがその約半分です。 スコットランド国教会は、イングランド国教会(Church of England)と 名前は共通項があるものの、教義や典礼はかなり異なると聞きます。 イングランド国教会は政治上の問題(直接的には当時の国王の離婚問題)が 主因となってローマ教会(カトリックの総本山)と袂を分かって 創設されたものなので、むしろカトリックに近いと聞きますから。
食生活
現代英国の食は、日本よりもはるかに画一化されています。端的には、 どこの地域でごく似たようなものを食べています。 ステーキ、ハンバーガーであり、ピザであり、印度カレーであり、 中華焼き蕎麦であり。
もちろん、スコットランド独自、というかスコットランドの方が どちらかと言えばポピュラーというものは幾つかあります。 例えば、ウィスキーの消費量はスコットランドの方が多いでしょう。 羊の内臓料理のハギスは、スコットランド名物料理です。
(特に朝食として)オート麦もスコットランドのトレードマークです
小咄。
あるイングランド人がスコットランド人を嘲って言ったとか。
「スコットランドではオート麦を人間が食ってるんだって? ありゃイングランドでは馬の餌だよ! (笑)」
スコットランド人が返して曰く、
「いや、全くその通りです。だから、イングランドは名馬で有名で、 スコットランドは傑人で有名なのですよ。」
○企業
英国の企業の少なからずが全国展開しています。 多少の違いはありますが(イングランドで優勢とか、その逆とか)、 大きく目につくほどではない、という印象です。
通貨
通貨は、英国内と同様の英ポンドです。 発行の管理はイングランド銀行(Bank of England)の管轄です。
ただし、スコットランドで流通している札の印刷はスコットランドの 銀行で行われ、デザインが、イングランドのものとは異なります。
スコットランドでは、イングランドのお札は、百パーセント使えます。 逆にイングランドでは、スコットランドのお札は稀に断られることがあります。 英国では、日本よりもずっと現金のお札に対しての信頼が低いです。 高額紙幣(と言っても 3500円相当)で払えば、(真偽を)念入りに チェックされることが少なくありません。
祝日、祭日
スコットランドとイングランドとでは、祝日の一部の日付が 大きく異なります。
スコットランドでも、クリスマス(12/25)は、家族で祝う、伝統的で 重要な祭日です。しかし、スコットランドで一年の最大のお祭り日は むしろ、大晦日の晩(から元旦朝にかけて)で、ホグマニー(Hogmanay)と 呼ばれます。首都エディンバラでのホグマニーの祭典は世界中から 人が集まります。でも、むしろ村内での各家々での祭りをお互いに 梯子して祝うのが伝統的、という印象を持っています(地域によっても 異なるでしょうが)。 ホグマニーで必ず歌われるのが、 Auld Lang Syne (オールド・ラング・サイン; 日本語歌詞「蛍の光」 [注: 蛍の光は訳詞ではなく、意味は原詞と全く異なる])です。
現代では、スコットランドだけでなく、英国全土はもとより 世界の英語圏全域で、大晦日の定番の歌になっています。
スポーツ
スコットランドには独自のスポーツが幾つかあります。 特にハイランド地方に顕著な印象があります。
なかでも有名で、リーグ戦があるものに、(フィールド)ホッケーに 似た競技、シンティ(Shinty)があります。ちょうどイングランドの サッカーのように、土地の人々が観戦してそれぞれ地元を応援します。
そのようなスコットランドの総合伝統競技大会が、ハイランドゲームズ (Highland games)と呼ばれ、ハイランド各地で開催されます。
他の世界で(もしくは英連邦内で)メジャーなスポーツ、たとえば サッカーやラグビーはスコットランドでも盛んです。 観るスポーツとしても、プレーするスポーツとしても。 そして、アウトドアは、スコットランドの方がイングランドよりも 盛んと言って間違いないでしょう。
音楽
スコットランドには幾つもの伝統楽器があります。 多分、バグパイプが最も有名でしょう。他にも独自の笛や弦楽器が たくさんあり、民族音楽演奏に使われます。
そのような民族音楽演奏される時は、よく、フォークダンスも 一緒に行われます。男女混合の集団で踊るダンスで、 ケイリー(Céilidh)と呼ばれます。
ちなみに、アイルランドでも同様の慣習があります。
スコットランドの地元民は、子供の頃から、何かあるごとに ケイリー・ダンスを踊る機会があり、音楽に合わせた特定のステップ などを自然に学ぶようです。見知らぬ人とも一緒に楽しく踊りますね。 イングランドの人々はどうしたらよいか分からずオロオロする、 つまりは参加を見合わせて横で見ていることになるのが よく見られる光景です。
衣装
スコットランドには独自の民族衣装(highland dress)があります。 特に(主に)男性が着るキルト(kilt)が有名ですね。 タータン模様のスカート(伝統的には下着は着用しない)、 ウェストポーチ、長い靴下、踝に差す短刀などが特徴でしょう。
タータン模様は、属する氏族(clan)によって模様が決められています。 日本の家紋に相当するものですね。
これは、スコットランド人の正式衣装なので、公式の場、たとえば 結婚式、で着ることは全く差し支えありません。むしろ奨励されますね。 それは場がイングランドであっても同じで、たとえばイングランドの 結婚式でスコットランド人がキルトを着て出席するのを歓迎する人は あっても眉を顰める人は見たことありません。
逆に、イングランド人が興味本位で着る、という服でも無いようです。
イングランドで開かれたある宴に参加した時、主賓がスコットランド系
の人だったこともあるのでしょう、服装規定(dress code)では、
「フォーマルな服。キルトを着る資格がある(eligible)ものは、
キルト着用を奨励する」
とあったものでした。「資格がある」が鍵です。
教育
スコットランドの大学は、スコットランド人には、授業料無料です。 しかし、イングランドとウェールズ人は有料です。
イングランド(とウェールズ)で国立大学の授業料が数年前に それ以前の 3倍の年間 9000ポンド(約150万円)に実質上跳ね上がった こともあり、その格差は相当のものがありますね。
なお、イングランドの大学は 3年で卒業が普通ですが、 スコットランドは 4年制です。
土地と公衆の権利
スコットランドの土地の半分を所有しているのはたかだか500人です。 つまり、土地の大半が超大地主の財産となっています。 1560年以来、土地改革が一度もなされていないためで、 この不平等性は先進国中最低、と言われます。
一方、スコットランドで無人の地を楽しむ公衆の権利は法で強力に 保証されています。端的には、何らかの実質的な損害を与えない限り、 誰がどこに行って何をしても構わないことになっています。 極論すれば、誰かの家の裏庭の片隅で(こっそりと)一晩テントを張って 過ごすのも合法です。
アウトドアを楽しむ人々にとっては、スコットランドの法制度は、欧州で 最高級だと聞きます。イングランドの法制度が逆に最低級なのと好対照です。
スコットランドが独立した場合の方針
現在、スコットランド議会の多数派は、スコットランド国民党(SNP)です。 だから、スコットランドが独立した場合の方針は、当座、 同党によって示されているものに準拠することになるでしょう。 以下、その筋に沿って書きます。
法制度
基本的に現在の法制度が継承される、と理解しています。
政府と議会
当然、英国議会から完全独立します。だから、スコットランドが 英国議会に議員を送ることは無くなります。
君主制
英国王(女王)を象徴君主に抱きます。 オーストラリアやカナダと同様の立場の英連邦の一員になる、と いうことだと僕は理解しています。
通貨
現在の英ポンド(pound sterling: GBP [Great British Pound])が 維持されます。通貨発行のコントロールは、現実的に、 現状ママになる見通しのようです。 逆に言えば、ユーロにはなりません。
医療
現在ママ、つまり国民保健サービス(NHS: National Health Service)に よる公立施設による完全無料の治療と、(高価な)私立医療機関の二本立て。
交通
現在ママ、つまり車は左側通行。
経済
おそらく最大の問題は、北海油田の帰属をどうするか、ということに なります。領土領海的にはスコットランドに帰属することになるのが 自然でしょうが。結論は出ていなくて、今後の交渉次第、と理解しています。
軍事
これも難しい問題です。現在のところ、少なくともスコットランド軍は 英軍のように世界展開し、多くの国に軍事介入することは考えていない、 と理解しています。一方、NATO(北大西洋条約機構)の一員であり続ける 意志を示しています。但し、スコットランド国内に核兵器を保持しない、 という条件です。スコットランド国民党は核軍縮、廃絶を支持しています。
外交
欧州連合(EU)の一員であることは、独立のほぼ条件のようです。
国旗
スコットランドは、現在の青白の斜十字の国旗を使い続けます。 一方、イギリス国旗のユニオンジャックは、イングランドと スコットランドの国旗の融合デザインなので、もしスコットランドが 独立するとそれは居心地が悪いことになってしまいます。 新しいイギリス国旗として、イングランドとウェールズ国旗の 融合デザインが提唱されているのも見かけましたが、 さてどうなることやら。
政治家や各国の反応
イングランドの政治家は、基本的に何も言わないか、独立歓迎せざる、 という意向を直接間接に表明している、という印象を受けます。 キャメロン首相(保守党)、現在野党の労働党(左派)のミリバンド党首とも 後者です。
一般論として、どの組織であれ、誰か仲間が去ろうとする 時に引き止めるのは自然な傾向かも知れません。 この場合、感情的には、スコットランドのイギリスからの独立は、 ある意味では(旧)大英帝国の瓦解と見られなくはないかも知れません。 だから、巨大帝国を夢見る大政治家としては、それは避けたいと いう感情はありそうに、憶測はします。
でもこれは政治ですから、単なる感傷以上のものを読んでみる べきでしょうか。ちょっと試してみます。
現在、英国議会に占める議席数では保守党が第一党ですが、
内訳を見ると、スコットランドでは労働党が圧勝しています。
スコットランドでは保守党は全く人気なく、下院で一議席だけです。
保守党は原則として保守、つまり現在羽振りがよいところを
さらに推進するわけで、これはつまりロンドンなど英国南部に
集中する大企業や金持ちを支持することに他ならない、と
言っていいでしょう。
相対的に貧乏なスコットランドは、極論すれば足蹴にされる
ことになります。中でも、80年代のサッチャー政権下では、
スコットランドは特に冷遇された、と聞きます。
仮に現在の下院でスコットランド選挙区選出議員が単に消えた場合、 労働党は後退し、保守党は、(連立の必要なく)単独で政権を取る ことができます。そういう点で、労働党の独立反対は、党策からは 当然と解釈できます。
一方、保守党の立場としては、スコットランド独立の暁には 北海油田の所有権が危機に晒されること(石油関連会社は 保守党支持のところが多いと理解しています)、 それと搾取できる人口や土地が減ることは嬉しくないこと、などを 考えれば、独立反対は僕には頷けます(穿った見方かも知れません)。
ちなみに、欧州諸国首脳の多くは独立歓迎せざる雰囲気で、 一方、第三諸国の少なからずが、それも悪くないのでは、という 立場のような印象を僕は受けています。 十把一絡げにして乱暴にまとめれば、(旧)植民地宗主国は独立反対、 旧植民地国は賛同、という形と言えなくはないかも知れません。
スコットランド国民の反応
住民投票を間近に控えて、Yes/No で沸いています。 "Yes"とは独立支持、という意味です。
スコットランドの街を歩くと、色々な建物に、大きな「Yes」の 青色と白色のバナーが掲げられています。もちろん、それは、 「独立支持(Yes)」を訴えているわけです。
世論調査の結果を見ると、過去ずっと "No"優勢だったのが、 最近は拮抗している様子です。 蓋を開けてみるまで分からない、という状況に見えます。
思うに、現在の状況では、どちらかと言えば、国民として "No"は言い出しにくいのでは、と感じます。何となく、 "Yes"が愛国心の表現となっている雰囲気があり。 どこの世界でも、「愛国心」が無いのか、と非難し始める 輩はいますからね。英国は、相対的には、そういう意味では 日本よりはずっと正気で大人だとは思うんですが、つまり、 他人が異なる意見を持つことを認める寛容性が備わっている人が 多数派だと思うんですが、それでもそう言った雰囲気が 全く無いとは言えないでしょう。
そういう意味で、街で「Yes」のバナーをよく見かけるからと 言って、すぐに独立支持派優勢を意味するものではない、と 想像します。
個人的印象では、イングランドから地理的にも遠い
ハイランドでは、「Yes」派が優勢な雰囲気を感じます。
あくまで雰囲気ですが。
しかし、一人一票の住民投票では、結局、大勢はグラスゴーと
エディンバラを中心とした南部スコットランドの人々の意見で
決することになるわけで、その雰囲気は僕には不明です。
ハイランドの地元の友人の一人は、少なくとも数ヶ月前には、 「心情的にはスコットランド独立できれば嬉しいけれど、 経済的には自殺行為だからねぇ。」 と言っていたものでした。
個人的感想
スコットランド独立と経済問題
僕自身は経済要素を精査したわけではありませんが、直感的には 「(独立は)経済的には自殺行為」はごもっともな意見かと思います。
特にハイランドでは、人口密度は圧倒的に低いです。 一方で、福祉や公共サービス、たとえば道路や電線を初めとする インフラの整備、ゴミ収集、郵送、医療サービスなどに一定の質は 期待するわけで、それはつまり、人口(つまりは税収)に比して 公共支出がずっと高くなることを意味します。特に冬場の 気候が厳しいだけに、それは尚更です。だから端的には、 ハイランドの人々は、都市部の人々からの税収に頼っている と言っていいでしょう。
英国の収入(税収)の多くは、南部、特にロンドンに集中していると 理解しています。中でも、ロンドン金融街由来のものが目立つかと。 また、スコットランドで見かける小売店の多くが全国チェーンという ことは、その本拠地はイングランド南部(ロンドン他)にありましょう。 だから、スコットランド独立の暁には、それらからの税収の相当部分が 国庫に入らないことになるのでは、と恐れます。もしくは、無理に ねじこもうとすれば、それら企業は単にスコットランドから撤退する 可能性が排除できないかと。所詮、イングランドに比べて人口一割で、 平均人口密度はずっと低いわけですから、割にあわない商売を無理して 続ける動機には欠けるでしょう。
加えて、もし英ポンドにただ乗りするならば、スコットランドは イングランド経済の煽りを直接受けることになります。 自国で通貨コントロールもできないので。 そして、英国経済は金融業にかなり頼っている、ということは、 英国経済は原理的に不安定なわけで、それも不安要素の一つに なりそうです。
経済指標として表れる国民総生産だけが豊かさの指標では無い という指摘も聞きました。それ自体は全くごもっともです。 しかしながら、スコットランド人の現在の生活形態を当座維持する ならば、それは非現実的な議論かも知れません。現金収入が減った時に その生活水準への打撃が少ないような経済形態にはなっていないので。 イングランドと生活形態が基本的に同一、ということは、収入が 減ればその分、豊かさが相対的に減ることになるのがものの道理かと。 国民総生産に現れない豊かさを求めるならば、まず最初に、 国策と生活方針との革新が必要になると思います。
ただし、国庫収入が減っても、もし現代の英国政府のように、 たとえば軍事や(特に保守党の)金持ち優遇政策で、無駄遣いしなければ、 結果的にトータルで見て豊かになることはあり得ます。理論的には 十分可能でしょう。人口が少ない、つまり政府が小さい、ということは、 原理的には小回りが利くわけで、それは不可能ではないかも知れません。
そして、もしスコットランド人が現在の水準での政治への興味を 持ち続けたならば、それが可能な政府を作ることは不可能ではない かも知れません。
理想論
一般論として、僕自身は、ジョン・レノンが歌ったような国境のない世界に 百票を投じます。単に旅行者としてさえ、欧州諸国の国境の壁が 低くなり、通貨が統一されて、どれほど素晴らしいと思ったことか。 ましてその中で働いていた時には、(欧州の市民権を持っていない 自分には)今でも残る壁がどれほどうざったかったことか。
欧州連合(EU)が成立してから、欧州市民の自由度は格段に向上しました。 僕はそこに世界の未来を見ます。同じように、僕が生きている間に、 EUと同じような東アジア共同体が成立したらなぁ、と夢を見ます。
庶民にとっては、国境の壁は、経済活動つまりは生活の妨げにしか なりませんからね。そしてそれはある程度は、企業にとっても 同じことかと。実際、欧州統合することで、バラバラのママだと 経済的斜陽の共倒れを避けられなかったであろう欧州が、 存在感をもって復活してきました。
実際、経済活動を考えた時には、活動単位が小さくなり過ぎるのは 間の事務のコストの増加だけ招いて非効率的です。たとえば山岳地帯に 住む人々が海産物を食べたいとする時、人口塩湖を作って養殖するのは 一案、海産物に恵まれた国から関税をはじめとする複雑な手続を経て 輸入するのもまた一案ですが、単に国内の海岸地域から海産物を 買い付けて輸送する方が遥かにオーバーヘッドが少なく安価で効率的、 つまり財布に対しても地球に対しても優しい行動です。
あるいは、食料自給率を向上することは、多くの国で大切な課題になって います。その根本にある動機の一つは、食料安全保障ですね (フードマイレージという意味での環境への負荷は置いておきます)。 しかし、たとえば東京都千代田区の食料自給率を 100%にするために 千代田区の真ん中に広い農地を作ろうとする考えは馬鹿げています。 千代田区以外の東京都やさらには周辺県で、千代田区の人々を養える だけの十分な食料生産ができて、千代田区がそれを信頼して当てに できるならば、それで十分です。千代田区には千代田区の役割(政治なり、 企業の事務なり)があるわけで、生活のすべてを千代田区内で自給する 必要はありませんし、現実上も不可能です。石油一滴産出しませんしね!
同じ国内ならば、そうしてお互いに補い合って賄うことが自然に できます。細かく国境を区切れば区切るほど、それができなく、あるいは 不自由になり、全体としてみた時に大いなる無駄、損失となりましょう。
もちろん、国境を無くすためには、たとえば法や制度の違いなど、 乗り越えるべき壁が山のようにあることは重々承知しています。 単に国境を開いてたとえば(国の基準にはるかに及ばないような) 危険な食品や機器がノーチェックで入ってくるのはもちろん困ります。 だから、その前に無数の話合い、交渉と折合わせが必要になるのは当然です。
その過程を相当経てきた欧州連合にせよ、未だもって理想には 程遠い状態であり、まして東アジアだとさらに話は難しいことは 間違いありません。さらに国際的なレベルでは、国際連合は うまく機能しているとはとても言い難い状況です。それを重々 承知の上で、僕は国境の無いまたは少ない世界が未来のあるべき姿 だと思うのです。
しかしながら、その一方で、たとえば旧植民地国やあるいは何らかの外的 政治力学によりまとめられた国々が分離独立することは、動機として よく理解できます。古くはアフリカの年のように、比較的近年では ベルリンの壁崩壊後に東欧諸国、バルト海諸国が相次いで 分離独立したように。
現在搾取されている人々が、その搾取を脱することを欲するのは 当然過ぎます。その一環として、あるいは少なくともある意味では 手段として、自らの行く末を決める自治権を求めるのはこれも自然です。 そして、同地のそういった人々がその方向性を目指すのには、 拍手こそすれ、批判する理由はありません。
その二つを考え合わせると、世界の方向性は、まずは分離独立、 そしていずれは統合の方向に進むのが最善でしょうか。 欧州連合は、その後者の最初の大規模な試み、つまり世界の 最先端を走っているのかも知れません。
スコットランド独立問題への個人的意見
顧みて、スコットランドはどうでしょうか。
何世紀も前のことは当座置いておき、現代の政治状況を考えます。 第三者から見て、スコットランドが不当に搾取されているとまで 主張するのは言い過ぎのように思います。
ただし、資本主義世界の倣いとして、金があるところが優遇される 傾向は英国でも強くある次第で、結果的に英国政治の中で スコットランドは、たとえばイングランド南部に比べて、 冷や飯を食わされてきた側面は否定できないでしょう。 特に保守党政権下時代には。 実際、"Yes"を声高に叫ぶ人々はその点を強調します。
もちろん、スコットランドも英国議会に議席を持つ以上、国の方針に 影響を与えることは可能ではあります。とはいえ、人口的に一割程度で ある以上、影響力はあっても限定的にならざるを得ません。
スコットランドは独自の議会を持つ以上、少なくとも立法的には スコットランドに相応のコントロールを敷くことが可能です。 とは言え、英国全体の方針の影響は受けざるを得ないわけで、 特に経済活動的には限界があるのはまた事実でしょう。 たとえば、英国政府/議会が大規模な海外軍事派兵を決定した時、 スコットランドは反対だからそれにスコットランドからの 税収は使うな、とは要求できないでしょう。あるいはその決定に 必然的に伴う軍事費以外の緊縮財政の影響を、スコットランドだけ 受けないはずもありません。
またそれと別問題として、スコットランド人の少なくとも無視できない 割合の人々のイングランドに対する屈折した感情が、第三者の僕の 目に奇異に映るのはまた正直なところです。
なお、興味深いことに、逆はほとんど感じません。つまり、イングランド人 がスコットランドに屈折した感情を持っているとは感じません。 スコットランド人のイングランドに対する屈折した感情に触れた時、 それに対する反応としての感情の発露を別にすれば。 そういう意味では、これは一方通行的な感情とは言えます。 もちろん、それはある意味では、強者が弱者のことを歯牙に かけないというだけ、と言えなくはないかも知れません。 だから、単にスコットランド人だけの問題とは断言できません。
以上を鑑みて、以下がこの問題への僕の見方の結論です。
スコットランドが現状で(英国から)不平等に搾取されていない、 という立場に立てば、独立することで経済活動に国境という縛りを かけるマイナスは、国民自決(←民族自決と言えるほどの境界は無い)の プラスを上回ることは無いことになります。不満があれば、 今の政治制度内で、変更したいところを変更していくように推進する ことで対応できるわけですから。
一方、相対的に経済力に劣るスコットランドは英国政治で冷遇されて いるという事実を重く見るならば、自決の意味はあることになりますし、 独立することでその頸木を脱するプラスが経済的マイナス面を 凌駕する可能性はあります。ただし、独立スコットランドが 同じ資本主義である以上、同じ轍を踏まないよう、つまり経済的に 相対的に豊かなスコットランド南部(エディンバラとグラスゴー)を 重視してそれ以外の地方を軽視することのないよう、細心の注意を払う ことが絶対条件です。
加えて、スコットランド国民の無視できない割合の人々の
イングランドに対する複雑な、おそらくは何世紀にもわたって
続いてきた、屈折した感情を考えると、他のマイナス面を考えても
独立する意義はあるかも知れません。マイナス面を受け容れる
覚悟があることを前提に。
ただし、この点の難しいのは、格段そういった屈折した感情がない
スコットランド人も、もし独立した時には、独立のマイナス面を
必然的に受け容れざるを得ないことですが。
個人的には、現在、あるいは過去15年の英国の政治には感心して いません。現在の保守党政権はもとより、その前の"ニューレーバー" 労働党政権にも。米国の拡大軍事政策に乗って、世界中に無駄どころか 有害な軍隊を派遣して大量の無辜の市民を殺戮するために国民の税金を 湯水の如く浪費し、その一方で国内の金融界の一部に大量の税金を 無駄につぎ込み、また貧富の差を拡大させてきたその政治政策を、 僕は支持しません。スコットランドが英国を離脱することで、英国の その傾向にもし歯止めがかかるならば、加えて新生スコットランド がその轍を踏まず、民衆による民衆のための政治に専心するならば、 僕はスコットランド独立を歓迎します。
言うまでもなく、個人的には、しがない僕がスコットランドに平和に 住み続けられることが第一条件になりますが。
そして、将来的には、独立の何十年かあるいは一世紀後に 国民感情の融和が整った頃、再度統一が行われることを望みます。 その統一が、イギリスという形か、欧州国という形か、あるいは時の 世界政府のもとでの統合、という形になるかは問わず。
結論を一言でまとめるならば、以上のような幾つもの条件の上で 僕はスコットランド独立を歓迎します。逆に、条件が成り立たない ならば、僕は独立を歓迎しません。 そして、条件が成り立つかどうかは、無責任ながら僕には分かりません。 おそらく誰にも分かりません。
選挙権がない僕としては、今後の成り行きを注視しているところです。
(2014-09-08)



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